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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第一章 東京

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第二十三話 杉の中

最後の杉のことは気にしないでください。喋る世界線もあります。

   ー大和杉を見ていた観光客の証言ー


 大和杉。噂には聞いていたけれど、これほどのものだとは思わなかったな。

 人間の技術の粋を集めたあのスカイツリーが手も足も出なくて負けている。

 スカイツリーの方はこれ以上伸びないんだろうが、大和杉はまだまだ成長するからな。

 人類がこの杉に勝てる日は来ないんじゃないかと思うほどだ。


 ただひたすらでっかくて、花火の印象なんてどこかに飛んでいってしまった。

 ごつごつとした木肌が光に照らされて存在感がすさまじい。

 正直圧倒されていた。


 だからあれは見間違いかもしれない。

 花火大会帰りらしき浴衣姿の男女が私と同じように杉を見上げていた。


 視界の端に入っていた程度だったから、ことさら注目はしていなかった。

 でも、柵を乗り越えようとしたらさすがに見てしまうよな。

 その時はただ、マナーが悪いとだけ思ったんだ。

 女の子の方が先に柵を越えていた。

 手に金魚の袋を持っていたのに、素早い身のこなしだった。

 ちょっと日焼けが目立ったけど、可愛らしい子だったから、驚いたよ。


 次に男が乗り越えたんだけど、こっちの方は鈍臭そうだったな。


 その二人は大和杉の根元まで行った。

 私もできるなら根元まで行きたかったから、羨ましくなってね。


 もうほとんど柵を乗り越える寸前まで行ったよ。


 だが、いざ柵を乗り越えようとしたらあのカップルはいないじゃないか。

 はてさてどこへ消えたのか。


 私が目を離したのは一瞬だったし、裏に回ったとしか考えられないんだけどねえ。

 でも、一回りしても二人の姿は見つからないんだ。


 え? 柵を乗り越えようとしたから私にも罪がある?

 私は未遂さ。それより、二人が消えた謎を解いてほしいものだね。





 ー片方を追っていると言うその筋の方の証言ー





 その褐色に白髪で浴衣の子だろ。

 そりゃ確かに会っている。

 アニキにぶつかって謝りもしなかった。

 無礼なやつだ。

 もしかしたら謝っていたのかもしれないが、日本語で謝るべきだろ。

 こっちにもメンツってものがあるからな。

 舐めた真似をされたらそれ相応のものを返す。

 それに顔はめちゃくちゃ整っていた。

 いちゃもんつけてうまくすればいいシノギになってくれそうな予感がしたのさ。


 だがまあそううまくはいかねえな。

 連れのあんちゃんが来たかと思ったらありえないスピードで逃げやがった。

 俺も慌てて追ったが、すぐに見失っちまった。


 あれは一端いっぱしだね。

 逃げることに慣れている。


 そういえばあの時から用心棒のやつが震えて使いもんにならなくなったんだが、まさかこのせいじゃないよな⋯⋯? 

 ダンジョンで鍛えたっつう強いやつだったんだが。



  ー直方仁の物語ー


 杉の中に引き込まれた。

 固くサトラの手だけを握って離さない。

 大和杉の中に入れるなんて聞いたこともないぞ。


 目を開ける。

 木の壁が印象的だ。

 通路がそこかしこに抜けていて、どちらに向かえばいいのかわからない。

 右も左も上も斜めも。例えるなら、土の中の小動物の巣穴だろうか。

 土が木になっただけだ。


 昨日潜ったダンジョンにそっくりだ。

 大和杉内ダンジョンか?

 ありえないことじゃない。

 白神山地も富士山も京都もダンジョンになったと聞いている。

 なら、同じ世界遺産である大和杉がダンジョン化していないわけがない。

 今まで誰も知らなかったのは疑問だけど、それは今、関係ない。

 これからどうするかだ。


 祭りで買った金魚袋が落ちて破れる。


 水と金魚が落ちて、そして、鱗が肥大化した。


 ぎょぉぉぉぉぉぉ


 目玉がギロリとこちらを睨む。


 出目怪金魚

 Lv161

 職業 魔法使い

 技能 「空中呼吸」「空中浮遊」「水魔法」

 称号 「魔物化済」


 さっきまで、確かに3cmくらいの可愛い金魚だったはずだ。

 だが、今は、体長10mくらいあるバケモノ魚に変わってしまった。


 こちらを見てパクパク口を動かしている。

 その目からは何も読み取れない。不気味の一言だ。


 ただ、こちらに敵意を向けていることだけは確かだ。口に水が集まってくる。

 水魔法の予備動作だろう。


 どうしろってんだ。こちとら迷宮用装備なんて持ってきてないぞ。

 それどころか浴衣だぞ。戦闘に不向きすぎる。


 あと、しれっと見逃してたけどあの金魚の化け物のLvおかしくなかった?

 世界最高峰のはずのレンさんよりも高い。


 口に水が溜まって、水流が放出された。

 なんとか回避して、サトラの方を見る。


 確か、サトラはもっとたくさんの金魚を捕まえていたよな⋯⋯。



 ぎょぉぉぉぉぉぉ

 ぎょぉぉぉぉぉぉっっっん

 ぎょぉぉぉぉぉぉっっっんんんんん


 出目怪金魚

 lv170

 和怪金魚

 lv164

 怪丹頂

 lv180

 ⋯⋯

 ⋯⋯⋯⋯

 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯


 もうレベルだけわかればいいと思って鑑定は切ったけどやべえ。

 サトラの周りを化け物金魚が取り囲んでいる。

 彼女は浴衣姿のまま槍を取り出しているけど、多勢に無勢な気がした。


 耳障りな怪音を発して、金魚たちが彼女に殺到する。


 槍が振るわれて、血が舞う。


 そちらを見つめてぼうっとしていた俺を、強烈な水流が吹っ飛ばした。



 ーサトラの懺悔ざんげ




 引き摺り込まれた私は、すぐに戦闘態勢を整えた。

 いつもの匂いだ。気を抜いたらこっちを食ってしまう気満々な空間。

 下に落ちるまで散々に嗅いだ匂い。


 だが、袋から出てきた魚が大きくなるとは思わなかった。

 一瞬反応が遅れる。


 次の瞬間には槍を動かして屠ったが、数が多い。

 あいつのことが、脳裏から離れてしまった。


 轟音が響いた。

 ついで、衝撃。


 直方の体が吹っ飛ばされて、私にぶつかる。

 私は大丈夫だが、直方もそうだとは限らない。

 私の体は、丈夫すぎる。

 心配だけども、気にしている余裕はない。こいつらを殲滅しないと。

 とりあえず、こっちに飛んできてくれてよかった。


 もしかしたら彼を守れなかったかもしれなかったから。


 頭蓋を砕いて鱗を引き裂いて血を噴出させて。

 縦横無尽に槍を振るう。

 近くにいてくれたなら直方を守りながらでも殲滅できる。


 二分もかからずに皆殺しにした。


 いつものように周囲に飛び散った血が私の中に入ってきて、疲労が取れる。


 でも足元の直方は、さっきぶつかった時から動いていない。

 意識がない。


 私がこの世界で生きているのは彼のおかげだ。

 彼が死んだら、生きる意味を失ってしまう。


 私は、必死に彼の名を呼んだ。


 私の回復能力が、彼にも効かないだろうか。


 さっきの戦闘音で寄ってきたモンスターを一突きにしながら、私は彼を守れなかったことを後悔するしかなかった。





  ーダンジョンマスターの咆哮ー





 やつのダンジョンが突破されただと。あいつが?

 そんなバカな。ありえない。

 だが、あの女から漂う物騒な雰囲気と、懐かしい気配の残滓は、それを補強するものだった。


 くっ。

 くそ。

 あのでかい顔をして天空城ダンジョンを経営していたあいつはただムカつくだけだったが、それでも同じ世界から来たもの同士、連帯意識はあった。


 それに、わずかに感じるこの気配は、海のあいつだ。

 嘘だろ。あいつまでやられたのかよ。

  陸海空の三大ダンジョンのうち二つがすでに攻略されたってことか。そんなバカな話があるか。

 何かの冗談だ。


 許さない。敵討ちをしてやる。

 俺のダンジョンはこの杉に陣取ったことで、謎の成長を遂げている。

 平均レベル50は上がっているだろう。

 もともとレベルは高い方だと自負している。

 あいつらのダンジョンとはもともとどっこいどっこいだったんだ。

 あれを突破できた程度で調子に乗らないでほしい。

 こっちに転移してきたときに現れたイレギュラーどもがそうそういるはずがない。

 奴らは都市伝説的存在だ。

 その実在が確認できただけでも、悪くはない。

 さすがは世界最大の植物だな⋯⋯。


 まあ、それはいい。


 さて、モンスターどもの出現率とトラップ難度を上げておこう。

 彼女を、殺すぞ。





  ー大和杉の独り言ー




 俺は隅田川で花火をやる時は輝夜と一緒に見ることにしている。

 最近は端末の方と一緒にいることも多くて寂しいが、あれも俺だからな。しょうがない。

 だから下の方にはほとんど注意を払わなかった。

 観光客が来るのはいつものことだし、何人か柵を乗り越えてくるのも珍しくない。

 そう言う奴は敷島でたっぷり絞って反省させるしな。


 あんまり気にするようなことじゃない。

 だが、俺の中に誘導してくるとは思わなかった。

 俺の命令なしにそう言うことをするとはな。

 あのダンジョンマスターの男、やはり殺しておくべきかもしれない。


 ダンジョンが世界中に出来た時、俺の中から変な扉が開いた。

 輝夜と将門、銀狐に大和。この四人に調べに行かせた。


 結局、俺の中にできたのはダンジョンだったらしい。

 俺の中だから、四人とも能力が大幅に上がっていたこともあって、四人は破竹の勢いで攻略。


 その勢いはダンジョンマスターとか言ういつの間にか俺の中にいた男が、途中で降参してきたほどだった。



 銀狐曰く、ダンジョンからは様々な役に立つ品物が産出するらしいので、見逃すことにした。

 ダンジョン内は異空間らしいので、別に俺の体に影響が及ぶこともない。


 それに、ダンジョン内も俺が監視する条件である。

 怪しいことをしたら、すぐに制圧できる。


 ダンジョンマスター側が謎Lv測定器みたいなのを貸してくれたので、計ってみたが、負ける要素がなかった。


 このダンジョンの平均レベルは250だが、将門と銀狐はLv400代。輝夜はLv567だ。大和は⋯⋯。あれはどう考えればいいんだろうな。


 名前 敷島大和

 樹高 637

 職業 なし

 技能「木接続」

 称号「世界最大」「世界一」


 なんか、Lvが樹高になってたし俺だったけど。まあ同一人物だからわかる。

 いやわからねえよ。Lvと樹高が同じとかシステムバグってるだろ。


 まあ、俺のことは気にしないでおこう。


 とりあえず俺の中のダンジョンは、大企業敷島の秘匿領域ということだ。

 ダンジョン産出のポーションやら武器やらは敷島で研究して量産化を狙っている。

 都内の他ダンジョンや海外の有名ダンジョンと比べても俺のダンジョンのLvは高いからな。

 有意義な開発ができている。


 一般人が紛れ込んだら死亡確定な高レベルダンジョンであることはわかってるので、俺の眷属たち以外を入らせないように命令してるんだけどな。

 よっぽどのことがあったのだろうか。

 とはいえ命令違反は命令違反だ。


 輝夜を派遣してとっちめることにしよう。


 あとは、あの二人の様子を眺めておくか。

 少年の方はともかく少女はかなりの実力者のようだ。

 一発目の襲撃をものともしていない。

 輝夜と出会っても面白そうだなこれ。


 神の視点からライトノベルを見ているような感じになってる。

 ちょっと楽しい。


 まあ、積極的に仕掛ける必要もないか。

 ただ見守るだけでいいや。


 とりあえず二人とも死なないでくれ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 大和出てきたァァァ! 同じ世界で前の作品の主人公たちが少し出てくるやつは見るけどさらに新しい展開?設定?的なのを加えた世界の作品ってなかなか見ないからなんか楽しみになってきた。 神様いるかな…
[良い点] 大和杉の話が好きで読ませて頂いていましたが、まさか世界が繋がっているとは! ひとつひとつの世界が繋がった話は、とても好きなので嬉しいです。 これからも応援しています!
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