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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第一章 東京

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第十六話 ダンジョン脱出

 

 ようやく外に出た。

 数時間ぶりの太陽は眩しくて、目を焼いた。


 検問所ではピリピリした空気が漂っていた。

 サトラが無断で侵入したのと、中でゴブリンが数匹、徘徊しているという報告が寄せられたらしい。

 サトラが問い詰められ、たじたじになってしまっていた。

 俺のためにしてくれたことなので入場料と罰金は俺が払うことにした。

 不満そうな職員もいたが、レンが内部で代々木とつながっていたという話をしたので、そちらにかかりきりになってしまった。




 ダンジョン内では通じなかった電波も外では通じる。

 とりあえず、レンと連絡先を交換する。


 Len world


 という綴りらしい。ワールド家ってそのまんま世界か。すごいな。


『じゃあ、説明とかはやっとくよ。また会おう。』


 レンは手を降った。トップ冒険者とは思えないほど爽やかな人格者だった。


 あんまりトップ冒険者がどういう人物かは知られていないけど、全員彼女のような人物だと嬉しい。



 どうも一旦新宿御苑ダンジョンは立ち入り規制が行われるようだ。

 戦闘訓練も受けていない素人が相手するにはゴブリンは厄介な相手だろう。


 俺もサトラが来てくれなかったら死んでただろうし。


 何はともあれ、すでに出たから関係ない。


 一応お金も貯まったし、代々木の一層でも通用する実力があることもわかった。


 着替え施設でサトラは鎧を別の服に着替えた。

 Vネックとデニムパンツだ。俺が買ったのと合わせてもまだ二、三着か。

 もうちょっとあっていいな。もっと買おう。


 御苑を出て、地下に潜り、家までの電車に乗った。

 サトラ用の切符を買わないとな。⋯⋯朝彼女が無賃乗車したかどうかは気にしないことにしよう。

 俺は何も気づいていない。いいね。


 帰りの電車は帰宅ラッシュですごい混雑だった。


「サトラ、手を握っててくれ。」


『わかった。』


 緊急事態だと彼女もわかってくれたようで、なんのてらいもなく握ってくれた。

 それはそれでちょっと寂しいけど、気を許してくれている証だと思うから。


 彼女の手はちょっと硬くて、豆がたくさんあった。

 これまでの過酷な過去を想起させる感触だった。

 思わずぎゅっと握りしめると、彼女も握り返してくれた。


 帰宅ラッシュの間は、人と人の間はないに等しい。

 俺とサトラも同じように密着してしまう。


 俺の頭一つ低いところにサトラの白髪があって、ドキドキする。


 駅についてドアが開く。新たな乗客が詰め込まれる。


 自然とさらに距離が縮まって、彼女の柔らかいところが押し付けられる。


 俺の鼓動が、彼女に届いてしまう。

 近づきすぎて、お互いの表情が見えないのが救いかもしれない。

 ただ、彼女の匂いが鼻に残って俺の心を惑わせた。


 ほどなくして、最寄駅についた。家が近くて助かった。


 ホームは中とは雲泥の差だ。

 東京の通勤電車システムはどうにか改善してほしい。

 朝晩毎日死にそうになるのどう考えてもおかしい。


 サトラも流石に疲れた表情だった。


 無理もない。もう少し時間を潰してから乗った方が良かったかもしれない。


 とりあえずスーパーに寄る。目に見えてサトラは元気になった。現金だ。

 バナナは買うとして、他に好きなものないのかな。

 何が食いたいか尋ねると、里芋を持ってきた。なかなか渋いチョイスだ。


 とろろにでもするか。

 流石に手間がかかるから、煮っころがしあたりが無難な選択肢だろうけど。


 道を歩いて帰宅する。買ったものを持って彼女は上機嫌だった。

 期待に応えて美味しいご飯を作ろう。


『ねえねえ直方。あれって何?』


 彼女が指差したのは花火大会のポスターだった。


 花火が、大輪の花を咲かせている。なんで隅田川のがこんな遠くに貼ってあるんだ。


「それは花火だ。その火の玉がたくさん夜空に打ち上がって、見てると楽しいぞ。」


『確かに楽しそう。私も行きたい。』


 日程は、明日か。いけないことはないな。でも花火大会って混雑するんだよな。


「今日の電車より人が多いぞ。」


『人が多いのは嫌じゃないよ。人がいるのが当たり前になっていく気がする。』


 それは俺にとっては当たり前のことなんだけど、彼女にとってはそうではなかったのだろう。


「なら、明日行くか。」


『賛成。』


 なんか予定が決まった。昨日夏祭りに一緒に行けたらなと思っていたけど、まさか現実になるとは。嬉しいぞ。


 いい感じにオシャレしよう。そうそう。彼女のために浴衣も買わねば。


 俺はすっかりその気になっていた。



 帰宅して、丁寧にご飯を作って、食卓を囲む。

 それだけの出来事で幸せを感じてしまう。


 ダンジョンでの血濡れた経験のせいだろうか、それとも彼女とだからだろうか。

 多分どっちも正解だけど、後者の方の割合が大きいような気がした。


『直方の料理は美味しいね。』


「いきなりだな。」


『味がする。それにあったかい気持ちになる。』


「味がしない料理なんてないだろ。」


『そうでもないよ。』


「⋯⋯これまで、どんなものを食べていたんだ?」


 聞くべきでないことかもしれない。でも、踏み込んでみた。


『保存食とか、ポーションとか、生肉とか、そんなの。』


「ダンジョンのか?」


『そう。』


 彼女は顔をしかめた。

 思い出したくはなさそうだった。


 俺はそれ以上深く聞くことを諦めた。


 ダンジョンでの慣れた様子を見るに探索者として活躍していたのは間違いない。

 問題は、トライヘキサという名前を聞いたことがないことだ。

 国家に秘匿されてる人もいるんだろう。

 だが普通、有力なダンジョン探索者はメディアの露出が多い。

 剣聖だったり、大賢者だったり、勇者だったり。

 その職業といえばこれという人物が必ず存在する。


 積極的に露出しなかったとしてもダンジョンに潜ってる中で遭遇した相手は噂になる。

 レンさんの話もアメリカ軍に強力な冒険者がいるという噂として流れていた。


 でも、トライヘキサの噂は聞いたことがない。

 彼女の称号である血槍姫は、一度彼女とともに戦ったものなら誰しも連想する言葉のはずだ。

 魔物の血を浴びた美しい槍姫。

 それは彼女の魅力であり特徴で、一回見たら忘れるはずがない。


 でも、噂にもなっていない。

 Twitterでも2chでも、FBでもなんでもかんでも。

 噂を流す媒体がこれほど発達している現代において、それは、彼女がダンジョンに潜っていないことを示していた。


 ⋯⋯だが、それにしてはおかしい。その常人を大きく突き放したレベルも卓越した戦闘技術も、ダンジョン以外で身につくとは思えない。


 彼女が来た日に調べたことを思い出した。宇宙船に乗ったという13歳のトライヘキサ。

 もし彼女がサトラだとしたら、宇宙にダンジョンがあったと考えるべきかもしれない。

 そういえば、ダンジョンが出現した時に、衛星写真が撮れなくてダンジョン化したかどうかわからなかった場所が多かったという昔話もあった。


 正直衛星ってなんなのか、もう情報しか俺は知らない。

 空に浮かんでいたらしくて、大人が昔は便利だったというもの筆頭だ。


 それが消えて、幾星霜。

 消えた原因がダンジョンであると仮定するなら、納得できる。

 ダンジョンは出現した場所を全てダンジョンへと変える。

 ビルの基部程度なら、異空に行っても無事だろうが、衛星が異空に行ったらもう働くことはできなくなるだろう。

 そういうことか。

 彼女が俺の前に現れる前、夜空から皮膜が剥がれ落ちた気がした。

 あれは彼女がいた宇宙ダンジョンがクリアされて、崩壊したということだろう。

 つまり彼女は7年かけて、宇宙のダンジョンを攻略してしまったということか。


 俺は、サトラの過去に絶句するしかなかった。



「ようやく気づいたか。遅いな。」

「あっ、あなたは。二話目さん?!」

「ふっ。今後そんな見逃しが起こらないように評価ボタンを押すんだ。評価ボタンを押せば、別の視点から物語を眺めるのも簡単だぜ。」

「なるほど。押します!」


こうして第2話が後に作られたという事実は隠蔽された。めでたしめでたし。

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