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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第四章 アメリカ+

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第百五十二話 羅針盤

 

 すっかりバトルを続けると言う空気ではなくなってしまった。

 玉座に座るのではなく、床に座るダゴンを俺たちは取り囲んだ。


『そう警戒するな。ただ、こちらが勝手な願いをするだけだ。』


 魚人の王の異形から、温和な言葉が響いてくる。

 先ほどの戦闘も相待って、違和感の塊だ。


「⋯⋯願いとは?」


『話が早くて助かる。私は、ある神に力を奪われ、その従者のようなものに成り下がった。そいつを討って欲しい。それが私の願いだ。』


 神殺しだぞ。簡単に言ってくれるなよ。

 クロノスにしろ、夜に吠えるものにしろ、このダゴンにしろ、2度とは戦いたくないぞ。


 こちらの反応が悪いと見たか、ダゴンは言葉を重ねた。


『そこな巫女も同じであろう?あやつに歪められている。』


 巫女=サトラだろう。

 どうしてそうなのかは不明だが、彼女を巫女と認識する者もいる。

 確か夜に吠える者と、フォーマルハウトの炎もそうだった。


 理外の者たちが、皆彼女を巫女と呼ぶ。

 それは間違いなく、彼女の出自に関係しているのだろう。


 その手がかりを、ダゴンは握っている。


「サトラのことを知っているのか?」


『あやつの気配がする強者など、それ以外にありえぬ。しかし、ならば、お前はなんなのだろうな⋯⋯。どの神の気配もしないが。』


 俺のことはほっといてくれよ。

 ただ職業がぶっ壊れていただけの男だよ。


『まあいい。その歪み、間違いなくあやつの仕業だ。元に戻すと言うなら、対決せねばならん。その羅針を授ける。』


 ダゴンは、どこからともなく、大きな方位磁針のようなものを取り出した。

 針が目まぐるしく動いていて、見ていると目が回ってしまいそうだ。


『この空間は、異界だから針は安定していない。だが、脱出すれば、一点を指し示す。その先に、奴がいる。』


 永久指針エターナルポースみたいなものか。

 でもあれって不思議だよね。島が世界の裏側にあったら真下を指すんだろうか。

 それともあの世界は完全な球体じゃないとか⋯⋯?

 でもグランドラインで一周してるしな。球だとは思うんだよな⋯⋯。

 なんなら空島の時は上を指してたし。

 下を向かないとかなのかな。

 わからん。


 とりあえず、神を指し示す羅針盤であると言うことだろう。


『力をつけて、あやつを倒してくれ。英雄の人の子よ。』


「頼みを聞かないとここから出してくれないとか⋯⋯?」


『それも悪くないが、無理は言わんさ。私は一度敗れた身だ。潔く諦めよう。』


 この神様、物分かりがいいな。

 長いこと囚われていたってのもあるんだろうが、それにしても自分の絶対的に優位な立場を投げ出すほどとは。


「とりあえず、預かる。そして、力をつけて、挑むかどうか判断する。」


 ここが落とし所だろう。

 危ない神の所在がわかると言う代物は、ないよりはあった方がいい。

 回避するにせよ、向かうにせよ、情報は力だ。


『ああ。それでいい。』

 ダゴンは重々しく頷いた。


『それでは、お前たちを外まで運ぶとしよう。泡沫の夢のような世界だが、経験としては還元されるはずだ。』


 ここで得た経験点は蓄積されるらしい。


 夢オチなんて最低だからな。

 わかっている。


『英雄の人の子、海神の巫女、他の二人も、神の加護はあるようだ。お前たちの行く末に幸多からんことを。』


 ダゴンは巨大な手のひらを合わせて合掌した。


 水の膜がシャボンのように僕らを包んでいく。


『さらばだ。』


 そのままシャボンの泡はプカプカと僕らを神殿の上へ連れて行った。


 下に大きなダゴンが見える。

 どこからか呼び出した三叉槍を地面に突き立て、こちらを見上げている。


 小さく手を振ると、彼も振り返した。


 好感の持てる神様だった。


 神殿の天井を突き抜ける。


 神殿、港町、農村。

 そして、不自然に降りたとばりの向こうは何も見えない。

 それがこの、不思議な世界の俯瞰図だった。

 ゆるゆると、景色がしぼんでいく。

 この世界の終わりだ。

 灯火の街では、小さな魚人たちが、哀れに逃げ惑っていた。

 やっぱりあそこにいたのは、普通の人間ではなかったのだろう。


 サトラが燃やした森まで見えてなんだかおかしくなった。


 とばりを突き抜ける。


 意識が途切れた。


 ●


 目を開ける。


 目の前にあったのは、古色蒼然とした立派な本の残骸であった。


 ボロボロと崩れて行っている。


 四人と顔を見合わせた。


「あー、覚えてるか?」


『うん。』


『まあ、そりゃあね。』


『最後、意識を失わないことに全神経を注いでいたよ。』


 あの中のことは全員覚えているようだった。


 ことりと音がして、見覚えのある羅針盤が転がった。


 さっきまでは影も形もなかったのだが、まあそう言うこともあるだろう。


 ダゴンの言っていた通り、その針は一点を指してピタリと止まっていた。



『あれ、姉さんたち、どこに行っていたんですか?』


 不思議そうな顔をしながら、リンさんが入ってきた。


 しばらくいなくなっていた扱いになっていたのかな⋯⋯?


「ちょっと、本の中の世界で冒険をね。」


 俺の言葉に、全員笑った。


『はぐらかさないでくださいよ。』


 笑いながら言うリンさんだけは、それが本当のことだとは気づいていない。


 最後に、金の表紙の文字がさらさらと宙に溶けていった。



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