第百四十七話 ガーゴイル
魚人を思わせる石像が動き出す。
エラ張った首筋が空気を取り込んでパクパクと動く。
鑑定を発動する。
ルインガーゴイル
Lv246
職業「番人」
技能「石化」「岩石魔法」
称号なし
他の三体もレベルが少し違うだけで似たり寄ったりのステータスだ。石化にだけは気をつけよう。
「石化。それに岩石魔法を使ってくるみたいだ。気をつけろ!」
俺は今わかった情報を伝えつつ、紅葉刃を構えた。
だが、前に行くのは考えものだ。
土でできたゴーレムには効いたけど、流石に石という属性に「紅変」が通るとは思えない。
俺が積極的に仕掛けるのは愚策だろう。
『私が片付ける。』
とはいえ、サトラがいる時点で心配することは何もなかったかもしれない。
『やっ!』
一突きでガーゴイルを粉砕していた。
さすが人類最強。
サトラに勝つには、硬さが足りなかったな。
『私もやる!』
レンさんの脚に炎が纏われた。
『炎脚!』
とてつもなく硬い音が響く。
『いったーい!』
硬いやんけ。
サトラが強すぎるだけだったみたいですね。
ガーゴイルの動きは、石とは思えない素早さだったが、元の材質の重さは如何ともしがたかったらしく、俺たちより半歩遅い。
『石化。』
ガーゴイルの口が動いた。
ジリジリと、レンさんの肌が白くなっていく。
「レンさん!」
『大丈夫!なんとかするから。』
レンさんは気丈に笑うと、そのまま炎を纏った蹴りを叩き込んだ。
ガーゴイルは苦悶の声を上げる。
岩の部分は大して傷ついていないように見えるが、どうにも、炎が効いているらしい。薄くまとった水を剥がされてそれが辛いみたいだ。
ガーゴイルが本体ということではないのか⋯⋯?
飛んできた岩を余裕で捌きながら、そう考えた。
水が本体。
あり得るな。
砕いた石像は流石に起き上がってこないようだが、レンさんによってかなりのダメージを受けたはずの石像は、これまでとなんら変わりのない動きで、戦闘を続行しようとしている。
ただ、鑑定では、きちんとモンスター判定が出ていた。
基本的に鑑定のことを信じていいと思うが、ここは自分の勘を重視しよう。
その水に向かって鑑定だ。⋯⋯結局鑑定に頼っていることは指摘しないでほしい。
マリオネッタ・ウォーター
Lv312
職業「人形使い」
技能「物理無効」「操作」「水魔法」
称号「ガーゴイルの主」
勘が当たったな⋯⋯。
しかし、足元の水は時間経過とともに増えているぞ。
このままにしておくと、この人形使いの水に飲まれてしまう。
どう考えてもよくない。
物理が無効なら、やっぱり魔法が一番いいだろう。
「サトラ、レンさん。この足元の水を攻撃しないとダメみたいだ。火魔法でなんとかできる?」
『やってみる。』
『私もそれが戦闘スタイルだからね!』
打てば響くような返事が返ってくる。心強い。
しかし、このフロア、徹底的に俺をメタってきているな。
物理が無効になると俺ではちょっと厳しい。千鳥を持ってこれていたのなら、話は違っていたと思うんだけど。
まあ、鑑定がすべての場所で通じるチートだから、大丈夫でしょう。
俺の役割がなくなることはあり得ない。
なんとは言っても職業は主人公だからな。
サトラとレンさんが、火魔法を展開する。
サトラが壊したガーゴイルは二体。
残り二体から距離を取りつつ、サトラとレンさんの火魔法が発動する。
部屋はそこそこ大きいとはいえ、空に出現するほどの業火が発生すると、そこは灼熱に変わる。
熱い。
でも仕方がない。こうでもしないと、倒せる気がしない。
水と火は、相反するものだが、その一方は本体であるマリオネッタ・ウォーターである。水魔法で相殺しようにも、二人分の火魔法だ。出力が違う。
マリオネッタ・ウォーターは徐々に削られていく。
ガーゴイルたちは、マリオネッタが操る余裕がなくなったからだろう。動かなくなった。鑑定してもただの石像状態だ。
どういう形態なのか、興味深いところではあるが、考察している余裕はない。熱すぎる。
マリオネッタ・ウォーターが蒸発するせいで、サウナじみた気候になってきた。
汗がすごい。サウナは裸だから大丈夫なのであって、服を着た状態でやるようなものではないんだよ。
とはいえ、俺には何もできない。
応援することくらいしかできない。応援ならば絶対レンさんの方が強いよ。技能「鼓舞」、俺も欲しい。
主人公なんだから、魔法の一つや二つ、そろそろ覚えてもいいと思うんだけどな。物理特化型かな?
ただ、マリオネッタ・ウォーターの方からこちらに有効打がないようだ。
水魔法も、すぐに蒸発してしまう。
無駄な足掻きだけど、それがどんどんこの部屋の環境を悪化させているので、地味に厳しい。
お前Lv300越えだろもうちょい頑張れよ。
いや頑張らなくていいです。いい加減くたばりやがれください。
この部屋満杯になるはずだった水は全て蒸発した。
蒸発した水は少しくらい出て行ったかもしれないが、ほとんどがこの部屋にとどまっている。
サウナ状態は継続だ。
いや、正面の扉が重々しく開いた。
これでこの門の門番を全員倒したということだろう。
助かった。
俺たちはその蒸し風呂から命からがら逃げ出した。




