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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第四章 アメリカ+

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第百四十四話  神の落とし子2

 

 ぶよぶよの胴体。うねうね生えている触手。

 そして、人の顔。もしかしたら元は人間だったのかもしれないが、ここまでくると、もう怪物と呼んで差し支えないだろう。


 レンさんの鼓舞で乗ったバフのおかげで、いつもより鋭く動く体を走らせる。


 怪物はうめき声をあげながら、炎を放った。

 先ほど技能「暴食」で奪ったものだろう。

 やはり、吸収と放出ができるようだ。

 魔法無効より、たちが悪い。


「サトラ!」


『うん。』


 阿吽の呼吸で、サトラが水魔法を放って相殺する。

 彼女の魔法は、どれも一級品だ。職業魔槍士でもいいんじゃないかと思うくらいにはすごい。


 火魔法から放ってよかった。水魔法の相殺は、困難を極めるからな。


 よし、道は拓けた。

 怪物は、こちらの動きを伺っているのか、魔法に簡単に対処されたからか、固まっている。どちらにせよチャンスだ。

 距離を詰めて一気に叩く。


 ずっとこんな戦い方をしているような気がする。マンネリかな?


 戦いにマンネリも何もない。どれだけ自分の型を押し付けられるかが勝敗を分ける。この形が通用する限り、これを使い続けよう。


 今回の俺の武器は紅葉刃。短剣だ。

 千鳥があれば話は違ったんだが、超接近戦に持ち込むしかない。


 ようやく衝撃から回復したのかめくらめっぽうに振り回される触手を回避する。


 とにかく数が多い。元の数の倍くらい生えている。こちらの動きに対応するために生やしたのだろう。

 向こうも勝とうとしている。

 それくらいの変化は当然であり、織り込み済みだ。


「サトラ、道を!」


『任せて。』


 空間を埋めるほどに殺到する触手。

 レベルで負けて、速度で負けていても、進む道を塞いでしまえば、攻撃は通らない。

 単純だが、強力な答えだ。


 だが、サトラの槍さばきとその威力は、毎度のことながら神がかっている。


 砲弾が着弾したような音がして、触手の一部が吹き飛んだ。奥には本体が、嘘だろと言いたげな顔をして、こちらを呆然と見つめている。


 突貫する。


 レベル700を超えた身体能力にも、そろそろ慣れてきた。


 宙を切り裂くと形容しても間違いではない、そんな速さで俺はそいつに肉薄する。


 慌てて触手を生やしているが、もう遅い。


 その身体能力を使って、一段高い位置にあるそいつの瞳に、俺は紅葉刃を突き刺した。


 体は怪物でも、頭は人のものだ。

 弱点だろうという判断は、果たして正しかったようだ。

 怪物の叫び声が、炭化した森に響き渡る。


 勢い余って飛び越えた俺は受け身をとって地面に転がった。


 すぐに紅変が始まったようだ。

 怪物の口が動かなくなっていく。耳障りな絶叫が消えていく。



 頭の次は、体だ。

 ひどい悪臭を放つそのぶよぶよした身体が、赤く染まっていく。


 匂いが幾分マシになっているのは、紅変により乾燥したからだろうか。


 それでも触手だけは最後までうねうねと動いていたが、最終的には動かなくなった。

 よし。


 Lv400を超える相手にも、危うげなく勝つことができた。

 その事実に顔がにやけてしまう。


 当然のことながら、倒しても、ダンジョンクリアとはいかなかった。

 Lv400が普通にいるダンジョンってなんなんですかね⋯⋯。

 中ボスでこれか。


 ボスのことを考えると気が重いな。


 別にボスドロップのようなものもなかったのでさっさとその場を離れることにした。


 火魔法で盛大に火葬しておこう。


 これで後顧の憂いは無くなった。あとは、ナルデを見つけて、ボスを倒してこのダンジョンを脱出するだけだ。


 ●


「私の技能「探求」で測れないものがこんなにあるとはね。」


 ナルデは自力で、自分を取り戻していた。

 仁たちのことはまだ思い出せてはいないが、自分の力を把握し、興味のままに行動する。

 街に潜む妖も、森の中の妖も、彼女の知らないもの全てに、「探求」を使いながら、彼女は深淵を探っていく。


「ああ。間違いなく、あそこが一番危険で面白い。」


 口角が上がるのがわかる。

 彼女の見据える先には、奇妙な形の岩礁があった。


 ただの岩礁に過ぎぬはずのそれは、しかし、見ようによっては、岩でできたぬらぬらとした神殿のようにも見える。


 大きいようで、小さいようで、形さえも一つには定まらない。


 まるで誘うように、黒い道がそこに続いている。

 海に浮かんでいるのか、海を漂っているのか、ただの漂流物が、そこに集まっているだけか。


「先ほど上で起きた爆発も気になるけど、ひとまず一番面白そうなところに行くとしよう。」


 世界最高の情報屋は止まらない。


 彼女は、このネクロノミコンの中核へ足を踏み入れるのだった。


 それを見つめる瞳は、平べったく、静かに光る。

 海の中、そして、街の中からも。

 たくさんの目が、じっと、その様子を眺めていた。



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