第百四十二話 合流
「とりあえず、現場を確認しよう。俺が覚えているのはナルデが本を広げたところまで、気がついたらこの場所にいた。」
『私はさっきまで眠っていて、起きたら仁がいたよ。その前は、私も本を開いたところまで。』
なるほど。
俺は考え込む。
あの本を開いた結果、不思議な場所に迷い込んだ。
順当に考えるのなら、本の中の世界ということになるだろうか。
童話かおとぎ話の世界だな。
しかし、あのネクロノミコンという本は、そんな不思議なことが起こっても、さもありなんと思えてしまうほどのオーラを纏っていたように思い返せる。
ただ、一つ気になるのは先ほどのモンスターだ。
Lv、職業、技能。全てが、ダンジョンシステムによるものと同一だった。
ということは、これは、ダンジョンであるという説が濃厚だ。
本の中のダンジョン。そういうものもあるのか。
ヨセミテダンジョンのボスLv200。
このダンジョンの一般モンスターLv222。
なかなかの高難易度と言えるだろう。
そこまでモンスターとの遭遇率が高くないのが救いか。
どちらかといえば、こちらをおどかしてやろうという思いが感じられた。
例えるのなら、ホラー系ダンジョンだろうか。
リンさんが来ていたらまずいかもしれない。
本を覗き込んではいなかったようだったから大丈夫のはず⋯⋯。
ここに来た可能性があるのは、俺、サトラ、ナルデ、レンさんだろう。
とりあえず合流を目指したほうがいいかもしれない。
レンさん達の方がわずかにレベルは高いとはいえ、ソロは危険だ。
最悪二人とも倒れてしまうなんてことにもなりかねない。
向こうは向こうで合流できているといいんだが。
「二人と合流を目指そう。サトラはどっちに行くのがいいと思う?」
『私が決めていいの?』
「ああ。俺も大してここに対して知識を持っているわけじゃないからな。俺よりサトラの勘の方が良い結果を産むかもしれない。」
もし、今まで通り過ぎた場所にレンさん達がいたら、見逃していてもおかしくないわけだし。
『じゃあ、こっち!』
「そっか⋯⋯。」
サトラが指し示した暗い森を見ながら、判断を誤ったかなと思う俺だった。
とはいえ一度言ったことを曲げるのはかっこ悪い。
俺たちはその森に進むことにした。
森は暗く、見通しも悪かったが、耳障りな笑い声が響いてくることはなくなった。ひょっとして正解なのか?
森の中にレンさんがいるとしたら、多分炎魔法を撃ってるはずなので、明るい光が見えたらそちらに向かうことにしよう。
下草などが邪魔なので、サトラも火魔法を使った。
ここが本の中の世界なら、ワンチャン紙が燃えて脱出できないかどうかということを期待したいところだ。
しばらく経ったが、炎が燃えるばかりで何も起こらない。
流石にそう甘くはないか。
まあ、もうホラーじみた雰囲気はすっかり消えてしまった。
目の前にあるのは炎に巻かれて苦しんでいる森だ。
ちょくちょく木々が動いていたような気がしたんだけど、あれはトレントだったのだろうか。
燃えている中に悲鳴が聞こえる。
かわいそうなことをしてしまった。
せめて合掌をして見送ろう。
炎の勢いは強くて、俺たちにも迫って来たけど、サトラは水魔法も使いこなすので、水を消火するのはお茶の子さいさいである。
俺は近接特化なので、気にしないでほしい。
うん。これで、レンさんもナルデも、炎を見てこちらに来るはず。
森に入ったサトラの判断は正しかったと言えるだろう。
森を篝火と考えるとは、思考が柔軟だ。
俺は感心した。
そんな俺の様子をサトラは不思議そうに見ている。
思っていた反応と違ったらしい。
とりあえず褒める意味で撫でておいた。
嬉しそうにするサトラが可愛い。
うん。いの一番に彼女と合流できて本当に良かった。
サトラと一緒なら、なんでもできる気がするからな。
さて、状況だが、森が燃えている。
その業火の中に、サトラの張った水膜に覆われて俺たちがいる。
水は蒸発しているが、すぐに追加しているので問題にはなっていない。
MPって概念あるのかな⋯⋯。なさそうな気がする。
それに純戦士ビルドな俺にはあんまり関係ない。
ヴーアの木妖
Lv235
職業 木
技能「隠蔽」「光合成」「伸ばし蔦」
待っているとそこかしこで、日に巻かれたモンスターが死んでいく。
隠蔽は鑑定でも気づかせないようで、死んで初めて、鑑定に反応する。
職業「木」のモンスターは、どうなんでしょうね⋯⋯。光合成に補正がかかるとかかな。人を襲わないのなら、街路樹として植えてもいいかもしれない。
とりあえず、蔦を操ってなんとか火を消し止めようとして、さらに蔦に燃え広がっているのが哀れを誘う。かわいそうなモンスターだ。
まあでも今のところは、順調と言っていいだろう。あとは合流できれば完璧だ。




