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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第四章 アメリカ+

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第百四十話 ネクロノミコン

『ただいま帰ったよ!』


 朝ごはんをご馳走になっているとナルデが帰ってきた。


 ここから都心部まではそこそこ距離があるから、昨日のうちに帰れなかったのもわかる。

 ただ、いつもよりテンションが高いような⋯⋯。

 久しぶりに会う友人というのが、作用したのだろうか。


 ご飯を食べ終わった時点で待ちきれないとでも言うように、ナルデは口を開いた。

『面白い事件があったから、聞いてくれないかい?』


 彼女が面白いと言うのなら相当面白いのだろう。

 俺は、勝手にハードルを高く設定した。


 そうとも知らずに、彼女はそのまま話し始めるのだった。


『大学の友人がいると言っただろう。彼女とはきちんと連絡を取り合っていて、昨日も昼に会う約束をしたんだが⋯⋯。』


 会えなかったらしい。

 慌ててもう一度連絡すると手が離せないと言う返事。

 しかし、久しぶりに会う友人と約束していたのだ。

 彼女の性格から言って、約束を破ることなどあり得るわけがない。


『気になった私は、技能「探求」と技能「借視」を使った。いつもは友人のプライバシーには干渉しないのだが、事態が事態だ。』


 そこで見たのは、摩訶不思議な空間だった。

 物理法則が狂っていて、世にも奇妙な生物が闊歩する大通り。


 月光が曲がりくねって照らしていて、正気を保っていられないような塩梅だ。


 友人はそれを見ないように一心不乱に何かを書き写していたらしい。

 しばらくしたのち彼女がはっと顔を上げると、窓に一つ目で大きな鉤爪を持つ怪物がいて、こちらを覗き込んでいたと言う。


 その記憶はそこで途切れて、しばらくして、彼女の通う大学の図書館に戻ってきた。彼女の手には、古色蒼然とした分厚い本が乗っていた。


 そこまで見て、ナルデは大急ぎでその大学に入り込み、旧友の手からその本を抜き取った。どう考えてもそれが原因だと思ったからである。彼女の力があれば誰にも知られずに侵入することなどお茶の子さいさいだった。


 しばらくして起きた友人は、そこにいたナルデの顔を不思議そうに見やる。


「なんでナルデがここに?」


 詳しく話を聞くと、本を手にとって開いてからの記憶がないと言うことだった。

 ナルデに送った手が離せないと言うメッセージにも心当たりはないらしい。


『不思議だよね。』


「不思議というよりホラーでは?」


 リンさんが震えてるぞ。

 ホラー苦手なんだろうね⋯⋯。可愛いね。


 サトラは純粋に不思議そうな顔をしていて、レンさんは、目を輝かせている。


 リンさんとレンさん、ほんと趣味嗜好が被らないよな⋯⋯。どうなっているんだろう。


『そんな不思議な本がこちらになります。』


「返してきなさい。」


 大学の蔵書でしょうが。


『でも、ほら。禁帯出マークとか付いてないんだよ。図書館で管理されているものじゃないよ。』


「なんでそんなものを友人さんは持っていたんだよ⋯⋯。」


『気がついたら持っていたらしいよ。不思議だね。』


 そりゃ不思議だよ。


 その本は見れば見るほどに古めかしいものだった。

 皮の装丁なんて初めて見たぞ。出るところに出れば、すごい値が付くかもしれない。



 本の表紙には、ところどころ禿げた字で「ネクロノミコン」と書いてある。


 文字自体は日本語とは似ても似つかないから、技能「全言語伝達」の力だろう。


『題名はわからないんだ。』


「ナルデでもか?ネクロノミコンって書いてあるが。」


 ナルデの技能「探求」があればわからないものなんてないと思っていたが、こうなってくると全言語伝達の方がある面では優秀かもしれない。デメリットはオンオフができないことくらいだもんな。


『すごいね仁。お姉さん見直したぞ。』


 ナルデに褒められるのはちょっと嬉しい。


 俺はすっかり気分を良くした。我ながらちょろいのかもしれない。


『ネクロノミコンか。魔道書らしいね。散逸したともどこかの図書館に死蔵されているとも聞いていたけど、これが現物なんだ。』


 ナルデは感慨深そうに言った。


 そんないわくありげなものなのか。

 恐ろしいような。興味深いような。


『開いてみてもいいかい?特に直方、読めるのなら読んで欲しい。』


「わかった。」


 俺も少しは興味がある。


 俺はナルデの横に移動した。


 サトラもちょこちょこっと移動して俺の隣に来る。


 レンさんも後ろから顔を出す。

 興味津々だな。


 リンさんだけは、見ないようにしていた。


 そんな怖がることはないでしょ。ただの本だよ。


『それじゃあ開くよ。』


 ナルデが1ページ目をめくる。


『るるいえ。』


 そんな文字が目に飛び込んで、一瞬で意識が途切れた。


 ●


『あれ?姉さん?』


 誰もいなくなったダイニングで、リンは訝しむ。

 頭が鈍く痛んだ。


「さっきまでもっと賑やかだったような⋯⋯。あれ?」


 何か引っかかったが、彼女は何も思い出せなかった。


 パタリと重い本が閉じる音がした。


 振り返っても、そこには古びた本があるだけで、何もおかしなことはない。

 リンは首を振ってそこを出て行った。


 ネクロノミコンの年月の重みでかすれた文字が陽に当たって金色に光っていた。



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