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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第四章 アメリカ+

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第百三十四話 ヨセミテ1

 

 翌朝。


『というわけでダンジョンに潜ろうと思う。』


「理由の欄が空白なんだけど。」


『ダンジョンに潜るのに理由なんているのか?』


『いいや、いるわけないね!』


 レンさんが力強く同意する。


『さすがは俺の娘。わかっているじゃないか。』


 レンさんとリンレンパパはハイタッチをかわした。

 うーんこの似た者親子。


『私も行きたい。』


 うちのサトラも大概ダンジョンが好きだ。


「なら行こうか。」


 そして、サトラが行くのなら俺も否応なしに行くに決まっている。

 最近、ダンジョン行って、ちょっと落ち着いてまたダンジョンに行くという流れが固定化してきたね⋯⋯。

 冒険者の本分はダンジョンに潜ることなので間違ってない腐る程素材とお金があったとしても、俺たちは冒険を求めて、ダンジョンに潜り続けるだろう。


『私は、留学時代にお世話になった人に会いに行ってくるよ。この辺のダンジョンならば私の力なしでも平気だろ?』


 ナルデはアメリカに留学していて無事だったんだっけか。

 そして、ダンジョン攻略に関してはど正論だ。

 むしろナルデの力があったら、簡単すぎてつまらないまである。


「了解。じゃあ、リンさんは⋯⋯?」


 俺に見つめられたリンさんは頬を赤くして顔を背ける。

 俺の顔何かついていたかな⋯⋯。


『行こうよリン!』

『昔みたいに潜ろうじゃないか!』


 ダンジョン大好き勢のアピールがすごい。


 一応リンさんもこの血を引いているんだよな⋯⋯。

 ちょっと信じられない気がする。



『ハイハイ。とりあえず、ご飯を食べてからにしてください。』


 ママさんが食器を運んできた。


『わかった⋯⋯。』


『ママのご飯は大事だからな⋯⋯。』


 ダンジョン勢が急速に大人しくなった。


 なるほどこれが力関係ってやつか。


 リンレン家庭の序列不動の一位が明らかになったな。


 ママさんの料理は量が多いけど、なんとは言っても美味しいから、宜なるかな、だ。

 胃袋を掴んだやつが強いってそれ一番言われてるから。


 ご飯を食べた後、リンさんは、パパとレンさんの攻勢に耐えきれなくなって行くことに決めた。


 押しが強い相手にはかなわないよね⋯⋯。


 ●


 ヨセミテ国立公園は、東京都の1.4倍にも及ぶ長大な公園である。

 ジャイアントセコイアの群落や、豊富な動植物。花崗岩の絶壁、綺麗な川に落ちる迫力ある滝などが特徴的な、典型的な自然公園だ。日本で言うなら屋久島が一番近いだろうか。

 屋久島には花崗岩も清流も滝も屋久杉もあるからな⋯⋯。

 実質屋久島である。


 そんなヨセミテダンジョンの入り口は、ヨセミテ渓谷と呼ばれている場所だった。花崗岩の岩肌が1000mにも渡る崖を両岸に形成し、そこから下に向かって何条もの滝が落ちている。

 ダンジョン化する前はロッククライミングの聖地として知られ、今でも、登る人がいるらしい。

 アメリカは、日本と同じく、ダンジョンのモンスターの封じ込めに成功しているため、よっぽどのことがない限りは安全だ。とはいえ、全く出てこないというわけでもないため、危険と隣り合わせのクライミングであることは確かなのである。

 岩から落ちる危険と、モンスターに襲われる危険。その二つを承知してなお、岩に登ろうとするクライマーは何かに取り憑かれているのは間違いない。


 まあ、ダンジョンに潜ろうとする奴らも同じようなものなんだけどね。

 自分の命をベットして、その上で掴みたいものが何かの違いでしかないということだ。


 さて、ここのダンジョンは崖の間に入口がある。


 崖の間というより、崖の途中というのが正確だろうか。


 何が言いたいかというと、あなたも私もクライマー。

 ダンジョン行くなら登攀しろと。そういうことだ。

 どういうことだってばよ。


 一応、ちゃんと鎖もあるし、ルートはしっかりしている。

 わずか50mほど崖を登ればいいだけだ。

 まあ確かに1000mの崖からしたら50mなんて誤差みたいなもんだけどさあ。

 それでも普通に20階建てのビルくらいあるんだぞ。

 しかも崖の途中から50m登る感じだから、落ちたらワンチャン550mも落ちる可能性があるわけで⋯⋯。


 やばいね。

 このダンジョンに小さい頃から通ってたレンさんとリンさんはすごいよ⋯⋯。


『ビビったのか?』


 リンレンパパが、含み笑いでこちらをからかう。


「まさか。」


『まあ気にする事はない。見た目よりも傾斜はゆるやかだし、道もしっかりしている。ロープもいらないくらいだ。俺に続いて登ってこい。』



 そう言うやいなや、するするすると、崖上に向かって登っていく。

 本職にも見劣りしないスピードだ。

 さすがはヨセミテダンジョンで生計を立てている探索者だと言えるだろう。


『おーい。来ないのか?』


 リンレンパパが呼んでいる。


 いやでもなあ。これ、結構あるぞ⋯⋯。


『私が行ってみる。面白そう。』


 続くのはやる気充分のサトラだった。


 岩場に足をかけると、手を使うまでもなく軽やかに舞うように、上へ向かう。

 リンレンパパよりも早いペースでサトラは上に到達した。

 さすが人類最強。桁違いの身体能力だ。


『仁、早く。』


 今度はサトラにも呼ばれてしまう。

 後がなくなってきた。


 もちろん俺も、サトラに続くレベルを手に入れているんだから、あれほどとはいえないまでもそこそこ安全に登れるはずなんだけどな⋯⋯。

 でも、この身体能力を手に入れたのは最近だよ?


 本当に行けるのかとても不安だ。


『ビビってるね?まあわかるよ。じゃあ、先に行ってプレッシャーをかけるね?』



 俺がもたもたしている間に、レンさんが登り始めた。

 レンさん、リンさんと合流してから、からかい気質が強くなってないかな。


 サトラほどではないが、パパさんよりもはるかに速い動きだ。


 これもあっという間に入り口に到着した。


『早く早くー!』


 くっ。もう後がない。ここでリンさんにも先に行かれたら、孤独なままに上るしかできなくなる。それはまずい。


『はあ。安心してください。あなたが行くまで私は残ります。初めてなら怖いでしょうから。』


 リンさん実はとても優しいのでは?


『⋯⋯。私も慣れるまで時間がかかりましたから。』


 顔を背けて言い訳をするように彼女は言う。


「ありがとう。」


 これで、思う存分心の準備を行うことができる。


『下は見ないようにしてくださいね。』


 リンさんの忠告に従ってまっすぐに、洞窟の方を見上げる。


 サトラとレンさんが手を振っている。

 かなりの高さだが、いけない事はない。たった50m。今の身体能力なら余裕だ。


 一歩。足を踏み出した。

 うん。思っていた以上に足場はしっかりしている。

 二歩。これなら、もうちょっとスピードを出しても良さそうだ。

 三歩。加速する。

 四歩。このまま行ければ。

 五歩。目測を見誤った。


 六歩。バランスが崩れる。思っていた以上にスピードがついていた。

 レベルの変化に意識がついていけていない。

 七歩。空中に足の置き場はない。


 体が宙に投げ出される。


 嘘だろ。これで終わるのか。


 ショックで体が動かなくなる。


『直方さん!!!!』


 体が軽くなった。


 落ちる速度がゆっくりになる。


 風が横から吹いてきた。

 優しい風だ。

これは、リンさんの風魔法か。


 ふわりと、抱き止められる。


 小さな体に艶やかな髪が広がって、天使のようだと思った。


『ふう。間に合って良かったです。調子に乗りすぎましたね。』


 目の前に、リンさんのホッとした顔が広がる。


「ありがとう。」


 そんな月並みな言葉しか出てこなかった。


『そのまま死なれると寝覚めが悪いですから。』


 ツンとしたことを言っているけど、多分照れ隠しなんだろうと思う。


 そのまま僕らは風に乗ってフワフワと飛んで、みんなの待つ崖の上、ヨセミテダンジョンの入り口に到着したのだった。


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