第百三十三話 リンレンパパと
『⋯⋯ 。ところで、お前らを見てると震えが止まらなくなって来ているんだが、どうすればいい?』
リンレンパパはこちらと顔を合わせないようにしながら、そんな情けないことを言った。
「見ないようにすればいいんじゃないですかね。」
『そんなことできるわけないだろ。それ以前に失礼だし。』
目を見て話すことが礼儀の文化圏の人だ⋯⋯ 。
心当たりがあるのかないのかで言えばある。
一言で言うと、俺が強くなりすぎたこと、だ。
今のレベルは397。
常人を50として、その8倍以上。
自分の8倍強い相手が前にいて、何ができるんだと言う話だ。
単純に8倍と言う話じゃないしな⋯⋯ 。レベル差はレベル差があるときほどに残酷にのしかかってくるってキリトくんが言ってた。
勝ち目が何一つない相手との対面したとき、人はどうするのか。
一番最初にサトラと出会ったとき、とても恐ろしかったことを覚えている。
技能「恐怖耐性」をすぐに覚えたことで、その震えは止まったが、アレは俺の職業効果で覚えた技能だ。
普通の人があんなに早く覚えられるわけがない。
リンレンパパもアレを、今経験しているのだろう。
それにしては、娘をやらないお父さんムーブを完璧にこなしていたから、だいぶ我慢強い方なんだと思う。
リンレンママは鈍い方なんじゃないかな⋯⋯ 。
無意識に目を合わせないようにしてる感。
逆に強者なのか⋯⋯ ?
「レベル差から来るものなので我慢せずに目を背けてください。」
『悔しいんだが⋯⋯ 。』
「レベルが上がれば耐えられるらしいですよ。あと、200くらい。」
『無茶を言うなよ⋯⋯ 。』
●
さすがアメリカというべき家の広さであり、普通に客間もあった。
三人で泊まるには少々手狭だが、リンレンパパの当然俺と一緒に寝るよなという視線に逆らえず、彼の部屋を使わせてもらえることになった。サトラが家に来てから初めての健全な夜である。
不健全な夜にした覚えはないけど。
でも不健全な夜にしたい欲求もそろそろ芽生えて来たな⋯⋯。
慎重に探ってみることにしよう。
『普段は、どんなことをしているんだ。』
「普通にダンジョンを潜っていますよ。」
『それはわかってる。馴れ初めとか、そういう話を聞かせろと言っているんだ。』
近いです⋯⋯。
一応ベッドは広々としているんだけどね⋯⋯。
まあ、とりあえず別段隠すようなことでもないので話すか。
誤解も解けるかもしれないし。
というわけで説明した。
俺が、底辺探索者だったこと。
サトラと出会って、彼女に追いつきたいと思ったこと。レンさんと出会ったこと。リンさんに襲われたこと。サトラとレンさんの三人で旅をしたこと。
ナルデと出会ったこと。冒険したこと。リンさんに再会したこと。
やばい奴を倒したこと。
何が一番おかしいってこれを半年もしないうちに行っているのが一番おかしい。
「ちなみのお父さんのレベルはどれくらいなんですか?」
わかっているけど、とりあえず聞いてみた。
ほら、一般人にあんまりビシバシ鑑定を飛ばすのは失礼じゃん?
『俺はLv140くらいだな。』
うん。間違いなく高いね。
サトラに出会う前の俺のレベルはLv85。基本的に、いくつかの例外を除けば、東京のダンジョンが一番レベルは高いということを考えるに、リンレンパパは、この地域でもトップ層の冒険者と言えるだろう。
ただし現在の俺のレベルは397。職業を勘案しなくてもこの数値である。
そんぞそこらの人々に負けるわけがない。
冒険者育成高校に引き抜かれていった優秀な職業持ちの皆さん、見てるかな?
まあ、見せびらかすつもりはさらさらないんだが。
真の強者は、爪を隠すものだって鷹も言ってた。
『あんたは⋯⋯?』
「俺は、397です。」
⋯⋯早速言行不一致している。
いやでも、リンレンパパは軽率に漏らす方じゃないだろうし、ここに来て爪を隠すのも失礼な気がしたので。
『なるほどなあ⋯⋯。』
そのまま天井を見上げている。
俺は居心地の悪い視線を向けられなくなったので、此れ幸いと眠る準備に入った。
『俺も死ぬ気で頑張れば、娘たちにおいて行かれずに済んだのかな⋯⋯。』
パパがポツリと呟く。
「とりあえず、ママさんを悲しませることはないようにしてください。無理して死んだら元も子もないですから。」
リンさんもレンさんも、今となっては、思い入れのある人々だ。
あの人たちが悲しむようなことは見たくない。
『なら、明日付き合ってくれ。』
「へ?」
『頼むぜ。』
主語が、抜けていますが?!
何をだよ。
そのことを指摘する前に、健やかな寝息が聞こえてきた。
まあ、俺も眠いし、眠るか。
そうそう変なことじゃなければ対応できるでしょう。




