第百三十話 リンレン姉妹の実家
カリフォルニアまでは、飛行機である。
アメリカの国土が広すぎて、五大湖から西海岸へ行く際の最適解はこれなのだ。
なんなら西海岸から同じ西海岸だったとしても飛行機を優先したほうがいいまである。広すぎる。
海外渡航は滅多なことではできないが、国内の方は許されているらしく、ビジネスマンやら旅行する家族やらと一緒になって渡航することになった。
リンさんもきちんと休暇を取れたようで、一緒の飛行機だ。
せっかくなのでファーストクラスに乗ってみたけど、これやばいね⋯⋯。
一生ここで生活しても良いほどの良環境。
高いだけのことはある。
そしてこれもアメリカ軍さんが手配してくれた。
もはやVIP待遇になってない?
大丈夫?
まあ、Lv999の怪物が出てきたらもうどうしようもなかっただろうから、倒した俺たちへのもてなしが豪華になるのは当然かもしれない。
よく考えないでも人類の危機に分類される相手だもんな⋯⋯。
街中に出ただけで、見た人の恐慌を引き起こす触手の怪物。
うん。聞いただけでもやばい。
退治してくれてありがとうと感謝しても仕切れない気持ちの現れなんだろう。
遠慮なく受け取っておこう。
なんか勲章と名誉職をもらえるみたいな話もあったみたいだけど、めんどくさかったので断っといた。
そんなドラゴンを退治した冒険者みたいな⋯⋯。
シチュエーションとしては割と間違っていないんだよな⋯⋯。
まあ、良いや。アメリカ軍に所属する気は無いし。
サンフランシスコの空港で降りて、リンさんの運転する車に長いこと揺られてやってきたのはシエラネバダ山脈の西。ヨセミテダンジョンの近くだった。
シエラネバダ山脈は、アメリカの西海岸と中央高原を隔てる山脈 の一つであり、かの有名なロッキー山脈をも越える標高を誇る、天下の険である。
ここにもダンジョンは多数出現し、冒険者たちが出入りしている。
リンさんとレンさんが生まれたのはそんなダンジョンの近くの町だったらしい。
アメリカ国内でも最難関と言われているダンジョン。
それがヨセミテダンジョンである。
攻略するかどうかは、あんまり気にしないでも良いんじゃ無いかな⋯⋯。
行きたくなったら行こうと思います。
何はともあれ、レンさんとリンさんの実家に到着した。ログハウスだ。
おしゃれというか、思っていたより田舎だというか⋯⋯。
『ただいま!』
『帰りました。』
リンさんとレンさんを先頭に中に入る。
『仲間を連れてきたんだ。』
『お世話になった方達です。』
『あらあら。いらっしゃい。よくきたわね。』
なかなかに恰幅のいいおばちゃんが出迎えてくれた。
二人のお母さんだろう。
「レンさんには日頃からお世話になっています。」
『ご丁寧にどうも。リンの方は?』
「正直まだ仲良くなってはいませんが、まっすぐな方だと思っています。」
とりあえず、言語伝達パイセンがフル回転している。
日本語を話しているのに英語として伝わるし、英語を話されても日本語として伝わるのとても偉いよね⋯⋯。
夜に吠えるものとかフォーマルハウトの炎の言語まで伝達するのはちょっとやりすぎだと思うけど。
『なら、我が家で仲良くなって欲しいわ。』
リンレンママはニッコリ微笑んだ。
太陽のような笑顔だったので、引き込まれて頷いた。
リンさんとレンさんがまっすぐに育ったのもわかるな⋯⋯。
お父さんは夕食で合流するそうだ。
爆速で仕事を終えると息巻いていたらしい。
良い両親だな。
ちょっと実家が恋しくなる。実家に帰りたい。
ノスタルジーと言いたいところだけど、どちらかといえばホームシックが近い。
結局1日しかいれなかったのおかしく無いかな?
とりあえずリンさんとレンさんが昔住んでいたという部屋に案内された。
そのまま写真を見ることになる。
卒業アルバムかな?
ナルデが昔話をしていた場面と似た写真が並んでいる。
カメラマンの練度が高い。
世界地図を描いた布団と、横で泣いているちっちゃいリンさんの写真、とても良いと思います。
すぐにリンさんが隠して見えなくなったけど、一瞬でも俺の目には焼きついた。
真っ赤な顔で首を横に振るリンさんがかわいそうだから、追い詰めるのはやめておこう。
『飲み物を持ってきたわ。あら、昔の写真ね。懐かしいわ。』
リンレンママが参加してきた。
『やっぱり私の一押しはこれね。リンが最後におねしょしたところ!』
嬉々として、リンさんが隠していたアルバムを奪い取って広げる。
『この泣きそうになりながら我慢してるところとっても可愛くてね⋯⋯!』
お母さんやめてやってくれ。娘さん、その写真とそっくりな顔になってるから。
こっちがいたたまれないから。
そんな俺とリンさんの願いも虚しく、レンさんとナルデ、そしてリンレンママはとても楽しそうにリンさんの過去を懐かしむのだった。
一人だけ実際に体験したこともないのにとてつもなく馴染んでいる人がいるね。
まあ、彼女は全て知ってるから……。
サトラも面白そうに聞いている。
リンさんは全てを諦めたようで天を仰いでいた。
俺はリンさんを慰めるべきか迷って、放置を選択することにした。
だってリンさんの幼少期エピソードおもしろいし⋯⋯。




