第百二十八話 森の外
覚醒した。
陽の光が空の中点から照らしている。
昼か。
木々はどこにもないから、ンガイの森から別の場所に運ばれたらしい。
ここは⋯⋯。
『ようやく起きた。』
サトラが上から覗き込んでいる。
安心した。
彼女と一緒ならここがどこだろうと問題はない。
「ここはどこだ。」
『ンガイの森の外だよ。アメリカ軍の陣。』
ついでもう一安心。そんなに長い間意識を失っていたわけでもないようだ。
すぐ近くで目が覚めたってことは一日も経っていないだろう。
「他の三人は⋯⋯?」
体を起こして、あたりを確認すると、サトラだけしかいない。
いや兵士の皆さんはいるから語弊はあるんだけど。
『後始末。あと、再調査をするって。リンは用事があるみたい。』
ナルデとレンさんは再調査。リンさんは軍への連絡だろう。
ナルデがいるのなら、滅多なことではやられないはず。
索敵は力なりだからな。
「サトラは⋯⋯?」
『私は仁のお世話と看病。最重要任務。』
ふんすと力を入れる様子を見せる。
「ありがとう。嬉しいよ。」
『なんでも言って。』
ん?いま⋯⋯。
いや、いい。
元からサトラはなんでもしそうで怖いしな。
唐突にお腹が鳴った。
俺だ。
⋯⋯ うん。昼に突入して、夜になって、もう一度昼だ。
時間の流れがおかしくなっていたとはいえ、お腹が空いているのは間違いない。
『とりあえず食事にしようか。』
サトラはそう言っておかしそうに嬉しそうに笑った。
俺も自然と顔がほころぶ。
一人が嬉しければもう一人も嬉しい。
そんな関係になっているのだと、そう思った。
『ようし。じゃあ、タコ料理を作るよ。』
「タコ?」
『タコ。』
「ひょっとしてあいつ⋯⋯?」
『タコだったよね。』
サトラの瞳に曇りがない。
確かに触手があったし、地球上で一番近い生物はと言われたらタコになるのかもしれないけど。
マジで?あいつを調理するの?調理していいものなの?
サトラはウキウキと準備を始めた。
とても楽しそうで止めるに止められない。
⋯⋯。覚悟を決めるしかない。
数分後。
『できたよ!』
「できちゃったか⋯⋯。」
『焼いてみた。』
生よりはまし。それは間違いない。
大体の生物の肉は火を通せば食べられるようになるんだ。
それはあの想像の埒外の生命体でも間違ってはいないはず。
多分⋯⋯。きっと⋯⋯。
心なしか、周りのアメリカ兵の皆さんが距離を取り始めた。
大丈夫。大丈夫だよな⋯⋯?
よくみたらプリプリとして美味しそうじゃないか。
邪神焼き
⋯⋯美味しい
ほら鑑定さんも美味しいって保証してるし。
名前に関しては全力で見なかったことにする。
俺は何も聞いていないし何も見ていないぜ。
見るからに黒々とした触手が焼かれて丸まっているのは、食欲を減退させるのに十分だ。
ただ、満面の笑顔で、俺に邪神焼きを差し出してくるサトラの姿は、食欲を爆増させる。
ええいままよ。
俺はパクリとそれを食べた。
⋯⋯美味しい。
食感はタコに似ているが、なんらかの栄養が溶け出したような芳醇な味わいだ。
なんの栄養なのかは考えないようにする。
美味しい。それだけで十分だ。
俺がもぐもぐと口を動かしたのを見たサトラは嬉しそうに笑う。
『良かった。食べてくれて。』
「サトラの料理を食べないわけにはいかないからな。」
『美味しい?』
「美味しいよ。」
そう。美味しいのだけは間違いない。
その材料がなんだったのかなんて、気にした方が負けだ。
しばらくサトラと一緒に邪神焼きに舌鼓を打つ。
いつの間にか米軍の皆さんが近くからいなくなった。
俺また何かやっちゃいましたか。
タコを食べる習慣はない国が大半と聞く。
その上位互換みたいなものを食べ始める人がいたら避けられるのも無理はないかもしれない。
二人っきりになれるから俺的にはなんの問題もないんだけどね。
そう言えば、ステータスは上がったんだろうか。
上がっていて欲しいな。あんな強敵に立ち向かったんだから。
直方仁
Lv 397
職業「異世界主人公(召喚予定なし)」
技能「鑑定」「言語伝達」「威圧耐性」「超回復」「加速」「精神力」「料理」「西国無双」「一心同体」「気配察知」「火傷耐性」
称号「異世界主人公」「神殺し」「邪神討伐者」
めちゃくちゃ上がってるな⋯⋯。
397って。100以上上がってないか?どれだけやばかったんだよ。
Lv999にLv500が二体。
うん。やばかったね。
改めてよく生還できたよこれで。
手に入れた技能は火傷耐性か。
フォーマルハウトの炎のせいで、火傷を負ったからだろう。
悪くはない。悪くはないが、もうちょっとくらいあるものだと思っていた。
何かと便利なのはわかるんだけど、もう一声ほしかった。
別に火傷無効でも良かったのに。
でも、サトラは変わらないんだろうな⋯⋯。
名前 トライヘキサ
Lv 699
職業「槍使い」
技能「縮地」「槍捌き」「水魔法」「火魔法」「収納」「人柱力」
称号「血槍姫」「魔物の敵」「ダンジョン踏破者」「滅ぼせしもの」「逃亡者」「中華ダンジョン最強種」「神殺し」「邪神討伐者」
あれ?
上がっている。
ひょっとして邪神を討伐したらサトラのレベルも上がるのか?
それはいいな。積極的に狩るまである。
流石に冗談だけど、そのくらいは言ってもいいだろう。
なんとは言っても、これで俺は、サトラを追い越したのだから。
そう。俺のレベルは異世界主人公による倍増補正を入れて、Lv794。
高い高い壁だったサトラにも、ダンジョン内限定で勝つことができる数字だ。
ついにここまで来たのだと、感慨深い。
『ん⋯⋯?』
こちらを見上げてサトラは不思議そうな顔をした。
俺は彼女の頭を静かに撫でた。
それでも多分、この関係は変わらないはずだから。
守られる関係から、互いに守り守られる関係になって、これが俺たちの理想型。
俺が夢見た彼女の隣だ。




