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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第四章 アメリカ+

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第百二十七話 終結

 

『ぐあああぅぅうううううう。』


 夜に吠えるものの叫び声が静寂を突き破る。


 俺は持っていられない熱さになった二本の武器を手放した。


 夜に吠えるものの胴体の中で、フォーマルハウトの炎が燃え盛っているのを感じる。どっしりとした図体は、内部から赤く赤く照らされていた。


 あれほど蠢いていた触手が、次々と動きを停止する。


 行けたんだろうか。行けてくれ。


 俺の腕は焼け爛れていて、痛みが尋常じゃない。

 これ以上動かせるわけがない。

 一応技能「超回復」の効果で、徐々に再生はしているが、この戦いに間に合うほどじゃない。


 あとはフォーマルハウトの炎と、夜に吠えるもの。どちらの方が強いのかという勝負になる。


『仁!大丈夫?』


 サトラが駆け寄る。

 なんども夜に吠えるものとやりあったからだろう。その体はボロボロだった。




「サトラもひどい怪我だぞ⋯⋯。」


『私はいい。慣れてる。それより冷やした方がいい。』


 サトラの水魔法が俺の腕を包んだ。

 だいぶ楽になる。



 どれだけの超高温だったのか、水が徐々に蒸発しているけど⋯⋯。


 俺の腕治るよね?

 不安になってきたぞ⋯⋯。


 とりあえず、サトラが後ろから支えてくれて、随分と楽になった。

 体重を預けられる相手がいるって素晴らしい。


 夜に吠えるものの叫び声は徐々に弱まっていった。

 炎と生身だったら、基本的に炎の方が相性は良いからな。


 とりあえず一安心していいか。


 まだ燃やし尽くせていないのは流石の耐久力だが、そろそろ限界だろう。


 しばらく待つと、夜に吠えるものの体が、灰へと変わっていった。

 勝った、か。


 いつの間にか、火の玉が俺の近くに来ていた。

 これレベルがあるんだよな⋯⋯。テレパシーも使えるし、生き物なのか。でもどう見ても炎なんだよな⋯⋯。


 不思議だ。

 アテナ様が導き出し、召喚した助っ人なんだから、違うのも無理はないのかもしれないけど。


『我勝感。謝』


「こちらも助かった。」


『我呼。可一』


「これから一回だけ呼んでも良いって?」


『然猶子正。』


「ちょっと意味がわからないな⋯⋯。」


 多分、この炎と会話ができているような気がするのは、言語伝達の力なんだろう。ただ、言語伝達を持ってしても、意味が通じないことがある。

 それほどまでに、この炎と俺たちの種族的距離は離れている。

 それもそうだ。現象と生物が言葉を交わすなんて普通はできない。


『宿。敵打倒』


『叶嬉。至極』


 ただ、あいつを倒したことが嬉しいのは俺たちと同じなんだろうなとは、その炎の様子と伝わってくる言葉の調子でなんとなくわかった。


『再会待。何』


 炎は揺らめいて消える。

 あっけない別れ。

 そのあとは、焼け焦げた触手の化け物と、赤く染まった小さい化け物が二体だけだ。


 長い夜が明ける。


 まるで時間の流れがいじられていたかのように、朝日が眩しくンガイの森を焼いていた。


 結局こいつらはなんだったんだろう。

 ダンジョンにいた怪物というわけではない、と信じたい。


 基本的にボスが一番強いはずだ。

 こいつ以上のボスがいるのなら、それはもう勝ち目がない。


『お疲れ様。』


 ナルデがゆっくりと寄ってきた。

 リンさんとレンさんも恐る恐る続いた。


「なんだったのかわかりますか?」


『ええ。まあ、でもあとはナルデに任せるわ。』


 アテナ様の気配が消える。


『ふう。大変だったね。』


 バトンタッチをしたナルデはそう言って息を吐いた。


『あれがなんだったのか知りたいかい?』

「もちろん。」


 あんな化け物がこの先何体もいてたまるかという気持ちだ。

 いや、ナルデがそう言う可能性もゼロじゃないから、気は抜けないんだけど。


『あれは、夜に吠えるもの。無貌の神。ナイアーラットテップ。この世界の理の外にいるもの。』


 ナルデの言葉があまりよくわからなくて戸惑う。いや、単語はわかるんだけど、理解ができないというか。


『詰まる所神さ。こちらとの意思疎通に関しては無理だと断言できるのが、アテナ様達との違いかな。』


「話せてたけど。」


『それは君の技能だろう。まさか外なる神とも問題なく通じ合えるとはね。』


 異世界主人公は、どんな世界でもちゃんと言語を理解するからな⋯⋯。

 それと同じだろう。よくわからない神だとしてもいける。


『そして、君が呼び出したのは、フォーマルハウトに封印されし炎。クトゥグア。

 ナイアーラットテップの天敵と呼ばれている。』


「そんな存在がいるなら、一番最初に出して欲しかった⋯⋯。」


『あれも暴走すればここら一帯を焼き尽くしかねないよ。場をきっちり整えてやらねば。』


 俺とサトラが稼いだ時間は無駄じゃなかったってことか。


「それで、他にあんな奴らはいるの?」

『安心しなさい。と言いたいところだけど、そうだね。おそらく、サトラを変えたのはそいつと同種だ。』


「なん、だと⋯⋯。」


『禍々しさというか、秩序を持たぬ混沌として力を振るう様がよく似ている。』


 つまり、サトラを助けるためには、こいつと同じくらいの敵と戦わなくてはならないのか⋯⋯?


 サトラもいるし。なんとかなるはず⋯⋯。

 でもサトラが戦えない可能性もあるんだよな。


 えっ、一人で倒せるのあいつ?


 いや、落ち着け。あの炎はあと一回召喚に応じると言っていたはず。

 はず⋯⋯。

 ちょっと会話が成り立っていたのか不明だけど、俺の理解したところによればそれで問題はない。

 あの炎を軸に考えよう。



『Lv999は、仕様みたいだ。これ以上の力を持っていてもLv999を上限として固定される。ダンジョンというものを持ち込んだ奴はそれが狙いだったんじゃないかな。』


 神であればLv999固定にするということだろう。地球の神がいかに多くても、Lv999ならいつか届く。それまで自分の牙城を増やしていけばいい。こちらの世界に利益を与えれば、神も積極的には潰しに来ない。その間に勢力を拡大する。

 そういう狙いだったのかもしれない。

 まあ、もうご破算になってるけどね。

 捕まっちゃったから。


 途中まではうまくいっていたのに。

 かわいそうな異世界の女神だ。


『こいつがここに出現した理由は、おそらく縁があったから。なんらかの逸話が残されていたみたいだね。』


『心当たりはある?』


『⋯⋯いえ。』


 リンさんは言葉少なに答えた。

 恐怖と自責がうかがえる。

 目線は夜に吠えるものの死骸に固定されていた。


『直方さんと、トライヘキサは、あれに立ち向かったのですね⋯⋯。』


『サトラ。』


 褐色の頬を膨らませて、彼女は不満をアピールする。


『そう、呼んでも⋯⋯?』


『そっちが好き。仁がつけてくれた名前だから。』


 俺の頭を撫でながら、サトラは言う。

 サトラが今日も可愛すぎる。


『ありがとうございます。このご恩は忘れません。我々米軍は総力を持ってあなた方を遇すと誓います。』


 真剣なリンさんをレンさんが小突く。

『大丈夫なのそんな約束して。』


『大丈夫ですよ。これまで私がどれだけ頑張ったと思ってるんですか。もし言うことが聞き入れられなかったらやめますよ私は。』


 リンさん、覚悟が決まっていらっしゃる⋯⋯。


『ともかく、本当にありがとうございます!』


『私も、ありがとね。戦力になれなくてごめん。』


「レンさんはいるだけで意味がありますから。」


 パーティメンバーの能力値を底上げする、レンさんの職業「英雄」。あれがなかったら、持ちこたえることはできなかっただろう。

 そういえば、リンさんの職業「反英雄」はどう言う効果なんだろうな⋯⋯。

 もしかしたらそっちもバフ系なんだろうか。


 そうだとしたら、リンさんにも世話になったことになるな⋯⋯。


 後で聞いて見よう。



 とりあえず今は、夜に吠えるものに勝ったことを喜ぼう。


 ほんと、よく勝ったよ⋯⋯。


 張り詰めていた俺の意識は今度こそ暗転した。



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