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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第四章 アメリカ+

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第百二十五話 夜に吠えるもの2

 

 笛の音が乱れる。

 夜の笛従者たちの動揺が現れている。

 その後ろの小山のような夜に吠えるものは不動。

 こちらをじっと観察して、その真価を暴こうとしている。

 そんな風に感じ取れた。


 しかし、出し惜しみする余裕もなければ、出し惜しみしたところで勝てる相手でもない。まずはこいつらを全力で叩き潰す。


「雷切」


 帯電させた千鳥から雷が放出される。


 ばりばりばりと指向性を伴って、それは夜を照らして駆ける。


 持っている笛でガードをしたが、触手の一部が焦げた。

 大丈夫だ。こちらの攻撃は通じる。


 怯んだところにサトラが突っ込む。


 槍を突き出して初撃。


 横に割いて二撃。


 踏み込んで連撃。


 みるみる相手の傷が増えていく。


 血槍姫の名前に恥じない。見事な攻撃だ。

 ⋯⋯始めの頃に比べて、俺も見えるようになったよな。

 最初は何をやっているのかほとんど見えなかったのに。


 それを嬉しく思いながら、俺も行く。


 帯電状態の千鳥で痺れさせ、紅葉刃を突き出す。

 ゴーレムにも効いた紅変は期待していた通り、夜の笛従者の体を赤く染める。

 再生しようと蠢いていた触手が沈黙する。


 そのあとはラッシュだ。俺とサトラの近接火力を一斉にぶつける。


 ぷすぷすと音を出して、一体目は動かなくなった。

 レベルが上がる。


 だが、二体目。そして、そのあとに控える夜に吠えるものもいる。

 油断はできない。


 そして向こうももう油断はしてこないだろう。


 夜の笛従者が笛を高らかに吹き鳴らした。

 仕切り直し、そして開戦の合図。


 夜に吠えるものも叫び声をあげる。


「おおおおおおおおおああああええあえああんんんううううううう」


 向こうが乱入してこないか警戒しながら二体目を沈めるしかない。



 難易度は高い。

 それでも、俺の隣にはサトラがいる。ならば、負けることはない。


 もう一度雷切を飛ばす。夜に吠えるものの触手が目にも留まらぬ速さでのび、雷撃をはたき落した。

 それでいて、ダメージは負っていないように見える。


「サトラ、向こうの相手は頼む。持ちこたえてくれ。」


『わかった。』


 夜に吠えるものが参戦すると言うのなら、これが最善だ。

 横からいつ触手が飛んでくるのかわからない戦いなど勝ち目がないにもほどがある。


 Lv999とLv666。その差、333。

 絶望的ではある。だが、サトラならやってくれる。


 信じて託す。


 その間に、俺は夜の笛従者を倒す。

 技能「一心同体」技能「西国無双」技能「精神力」。

 必要な技能は持っている。

 あとは俺がどれだけ早く倒せるかだ。


 よーい、スタート。

 昔見た動画の始まりの文句が頭をよぎった。

 初手雷切。

 やはり笛でガードされる。

 焦げはするが、致命傷ではない。


 とはいえ俺の持つ遠距離攻撃はこれだけだ。近くまではこれで牽制をするしかない。

 こちらに向かってしなる触手を避ける。地面に穴が空く。


 さすがLv500.

 結構な威力だ。


 すでにこちらを敵と見定めている相手は手強い。

 俺との実質レベル差は99。

 だが、持って生まれたものが違う。

 俺は人間であり、あっちは怪物だ。


 心をかき乱す笛が鳴る。


 俺は精神力があるから大丈夫だが、レンさんたちのことを考えるとダメだ。

 技能「音乱」。おそらく、音でこちらの正気を失わせる力。


 潰すのならば早めに、だ。


 千鳥をわざと笛にぶつける。


 帯電状態の千鳥はばちばちばちと雷を流し込む。


 痺れるだろ?


 笛を持つ触手が震えている。


 いいのか?それじゃ吹けないだろ。

 それに、こちらはもうすぐそばだ。

 俺の、間合いだ。


「雷切!」


 雷撃を飛ばす。

 出来るだけ派手に。


 そして、相手が本命を忘れるように。

 左手一本で切り結ぶ。

 昔は重かった千鳥も、今では片手で軽々と扱える。

 レベルで筋力も上昇しているようだ。


 雷切と触手がぶつかる。


 衝撃がくる。

 こちらは切れ味抜群の鉄の塊だぞ。なんで当たり負けしないんだよその触手。

 文句を言っても始まらない。

 切って払って打ち合って。

 互いに体勢が崩れた。


 いや、崩した。


 俺の右が入る位置。


 ぶよぶよとした体に紅葉刃が突き刺さる。


 よし。

 再度のびる触手をなんとか千鳥で受ける。


 その間にも、赤が広がる。

 見事な紅葉の赤だ。

 言い換えれば細胞の死滅である。


 ゴーレムにも効いていたけどあれも細胞の死滅⋯⋯?

 気にしたら負けだな。


 よし。固まった。


 あとは一気に引き裂けば終わりだ。


「雷切!」


 千鳥を突き立てて、雷撃を体の芯に叩き込む。


 プスプスプスと煙を上げて、夜の笛従者は倒れた。


 よし。サトラは、無事か?



 振り返った俺が見たのは、ボロボロになったサトラの姿だった。


 彼女が、そんなに傷を負っている姿を、俺は見たことがない。


「サトラ!」


 思わず声をかける。


『きっつい⋯⋯!』


 こちらを見る余裕もないようで、サトラは触手に槍を叩き込んだ。


 まだ戦意は衰えていないようだが、間違いなく押されている。


『水の巫女。何故襲い来る。』


 それがどこから放たれた言葉なのか、一瞬理解を拒んだ。


「おおおおおおおおおああああええあえああんんんううううううういいいいい」


『お前の主人と因縁はない。争う理由はない。』


 それはその円錐形の、目も鼻も口もない頭部から、発せられた音と同時に聞こえた。


 まさか、こいつ、喋れるのか?

 いや、と言うより、俺の技能「全言語伝達」が働いたと、そう言うことか⋯⋯?


『私に主人なんていない⋯⋯!』


『それほどの力を持ちながら否定することはあるまい。』


 理知的な言葉とは裏腹に、触手による攻撃は止む気配がない。

 笛従者を倒した俺に意識を向けることもない。


 サトラが、矢面に立たされている。

 どうすればいい。どうすれば彼女の力になれる。




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