第百二十三話 ンガイの森にて
ンガイの森。
到着したのは昼なのに、夜かと錯覚するほどに、鬱蒼と木が生い茂っている。
ここまで送ってくれた運転手に礼を言う。
『ご武運を。』
敬礼された。
ちょっぴりこそばゆい。
『我々が包囲しています。余計な邪魔が入ることはないでしょう。』
アメリカ軍がンガイの森の周りに展開しているらしい。
その中に突入部隊として、俺たち+リンさんが入っていくと言う形だ。
陣容はこう。
直方仁
Lv 233
職業「異世界主人公(召喚予定なし)」
技能「鑑定」「言語伝達」「威圧耐性」「超回復」「加速」「精神力」「料理」「西国無双」「一心同体」「気配察知」
称号「異世界主人公」
名前 トライヘキサ
Lv 666
職業「槍使い」
技能「縮地」「槍捌き」「水魔法」「火魔法」「収納」「人柱力」
称号「血槍姫」「魔物の敵」「ダンジョン踏破者」「滅ぼせしもの」「逃亡者」「中華ダンジョン最強種」
名前 レン ワールド
Lv 247
職業「英雄」
技能「限界突破」「鼓舞」「カリスマ」「炎魔法」「鑑識眼」称号「女神の加護を受けしもの」「世界を導くもの」「ダンジョン踏破者」
名前 ナルデ
Lv 291
職業「情報屋」
技能「変装」「銃撃」「借視」「探求」
称号「知恵の女神の加護」「全てを知ろうと足掻くもの」「追憶者」
名前 リン ワールド
Lv 197
職業「反英雄」
技能「限界突破」「潜伏」「近接戦闘」「風魔法」「異界化」「血族召喚」
称号「女神(異)の加護を受けしもの」「暗殺者」
リンさんとレンさんって、同じくらいのレベルだったように記憶しているけど、俺たちの旅が過酷すぎた影響で、かなりのレベル差になってしまっている。サトラによるパワーレベリング講座と呼んでも過言じゃなかったからな。レベルの高い戦いを経験すれば当然レベルも上がっていく。そう言うわけだろう。
それでもリンさんも弱くはない。俺とサトラはその実力を十分に知っている。
異界化と言う強力無比な技能もあるしな。レベルを強制的に自分と同じ位置まで落とす。絶対に勝てない相手との戦いになったら使用してもらおう。
サトラがいる時点でそんなことにはならないはずだけどね。俺も強いし。
背の高い木が頭上から覆いかぶさってくると錯覚する密度で生えている。
ここで戦闘になると、困るな。戦いにくい。
『くる。頭上左から2、右から3。正面から5!』
ナルデの索敵に反応があった。
同時に岩が飛来する。
ナルデの感知領域を察知したとでも言うのか。
なかなか手強そうだ。
だが。
サトラの槍が正面の岩を全て粉砕する。
俺も雷切で切断。レンさんも炎脚で破壊した。
もう岩程度に動揺することはない。
俺たちはそれほどまでに強くなったのだから。
⋯⋯というか、ここすでにダンジョン内扱いというか異世界扱いだね。
俺のステータスが増えてるもん。
現実世界が侵食されるタイプのダンジョンかあ。怖いな。
投擲が終わり、その仕掛け主たちが姿を現す。
ツリーモンキー(変)
Lv 223
技能 「投擲」「頭脳強化」
称号「変異体」
それは奇妙な生物だった。
見た目は少々大きな猿であり、木と木を上手に渡ってくる様はテナガザルを思わせる。だが、彼らには一部分、おかしな部分があった。
例えば目からうねうねと蠢く何かが生えていたり、頭が燃えていたり、足の一本が軟体動物のようだったり。
そんな種として何かが間違っている気持ち悪い姿。
それが全個体に共通して言える特徴だった。
「Lv223⋯⋯。」
俺は呟く。
『強敵ですね。異界化を使いましょうか。』
「必要ないよ。」
そう。いかにその姿が不気味でも、こちらはLv666がいるんだ。
多少の小細工は圧倒的ステータス差によりなんの意味もなさない。
サトラが正面に切り込んで、俺が右を切り裂き、左はレンさんが処理する。レンさんは少し手間取っていたけど、ナルデの銃撃サポートのおかげで、苦戦することなく倒していった。
『へ?』
リンさんはぽかーんとしている。
頭が理解に追いついていないようだ。
まあ、彼女が戦ったのは異界のサトラだから、いつもよりLvは三分の一以下に落ちていた。リンさんの認識はそこで止まっていたのだろう。今改めて彼女のトップスピードを見てしまえば、意味がわからなくなるのもわかる。
ほんとサトラのスピードは凄すぎて、瞬間移動をしたのかと思うほどだからな。
『すごいでしょ?』
レンさんが得意げに問いかける。
『もう全部あの子一人でいいんじゃないの⋯⋯?』
『それは言わない約束だよ。』
その言い回し、アメリカでも流行ってるのか?
とりあえず、探索は順調だった。
ナルデがいる限り道に迷うことを心配する必要もない。
敵がそこそこ強いのが気がかりだが、この程度なら、杉ダンジョンでも中国ダンジョンでも嫌という程戦った。クロノスダンジョンの時はなんなら今より強い相手だったしな。
森の深部に行くに従って空気が粘つくようになっていく。
本当に湿り気を帯びているのか、それとも森が深くなったことによる錯覚か。
どちらにせよ、油断していいわけはなさそうだ。
気がつけば、上空は夜になっている。
いやさっきまで昼真っ盛りだっただろ?
時間の流れがおかしい。
スマホを見れば、確かに18時。時差調整はしたから、間違いはないはず。
だが、まるで時間を飛ばされたような奇妙な空白の時間。
『警戒を。』
リンさんが震えながら言う。
夜のンガイの森。
間違いなく昼よりも手ごわい。
この中では最弱の彼女が、精一杯の虚勢を張っている。
彼女の強さがわかる。
とても良いメンタルだ。好感が持てる。
先頭にサトラ。右に俺、左にレンさん。後ろにリン。真ん中にナルデ。
先ほどよりもゆっくりと、俺たちは先へ進む。
襲ってくるモンスターたちは、間違いなく強敵だったが、問題はない。
鎧袖一触だ。




