第百二十話 次の目標
素材売却していたら、思っていた通り、やばい財産ができた。
なんならまだまだ素材は眠っているけど、あんまりここばかりに下ろしても意味がない気がしたので、途中でやめて置いた。
どちらにしろ騒ぎにはなったが、ほどほどに切り上げる。
俺の望みは、冒険がしたいと言うこと。それがサトラに出会って、彼女を幸せにすると言うものが加わった。名誉欲とかそう言うものはあまりない。
と、言うわけで問題は、次にどこにいくか、だ。
経験値は確かにがっぽりだったけど、強さと言う意味ではあまりにも足りなかった。ナルデによるとあれでもヨーロッパのダンジョンにしては強い方らしい。ヨーロッパだけ謎にぬるい件について。
しかし、モン・サン・ミシェルは、フランスの西の端近くだ。
これより西はスペインとポルトガルしかない。
しかもナルデの情報によるとここより低レベル。
どうすればいいんだ。
手詰まり感がある。
どう考えても俺の西国縛りのせいですねごめんなさい。
でも俺は西を向いて歩くぜ。世界一周すれば最強の男になれるはずだからな。
サトラがいるから最強の人間とは言えないです。ええ。
『リンから連絡があったんだけど、みんなで私の国に来ない?』
そんな時、レンさんがそんなことを言い出した。
レンさんの国。
それは今なお最強国家であるはずのアメリカ。
サトラとしては複雑な思い出が残っている国だろう。
俺は、レンさんの言葉に答えずに、サトラの答えを待った。
レンさんが今更サトラをどうこうしようとしているとは思えない。でも、サトラが嫌なら、絶対に行かない。
正直興味を惹かれないと言えば嘘になるけど、俺は一番サトラが大事だ。
『何をするの?』
サトラは問う。
『私の里帰り。直方とサトラを両親に紹介したいし。』
『私は仲間はずれかい⋯⋯?』
『もちろんナルデも。』
『うんうん。それならいい。』
一瞬で機嫌を直したな⋯⋯。
『それと、未発見のダンジョンの探索。最近その存在が囁かれているところがあるんだけど、まだ詳しいことがわからないからその調査。サトラを入れて、捕らえない条件だってさ。』
「だから信用できないんだよな⋯⋯。」
『私のことも?』
「いや、レンさんは信用している。」
こんな機密情報を惜しげも無く開示してくるのは、こちらへ隠し事をしないと言う宣言だろう。
『ふむ。なるほど。五大湖の辺りか。』
ナルデはすでに当たりをつけたようだった。さっき言われてすぐか。
彼女の技能「探求」を用いて調べていたのだろうか。やっぱりとてつもないな。
『流石だね。』
レンさんもこれには感心するしかない。
『そう。ダンジョンがあると思われているのはンガイの森。鬼火が出るっていう怪しげな森だよ。後笛の音が聞こえるけど、誰もその正体に気づいたものはいないんだって。』
『面白そう。』
サトラは、そこまで聞いてようやく乗り気になったようだった。
『サトラに手を出す輩は私が責任を持ってぶっ潰すよ。』
レンさんがそこまで言うのなら、大丈夫なんだろうか。
まだそこはかとなく不安なんだけど。
ゆうて上層部が命令してきたら逆らえないのでは?
一応軍人ではあるんだから。
レンさん本人と、その上司は別の話だ。
うーん。しかし、西国無双のためにはアメリカ行きはプラスになることもまた事実。
しかも未確認のダンジョンがあると来ている。
普通のダンジョンじゃ俺たちの相手にならないんだから、そのくらいないと役不足だろう。
つまるところ俺個人としてはそんな冒険がしてみたい。
『アメリカ軍が攻撃してきたら、か。私も、レンと一緒に潰すとしようか。』
ナルデの体から凄まじいプレッシャーが一瞬だけ放たれた。
一番敵に回しちゃいけないのはナルデだろうな⋯⋯。
情報化社会において最強みたいなところある。
『行ってみたい。』
「なら当然俺も行く。行ってみたかったしな。」
『じゃあ、決まりだね。はい。リンに連絡したから、これから空港に飛行機が来るはずだよ。』
人間の空中移動ってそんなホイホイしていいものだったっけ。物流とかの関係にもう少し重きを置くべきでは?
でもまあ魔の海を渡る訳にはいかないから、ありがたいことではあるのか。
そして、リンさんはやっぱり御愁傷様です。お姉ちゃんに一生振り回されて生きていそう。
●
そんなこんなで、空港に移動してしばらくゆったりと待っていたら、どうみても軍用機みたいな飛行機がやってきた。
いやそれ国際問題にならないの?
『この国は平和だからね。扱いづらい高ランク探索者なんて、とっとと他へ行ってしまえと思っているはずだよ。』
ナルデの解説で腑に落ちる。
そりゃまあ怖いよな。人外が四人いたって話だ。
出来るだけ人が少ない時間を狙って行動していたけど、割と騒ぎは起こっていたみたいだし。
『だからあれも黙認さ。』
「そのままサトラがとらわれるなんてことにはならない?」
『流石にそんな下手は打たないと思うよ。ただ、睡眠薬くらいには警戒していた方がいいかもね。』
「確かに。全員眠らされたら向こうのやりたい放題になってしまうのか。」
『まー大丈夫でしょ。ちょっと「探求」を使ってみたけど、怪しいところはなかったから。』
ナルデがいれば怪しいところなんてなくなるんだよな⋯⋯。
流石は世界最高の情報屋だ。




