第百十三話 探し物
ミトとルナは自由行動中だったらしい。
修学旅行ならではの班別自由行動だ。
しかし、修学旅行で海外って、なかなかな学校だな⋯⋯。
敷島系列っていうとあそこか⋯⋯。
なら納得するしかない。
わざわざその時期にギリシャに来てたのは不運に違いないが、俺たちが必ず見つけ出すから、待っていてくれ。
七年の時間の空白は厳しいだろうが、俺たちがいなかったら今も停止していたわけだしな。みんな感謝してくれてもバチは当たらないと思うよ。
まあ、俺たちに関しては流れで協力したんだけど、少なくともナルデは、全国民から英雄と称えられてもいいと思うんだ。
そんなことを探索の途中で話してみた。
『私はそんな柄じゃないさ。この国に元の時間が戻ってきた。それだけで十分だよ。』
どこか達観した表情で、彼女は言った。
まあ、ナルデがそう言うのなら、それでも構わないけど⋯⋯。
勿体無いな。
俺?
いや俺はいいよ。
元々のマインドは俺も強職業の奴らと同じように冒険がしたいだったし、サトラと出会ってからは、サトラを幸せにするという目標があるだけだから。
有名人になってサトラが幸せになれるわけがない。
偏見に過ぎないけど、そう思う。
あんまり目立たないようにダンジョンに潜ろう。
もちろん、サトラの過去を解決してからの話だけど。
探索は当然のことながら捗った。
一旦、その制服の形を覚えたナルデがギリシャ中を捜査し、各々の場所を発見。
それを恵まれた身体能力を持つようになった俺たちが発見して連れ帰る。
そういう寸法だった。
探し人ミッションにしては簡単だけど、如何せん数が多い。
三クラス90人を安全に集めてくるのは骨が折れた。
途中で愛さんが連れてきた先生らしき女性が「ありがとうございます。学園長」って言ってたけど、愛さんの職業って、それなの?
そういえば確かに俺の学費も免除してもらえるって言ってたな。でも愛さんだったら他のことをやっていてもおかしくないような。
ヘリコプターや自家用ジェットの手配なんて一介の学園長ができることではない。
おそらく愛さんは敷島の中でもかなり上のポジション⋯⋯。
それにしては腰が低い気もするけど、真の強者とは、弱者に擬態しているものという言葉もあるし、やっぱり怒らせないようにしよう。
それがいい。
愛さんが先生に説明をして、先生はこの状況を把握したようだった。
生徒たちは、不安そうな表情をしながらも、一様にその様子を見ている。
まだ何人か見つかっていない人が来たら、お話が始まるのだろう。
その何人かも、すでにナルデが把握しているから、帰ってくるのは時間の問題だ。さすがは世界最高の情報屋と自称するだけはある。
女神の依代だった時に上げたらしいレベルは、女神が去った後も、そのままで、今でも人類最強格と言える。
純粋な人間なら最強と言おうとしたけど、よく考えたら、女神様の力でってところで純粋な人間ではなかったわ。
やっぱり一番偉いのはレンさん。
もしかしたら俺がその座に入ることになるのかもしれないけど、俺もある意味バグってるしな⋯⋯。
最強談義はし始めるとキリがないし、間違いなく最強のサトラがいるんだからそれでいいんじゃないだろうか。
俺はそう思うよ。
ガヤガヤと姦しいながらも、ようやく生徒たち全員を見つけることができたようだ。
先生方はホッとした表情をしている。
実は愛さんが優秀じゃなければここに来れていなかったのは、先生方の方なんだよな⋯⋯。
ナルデが判別できるようになったのはあくまでミトとルナが着ていた制服を着た人々であり、その引率の先生方は愛さんが直接見つけ出さなければ、間違いなく迷子になっていただろう。
ほんと愛さんは優秀やで⋯⋯。
「直方さん、ちょっといいですか?」
「なんですか?」
「言いづらいんですけど、もともとあなたたちを乗せて帰るはずだった飛行機に、この子たちを乗せて帰すことになりました。構いませんか?」
「いいですよ。」
俺は言語伝達もあるし、どのような場所でも生きていけるだろう。
サトラもいるしな。
それにひきかえ高校生たちは7年間もギリシャに閉じ込められてきたんだ。
どうするにせよ、早く帰らせてあげるに越したことはない。
それと、ここから東に向かうと多分西国無双の力がリセットされてしまう。
多分これは地球一周を繰り返せば繰り返すほど強くなれる力だ。それをリセットしてしまうのはあまりにも惜しい。できるならば永遠に西に進み続けるべきだろう。
「感謝します。」
愛さんは深く頭を下げた。
下げるべき時は下げる。それができる人物の条件なんだろうなと、ぼんやり思う。もはや愛さんを神格化してしまっているからこそこんなことを言ってしまっているような気もするな⋯⋯。
サトラに腕を引かれた。
これは説明を求める目だ。
「もうちょっとこの辺りにいようと思う。」
『わかった。』
はにかむように彼女は笑った。
やっぱりサトラはかわいいなあ。
ちょっとしたやり取りでしかないけど、それだけで幸せを感じてしまう。
『そうだね。ちょっと予定外のトラブルはあったが、私がこの街を案内するという約束に変わりはない。堪能してくれたまえ。私の大好きなこの街を。』
ナルデの言葉に俺たちは頷くのだった。




