第百十二話 アイドル?
「いきなり連れてくるなんてひどいよ!」
「うん⋯⋯ 。ひどいと思う⋯⋯ 。」
サトラに連れてこられたのは二人だ。
一人はライトブラウンの髪をした、ショートヘアの綺麗な子。
黙っていると美人さんなのだろうが、表情が豊かで、言葉にも元気が有り余っている感じがあって、元気っ子って言う印象だ。
もう一人は、紫電のような紫色の髪をしたおっとりした雰囲気の子だ。
ただ、謎のプレッシャーを感じる。
只者ではない。そんな雰囲気がひしひしと伝わってくる。
鑑定してみることにした。
平ミト
Lv 310
職業「アイドル」
技能「軍勢召喚」「雲乗り」「全体麻痺付与」「諜報」「忍術」「房中術」
「射撃」「呪術」「薬物生成」
称号 なし
なんだこの技能の数。輝夜さんに匹敵するぞ。サトラより多い人久しぶりに見たな⋯⋯。でもよく考えれば俺もこのくらいになっているのか?
まあ、異世界では主人公だし多少はね?称号なしには一安心だ。称号が不穏だと恐ろしいことになることがあるからな。
問題はもう一人である。
敷島ルナ
Lv 311
職業「アイドル」
技能「放射能」「火炎放射」「レーザービーム」「自動迎撃レーダー」
称号「大怪獣」
うーん。なんなんだこのアイドルとは思えない技能の数々。
もはや人型兵器という分類の方が正確じゃないか?
アンドロイドだとしても驚かないぞ。
じっと彼女の方を見てみるけど、眠たげな目をして首を傾げているだけだ。
金属のきらめきなんてどこにも見えない。
となると、見ないようにしていた、称号の方を見ざるを得ないか⋯⋯。
えっと、なになに。大怪獣、と。
怪獣。それは、基本的には迷宮から湧き出るモンスターとは似て非なるものであり、基本的に10mを超える大型のものを指す。
1970年代に、東京で出現したが、なんらかの要因により消失、消滅した。
その後、ダンジョンができてからは、対処が難しい大型のものを便宜的にそう呼称することも増えたが、大怪獣といえば、今でも、東京に出現したその生物のことを指す。
改めて、ルナのこと観察してみよう。
上品な制服に身を包んでいるが、よくみると、全身を黒のラバースーツで覆っている。肌を出すとまずい理由があると考えられる。
髪の紫は、大怪獣の背中から放出されたというレーザーと同じ色。
何より、鑑定は嘘をつかない。
つまり、この眠そうな顔をしたアイドルっ子は、かつて日本を騒がせた怪獣だと考えられる。マジやばくね。
「愛さん、ちょっといいですか。」
「はい。」
こそこそと耳打ちする。
「あの子、怪獣ですよね。いいんですか?」
「ええ。主人様がそう決めたことですから。それに、悪さもしない、いい子ですよ。孫の親友ですし。」
「孫?」
「あっ。おばあちゃんだ!」
ミトが愛さんに飛びついてきた。
「よしよし。よく頑張りましたね。」
愛さんは慈愛に満ちた手つきで、ミトの頭を撫でた。
「おばあちゃん⋯⋯?」
俺は首をひねる。
愛さんはどう見ても三十代前半。
経験を重ね、乗りに乗った年頃に見える。
娘だとしたら、まだわかる。どれだけ学生出産だったんだと言いたいけど、まだわかる。しかし、孫。この子たちは高校生らしいのだけど、孫。
孫は物理的に不可能では?
ひょっとして、愛さんの実年齢って、もっと上?80くらい?
まあでも愛さんだったらそれくらいでも全然おかしくないようなオーラがあるからな⋯⋯。
年齢の話に関しては触れない方向で行こう。
「愛おばーちゃん!」
ミトの次はルナが飛びついてきた。
頭をこすりつけて甘えている。
その様子は、年齢相応で可愛らしい。
俺は気を抜く事にした。
あの様子なら、大丈夫だろう。
二人はともかく愛さんは信用できる。
「でもどうして、おばあちゃんがここにいるの?それにこのお姉さんたちとお兄さんは誰?」
ミトは怪訝そうに言う。
ずっと時間が止められていたから、事態の把握ができていないのだろう。
目が覚めてから目に入る状況も混乱してばかりといったものだったみたいだし。
「詳しくは省きますが、二人とも危ないところでした。この方々のおかげで、その危機を脱出できたんです。」
「本当?ありがとうございます!」
ミトは無邪気に笑って礼を言う。
「あの、ありがとう⋯⋯ございます。」
ルナは人見知りのようで、ミトの後ろで体を隠しながら、それでもちゃんとお礼を言った。
二人とも、いい子だ。
色々な特異性には目をつぶって、素直にそう思った。
鑑定は必要な技能だけど、先入観で接するのも良くない。
時には友好的に接するべき時もあるんだ。
「とりあえず、あなたたちを保護できたので、私の任務は終わりです。」
愛さんはホッと一息といった風情だ。
「私としてはこの場所から早く離れるべきだと思います。混乱はしばらく収らないでしょうから。」
七年ぶりに動き出した世界。
混乱しないほうが難しいだろう。
「ボクたちのクラスメイトも救ってくれないかな。」
「助かるなら全員で⋯⋯?」
「そういえば修学旅行中でしたね。確かにあれは敷島系列の学校。助けるべきでしょう。すみません。みなさん。もうしばらくお付き合いしていただいてもよろしいですか。」
『いいよ。』
『当然。』
「愛さんの頼みなら。」
『うん。』
四人とも頷いた。
神を倒す戦いで、信じ合って戦った仲間だ。それくらいはやらないとバチが当たる。
「ありがとうございます。」
愛さんは綺麗に一礼をした。
心がこもっているのがわかって、ちょっぴりこそばゆくなった。




