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Lv666の褐色美少女を愛でたい  作者: 石化
第三章 ギリシャ

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第百七話 クロノス3

 飛来してきたのは先ほど見たときと同じ禍々しい杖だ。


 愛さんとナルデのおかげでだいぶ傷ついてはいるが、まだ破壊できてはいない。


 その杖が、今、クロノスの手元にある。


「これでもう一度力を溜める羽目になりそうだ。だが、まだ俺は死なないぜ?」


 腹に大穴を開けて、口から血をだらだら流して、それでもクロノスはヘラヘラ笑う。

 これで強がれるなら大したものだ。

 だが、クロノスアバターが想像通りの代物だったら、こちらのアドバンテージなど無いに等しい。


 もし、あれが時間を止められたら。

 俺たちはなぶり殺しにされて終わってしまうだろう。


 だが、すでにそれはクロノスの手元にある。


 死への入口がそこに開いている。


 クロノスの傷はほとんど致命傷だ。それでも死んでいないのは、神としての耐久と、こちらを全滅させるという意思のためだろう。

 どうにか隙さえ作れれば。


 技能効果時間が切れかかっているのを気合いで抑えながら、俺はそのチャンスを待つ。


 まだ、終わりじゃ無い。

 俺には仲間がいる。


 どうん。


 銃身が鉛を吐く音がした。

 遠い。

 だが、必ず当たる。


 俺は紅葉刃を構えた。

 トドメはこれで行く。

 銃に対するクロノスの反応はひどく鈍かった。


 近代の武器に対する造詣が深く無いのだろうか。

 危険性をきちんと認識していないようだ。


 それとも、予想外の攻撃を受けて動揺しているのか。

 音の方向を向こうとする彼の腕が銃弾の衝撃で吹き飛ばされる。


 クロノスアバターが宙を舞う。

 すかさず技能「加速」を使用する。隙だらけだ。

 思わずそちらに手を伸ばす彼の腹に、ぶっすりと紅葉刃を差し込んだ。




 クロノスは痙攣する。

 紅葉刃の毒は強い。もう指一本も動かせないだろう。


 もはや死にゆく命でしかない。



「はは。やるなあ。人間が神殺しを成し遂げるなんて⋯⋯ 。」


 掠れた声には賞賛の色があった。


「なら、救われなくちゃいけないし、救えなきゃいけないな⋯⋯。」


 クロノスが俺たちに向けて手を差し出した。


 ずん。


 衝撃が腹に響く。

 物理的でなく精神的な力のようだ。危険はなさそうだが⋯⋯ 。


 加速の二回がけで俺の身体はボロボロだ。

 絶対切断の鎌を持つクロノスと撃ち合っていたサトラもそれは同じ。


 二人とも地面に膝をついてしまう。


「なんだよ、もう少し、カッコつけろよ?」


 微笑むクロノスの顔を俺は見ることができなかった。


 体が倒れこむ。


「まだ、俺の勝ちの目は残っていたか?」


 そう呟くクロノス。


 そのすぐ後に、重い銃声が轟いた。


 ●


 意識を取り戻した。


 跳ね起きる。


 場所は⋯⋯ 、変わっているな。


 階段の前。

 10層に降りてきたときに通った気がする。


 となると、レンさんが運んでくれたんだろう。


 見ると愛さんとレンさんとナルデが俺とサトラを囲むようにして座っている。

 サトラは、意識を失ったままだ。


 三人は周りを警戒しているらしい。


 よく見ると、周りに三体ほどのミノタウロスが倒れている。

 10層には出ないと思っていたが、クロノスが倒れた今、普通に出てくるようになったらしい。


 ここで出てくるミノタウロス、lv500がデフォだったよな。

 それを三人だけで俺たちを守りながら戦ってくれたのか⋯⋯ 。

 ありがたすぎる。彼女たちがいなければ死んでいた。


『ああ、起きたかい?』


 ナルデが真っ先に気づいた。

 技能「借視」を用いているからだろう。

 周りを警戒しつつ、こちらにも注意を配っている。

 そういうことだ。


「サトラは大丈夫なのか?」


 とりあえず気になるのはそれだ。

 彼女は基本的にとても打たれ強い。血を回収して無限に回復する。


 でも、そういえば、クロノスは血を流していなかったな⋯⋯ 。

 神に血は流れていないのか。


 となると今までに経験したこのないほどの疲労が溜まっていてもおかしくない。


 サトラはずっと疲労を感じていなかっただろうから、いきなりの疲労に体が慣れていないのだろう。


『疲労だけのようだ。後一時間もすれば回復するさ。』


 ナルデは安心させるように言った。


「そうか、それは良かった。」


『良かったよぉ直方ぁー!』


 レンさんが抱きついてきた。


『心配したんだから!』


「⋯⋯ ごめん。」


 彼女の温もりを感じながら、俺は謝る。


 いきなり二人が倒れたら、心配するに違いない。


 彼女の役割は後方支援だったとはいえ、彼女の職業効果がなければ、俺が拮抗することは難しかった。


「いてくれてありがとう。」


『本当なら私も戦いたかったんだけどね。あーあ。直方ったらすぐ強くなるんだから。』


 レンさんはそう言ってむくれたふりをする。


「自分ではずるい力だとは思うけど、それでも俺はサトラに追いつかなくちゃいけないから。」


 そう、俺は答えた。


「ま、直方はそういう人だよね。私が鍛えればいいだけの話、か。」


 レンさんはあっけらかんと笑った。


 俺もつられて笑みを浮かべる。


 最大の敵は片付いた。

 もう何も、気にすることはない。そのはずだから。



 愛さんが物言いたげに俺たちの方を見てきたが、何も言わずに視線を逸らした。


 コメントに困ったのかな?


「よし。迷惑をかけた。サトラが回復するまで、俺も見張りに加わるよ。」


 顔を叩いて気合いを入れる。


『それは助かるね。』


「私たちも実は限界なので、任せていいですか。」


 え?


 いや確かに対時空杖戦ののちクロノス戦で援護射撃をした上に、俺たちを守る戦いまでやってくれたんだから文句を言える筋合いはない。


「任せてくれ。」


 ここから脱出する上でも、二人が回復することは不可欠だ。


 ここは俺が受け持とう。











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