第百四話 ミノ迷宮2
階層を降るごとに、出てくる敵モンスターのレベルは50ほど増加した。
マジで?難易度の増加度合い極悪すぎない?
まあ、本来は長大な迷宮を正攻法で攻略しなくてはいけないのだ。
二層に辿り着くだけでもやっとだろう。
とりあえず、ナルデがいないとどうしようもなかったであろうことは確かだ。
俺の付け焼き刃のマッピング技術程度で立ち向かえる規模じゃない。
まさしく迷宮と言う言葉がぴったりなダンジョンである。
いやほんとナルデさんありがとうございます。
出てくるモンスターの種類は、ミノタウロスを筆頭に、巨人、人頭蛇身のラミアなど、フィジカル重視の相手が多かった。
これはクロノスが筋骨隆々の男であることを意味するのか、それとも、筋骨隆々に憧れている軟弱マンなのか、二つに一つに違いない。
後者であってくれた方がありがたいな。どちらかといえば。
中華ダンジョンで戦った興成のことが思い出される。
フィジカルが強かったらあんなことされるもんな⋯⋯ 。
毒を耐えられてからワンパン入れてくる動き、ちょっとトラウマだ。
直近の負けだし。
ところで東京離れてからダンジョンにしか潜ってなくないですか?
気のせいですか?
これが終わったら家に帰ってしばらくゆっくりしててもいいかもしれない。
サトラとゆっくり過ごしたい。
⋯⋯ 先のことを終わる前に考えるのは死亡フラグか。
今はこの迷宮に集中しよう。
●
徐々に難易度が上がっているとはいえ、こちらのパーティは、人類最高峰のさらに先をいくドリームチームだ。苦戦することもなくどんどん階層を突破していった。
現在の階層は、6。
敵のレベルは300である。
⋯⋯ ねえ、やっぱり敵のレベルの上がり幅、デカすぎじゃない?
もうちょっと自重を覚えてくれない?
さすがはラストダンジョンと言ったところか。
そろそろレンさんが辛くなってきたようだ。
相手のレベルより100は低いとな⋯⋯ 。
特にレンさんは近接を担っているから、そのレベル差がモロに出る。
相手の主力が、力自慢のミノタウロスなのも厳しい。
不満そうなレンさんを抑えて、後ろに下がってもらった。火魔法ならまだ出番はあるから。
パーティで次にレベルが低いのは、Lv278のナルデだ。このレベルで下から二番目ってどういうことだよ。
彼女の戦闘スタイルは、技能「射撃」と「借視」の合わせ技だった。
具体的にいうと、多数の視界を共有して、命中精度を上げた狙撃銃をぶっ放しているらしい。
片目だけつぶって狙いをつける彼女の弾丸は百発百中だったが、冷静に考えると、頭の処理能力どうなってるんだろう。別のところが見えたところで、普通命中率は上がらないどころか下がると思うんだが。
彼女の卓越した情報処理能力のなせる技というよりない。
さすがは情報屋だ。
愛さんは、近接系統だった。
サトラに迫るレベルの素早さで敵を翻弄し、的を絞らせない。
隙ができたら手裏剣とおぼしきものを投げる。
忍者だね。負担が軽くなるのでとてもありがたい。
回避盾としてとても優秀だと思う。
サトラは⋯⋯ 。まあ、言わなくてもいいよね。
もう全部サトラ一人でも良いんじゃないかな⋯⋯ 。
まあ、マッピングができないという弱点はあるか。
とはいえ少なくともナルデと組むだけで全てのダンジョンを爆速で突破できそうだ。
俺もそこそこ活躍できていると思う。紅葉刃は相変わらずえげつない毒を付与できるし、千鳥の通りも悪くない。
俺のLv実数値、400越えだからな。
Lv100くらい下の相手ならまあ、余裕ですよ。
●
10階層まで降りてきた。
ここの敵の平均レベルは、500である。
流石にそろそろ終わりだと思いたい。
だましだましやってきたが、そろそろレンさんとナルデが限界だ。
俺と愛さんも対応が追いつかない場面が増えた。
常時「加速」を使用していないとついていけない戦いなんて嫌だよ俺は。
ナルデの能力で出来るだけ敵を回避しながら進むことにした。
この階には、下に降りる通路が二本あるらしい。
ここにきて分岐とはいやらしい。
流石のナルデも、階段の先まで「探求」することはできないようで、ここは、選択しなくてはいけないところだ。
11階層の入り口が二つあるだけというのなら、話は簡単なのだが⋯⋯ 。
完璧に分かれていて、一方がボス部屋でもう一方が拷問部屋だったりすると、大変なことになる。
というか、敵モンスターのレベルの上がり幅から見て、次の階層からは流石に厳しい戦闘が多くなるだろう。
できれば次で終わりだとありがたいんだが。
その可能性を考慮して、一旦休憩を取ることにした。
ナルデの能力で最短ルートを発見できたけど、流石に9階層分の疲れはしっかりと蓄積されているため、良い判断だと思われる。
ボス戦、もしくは、怪物戦かもしれない。
できるだけ準備をしてから降りることにしよう。
地獄の冷気が封じられたような、底冷えのする風が洞窟から吹いてきくる。
強敵の予感がする。
俺は武者震いをした。




