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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第十一章 負の遺産を何とかせよ

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第272話 大勇者決定戦(2/6)

 今回の戦いは、単なる黄金果実争奪戦ではない。


 五年に一度開かれるこの歴史ある大会は、本来はマリーノーツにいる全ての者に参加資格がある。つまり、大勇者も参加可能なのだ。「マリーノーツで最も強い」という称号は大勇者として最大の名誉なのである。


 もっとも、大勇者同士がぶつかり合う試合は、別の場所で行われるため、普段はこの場所は予選会場なのだが。


 しかし、今回は大勇者選抜戦としての色彩が濃いため、準決勝や決勝もこの闘技場で行われることになった。


 マイシーさんの話によると、今回大会の成績上位者の中から選抜して、新たな大勇者を補充するのだという。


「実は、ラック様だけにコッソリ教えますと、単純に戦える大勇者を集められなかったというだけなんですけどね」


「そう言うと身もフタもないっすね」


「どのみち、最強はもう決まってますからね。他の大勇者ほとんどを相手にして無傷で『じゃあね』とか言って去っていった人がいますから」


「なるほど、まなかさんですね」


「その通りです」


「マイシーさんは出場しないんですか? 五龍の一柱と契約しているのなら、大勇者の資格は十分にありそうですけど」


「すでに敗退しました。やはり三人組で出られるところに一人で乗り込んだのは、過信でした」


「誰に負けたんです?」


「剣士三人組ですね。二刀流が一人と抜刀術使いが二人。一人は倒して医務室送りにしたのですが、さすがに金等級を二人も同時に相手にするのは、わたくしにはまだ無理でしたね」


 あっさりした口調で、鎧の美女は言い放った。


「負けたのに、あまり悔しくなさそうですけど」


「何を(おっしゃ)いますか。そのように見せているだけです。誰も見てない所ではボロ泣きですよ。絶対に誰にも見せませんが」


 突き放すようにマイシーさんは言った。


「それは、すみません。無神経なこと言って」


「まったくです」


 マイシーさんが苛立ちの溜息を吐いた後で、ガラス張りの部屋の中に、


「ギルティです」レヴィア。

「ギルティね」アオイさん。

「ギルティ」フリース。


 おなじみの連続ギルティコンボが響き渡った。三人とも俺を指差してきた。


「あのなあ、俺はもはや慣れちまったからいいけどな、そんな風にみんなで一人を責めたりしたら、人はトンデモなく傷つくんだぞ。おぼえとけよ」


 そうは言ったけれど、やっぱりギルティという言葉を何度も浴びせられると、だんだんと心の傷が開きかけていく感覚がある。


 せめて、なにかやり返して勝った気分になろうと、俺は彼女らもギルティ領域に引きずり込もうとする。


「あと、そんなギルティな俺と同じ牢屋に入ったんだから、お前らだってギルティだ!」


 これは誰も否定しなかった。


  ★


 相変わらず、オトちゃんは蛇のままで、俺の前までにょろにょろとやって来ると、あいさつ代わりに顔面に頭突きを繰り出してきた。


「いって! お? なんだ、やるか? このこのこのぉ」


 蛇相手にでたらめパンチを繰り出していたところ、マイシーさんに「こら」と叱られた。


「何やってるんですか。静かに戦いを見守ってください。オトキヨ様も、ほら、所定の位置にお願いします」


 そう言ってマイシーさんは水桶を指差したが、オトちゃんは従わない。ぷいっと顔をそむけてしまった。


 皇帝(オトキヨ)側近(マイシー)の仲が、まだ、あまりうまくいっていないようだ。


 さて、眼下(がんか)で繰り広げられていたのは、二人の剣士と、三人の甲冑の対決だった。


 八雲丸さんと同じ技を駆使して戦う二人組の剣士の攻撃を、金色の甲冑で全身を覆った者が腕組の姿勢のまま受け続けていた。


 まず二人組の男剣士のほうだが、ともに服装は和風で、片方は派手で赤を基調にした上着がきらびやか。もう片方は全身が紺色で地味な服装だった。八雲丸さんの部下二人、ともに金等級の冒険者であるという。


 踊るように、間断なく嵐のように攻撃を繰り出して、砂が巻き上げられている。


 対する黄金甲冑も負けてはいない。全身を覆う甲冑の形状は、ホクキオで出会ったシラベールさんのものと同じものであったけれど、色が違っていた。ものすごくきらきらしている。


 こちらは微動だにしない。あえて避けることなく連撃を受け続けている。


 黄金の甲冑の背後には二人の人影。


 砂ぼこりが晴れた時にさらに二つの甲冑が見えた。


 それぞれ、水色と灰色の甲冑に実を包んでいて、他のシラベールの甲冑男たちと同じように、顔が見えない。


 そこでマイシーさんの解説が入る。


「淡い水色のほうが長男、イクサホウ・シラベール。生まれつき特殊な軍司スキルを持っています。扇動(せんどう)と計算にすぐれているのはもちろん、何より、敵の弱点を見抜くのに長けています。ここだけの話、マリーノーツ軍全体の作戦立案に関わる陰の実力者です。ずっと甲冑かぶってますし、父親の言いなりで地味ですけどね」


「灰色の方は?」


「灰色の彼は、カナデカタ・シラベール。憎たらしいことに、自由にのびのびと育った次男坊は音楽的才能に恵まれ特注の甲冑でハーモニーを奏でます」


 音楽家か。でも次男坊に何の恨みが。


「頭部にハーモニカが設置されていて、自由自在に曲を奏でられるそうです。それだけではなくて、音色は特殊な金属でできた甲冑で増幅されて、感動的な旋律を響かせます。彼の奏でる調(しら)べには、不思議な力が宿っていて、さまざまな効果を発揮します」


「早い話が、演奏スキルってやつだな」


「それも、限界突破を繰り返しても届かないような、かなり高位のものです。どうぞ、耳を澄ましてみてください。戦いの音や風の音にまぎれて、勇壮な音楽が響いているでしょう?」


 マイシーさんの言葉に従い、意識して音をきいてみると、たしかにガラス越しにも微かに音楽がきこえる。


「つまり、こういうことですね? 今はギラギラ目立つ黄金甲冑の父親がその存在感で引き付けながら、次男の音楽で強化回復して耐久力を上げまくる。そうして耐えている隙に軍司の長男が敵の攻撃パターンを分析して、勝利の策を見つけ出すという作戦の最中ってわけだ」


「おや珍しい。正解です」


「珍しいってのはひどくない?」


「そうですか? まあとにかく、この戦いは、シラベール家当主の老人にとって、息子たちの有能さをアピールする場なのですよ」


「あの老人が黄金甲冑の中に入ってるんだよな。なんだか、ずいぶんとシャキッとしてるよな。背筋のびてて、強そうで、自信に満ち溢れた感じがする」


「甲冑を着ないと、自信を持てないというのは、あるのかもしれませんね」


「それって、自分の事? いつも銀色の鎧姿で脱いだとこ見たことないけど」


「……そういう、どうでもいいところばかりに気付いて無神経に突っ込んでくるところ、ギルティだと思いますよ」


「ギルティ」フリースがいちはやく反応し。

「ギルティだね」アオイさんが続き。

「ギルティです」レヴィアも指差してきた。


性分(しょうぶん)なんだ。仕方ないだろ」


 たった四人分くらいのギルティなんぞ、町を挙げてのギルティ祭りを乗り越えた俺にとっては、もはや大したことない……と思うことにしよう。


 そんでもって、あとで一人でこっそり泣こう。


 泣ける余裕ができたらね。


  ★


「フハハハ、軽い軽い! そんなものでは魔王に傷一つ付けられぬぞ」


 老人の声が特別席まで届いた。


 剣士二人は、あくまで力勝負が望みのようだ。さっきから正面からの攻撃に終始している。


「クッ、こいつ、(かって)ぇ」派手なほう。

「まったく厄介(やっかい)である」地味なほう。


「おまえたちでは、我輩の甲冑は破れぬよ。ほれ、イクサホウに、カナデカタも、何か言ってやれ」


 黄金甲冑カワタリテ・シラベールに言われて、従順な息子が声を出す。


 まずは水色甲冑のイクサホウさんが声を張る。


「貴様らの弱点、まるみえだ! ずばり、特殊技を出すときにいちいち納刀せねばならないのが弱点! それにくわえて、リーチの短さは致命的と言える!」


 続いて、カナデカタさんも空気を読んで、兄に負けじと声を出す。


「ぼくは今日! 新たに発見された楽譜で演奏しています! どこかから盗まれた宝物のようですが、強力な盗賊から取り返した音色は、身体強化と回復の効果が、これまでの十倍! 今のところ二割ほどしか解読できていませんが、今後も懸命に解読を試みたいと思います!」


 用意された台詞を言わされたような雰囲気を感じた。


 息子たちの言葉を受けて、黄金甲冑の老人はさらに威勢を増して言うのだ。


「我輩の息子こそが、真に大勇者たるに相応しいと思わんかね!」


 堂々と言われると、確かにそうなんじゃないかと思えてしまう。とはいえ、軍司スキルも演奏スキルも、戦闘狂のまなかさんの抜けた穴を埋めることを考えたら少し地味かなと思うし、そもそも、転生者の血を引いていても厳密には転生者ではないシラベール家の者たちが、大勇者になれるのだろうか。


 そんな疑問を口にしたところ、フリースが言う。


「いいんじゃない? あたしだって普通にクォーターエルフだし」


「たしかに」


 再び戦場に目を向けると、剣士二人の合体強化技を受けてよろめきながらも、すぐに体勢を整えた甲冑の姿が目に入った。相変わらず自信満々の老人が言う。


「もう終わりか? さてそれじゃあ決着をつけるとするかのう」


 そうして甲冑がガチャガチャと音を立てる。


 さらに格好いい音色に変化した音楽のなか、シラベール父は足を高く上げた。脚部が一気に伸びた。人間離れしたスキル。天幕ぎりぎりのところまで伸ばした後で、振り下ろす。


 叩きつけたら地面が割れて、ひとりがその割れ目に挟まれた。紺色の地味なほうの身動きがとれなくなった。


 もう一人の派手なほうは、続いて襲った横蹴りに襲われた。地面に吸い込まれそうな仲間に気を取られていたものだから、避けられなかった。


「フハハハハ! 弱すぎるではないか! こんなのに負けた皇帝側近などというのもまだまだだな!」


 マイシーさんは自分のアゴをつねって、イライラを我慢しているようだった。


 老人はなおも言う。


「これで大勇者候補とは、大勇者などという称号も大したことないのう!」


 これにはフリースがぴくっと長い耳を弾ませて反応しかけたが、「だめですよフリース様」というマイシーさんの牽制(けんせい)の言葉を受けて、不満そうな顔をするにとどめた。大勇者というものを悪く言われたのが頭にきたらしい。


 だけども、性格の悪い老人の反対側の陣営を応援しようにも、もうすでに二人は横たわって沈黙し、会場は勝者を称える拍手と歓声に包まれていた。


 二人の剣士は口々に、


「無念なり。お嬢の分までと思っていたのだが……」

「ちっくしょう……すまねえ、プラムお嬢」


 そう言って負けを認め、俯いていた。


 これにて、シラベールファミリーチームが優勝決定戦に駒を進めることになった。




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