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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第十一章 負の遺産を何とかせよ

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第270話 世界樹リュミエール(5/5)

 水のしたたる音がする地下牢獄にて、マイシーさんの尋問はなおも続く。


 俺は積極的に正座し、マイシーさんとの会話に臨んでいた。


「それにしてもラック様。一つわからないことがあります」


「なんですか?」


「なぜファイナルエリクサーとかいうアイテムを手に入れる必要があるんですか? 説明を求めます」


「あぁっと、それについてはだな……」


 言いかけながら、フリースの顔色をうかがった。


 フリースは黙って俺を見ていて、頷きもしなければ首を横に振ることもなかった。それでも、この沈黙の色は、話すのを許可する雰囲気だ。よし話そう。


「言いにくいんだが、フリースが大魔王を倒したって言い張った過去の報告が事実とは違っていて、実は氷で封印しただけだったという話なんだ。そして、俺たちで魔王を滅ぼすという効能をもったファイナルエリクサーを手に入れる必要に迫られている」


「そして、そのファイナルエリクサーというものを作るために、世界樹に実る黄金の果実が必要、というわけですね」


「さすがマイシーさん。話がはやくて助かる」


「それにしても……全く知りませんでした。水源の池の底に沈む大魔王というのも、魔王を滅ぼすことのできるエリクサーというのも」


「マイシーさんにも知らないことがあるんですね」


「当たり前でしょう? 今のわたくしは皇帝を守るのが仕事なのですから。しかし、これで合点がいきました」


「というと?」


「どうして魔物化などという現象が起きたのかという問題です。てっきり、オトキヨ様が蛇のお姿になられたことで、浄化の力が弱まったことが主な原因かと思って、わたくしは責任を感じていたのです。なるほど、そうですか。わたくしではなく、元はと言えばラック様たちが原因だったわけですね」


「いや、たぶん、オトちゃんの力が弱まってることも重なった結果だっていう結論に――」


 マイシーさんは、俺の言葉を(さえぎ)って言うのだ。


「ラック様のせいだったんですね」


「いや、まぁ……それは否定はしないけど」


 あれ、でもおかしくない?


 フリースが良くない選択をしたはずなのに、俺が悪いという結論になってしまったぞ。


「オトキヨ様も、すぐには育ってくれないようですので、たしかにこのまま沈んだ大魔王を放っておくわけにはいかないでしょうね」


「おお、それじゃあ、俺たちに果実を……」


「さりとて、すんなり渡すわけにはいきません」


「どうしてですか?」


「どうもこうもありません。なぜなら、今すでに、上の闘技場でその果実を懸けて戦っている戦士がいるのですから」


 そこでレヴィアが食って掛かった。余計なことを言ったと言い換えてもいい。


「私は、それがおかしいと思うんです。果実というのは、大地の力を吸い上げて実るものです。大自然の力は誰のものでもありません。強いて言うならみんなのものです。それを賞品にする行為そのものが変なんじゃないんですかね」


「お言葉ですが、果実を闘技大会の商品にするのは、昔より約束されていることなのです。レヴィア様のご両親は、約束を破るような人なのですか? そこにいる、ラックさんのように」


「え、そこはラックさんとは違います。お父さんもお母さんも、なにより契約を大事にするタイプです」


「だったら、わたくしにも約束を守らせてください。ラックさんのようになりたくないので」


「なるほどです」


 丸め込まれていた。


 でも、おかしくない?


 俺が約束破りの代名詞みたいになってるんだけど。


「さて」とマイシーさんは一つ息を吐いた。


 俺たちは鎧の彼女の次の言葉を待つ。


 それは、まるで罪人が裁きを待つような心境だったかもしれない。


「この世界樹リュミエールの頂上にある闘技場で行われているのは、大勇者補充のための戦い。すなわち、新たな大勇者を選抜する最終試験なのです。魔王の総数が減ったとはいえ、新たな敵があらわれないとも限りません。石橋を叩いてなめらかにしてオトキヨ様に渡っていただくのがわたくしの信条ですのでね……」


「へえ、誰になりそうなんですか? 交渉できる相手だといいんですが」


「おや、タダで交渉できるとでも?」


「え、何か条件でも?」


「そうですねぇ、それでは、こういうのはどうでしょうか。……もしも、わたくしに勝てたら、戦いの勝者と交渉する権利を与えましょう」


「それ無理じゃん! 誰が皇帝側近に勝てるっていうんだ」


 マイシーさんは俺の言葉を軽く流すと、天井に向けてに手をかざし、多く持つ技の中の一つを使用した。


「――獅子之舞(ダンスオブビースト)


 するとどうだろう、みるみるうちにマイシーさんの肉体が膨張し、鎧も大きくなった身体に合わせた形状になった。二メートルはあろうかという、巨大な猫型モンスター。立派なタテガミに縁どられた顔は、ライオンのようである。


「魔族の技です。言っておきますが非常に強力ですよ。いま、わたくしは強靭な猫となり、巨大化し、しなやかな四つの足で地面をとらえ、規格外の敏捷性でもって一瞬にして獲物を狩ろうとしています。さあ、いきますよ! わたくしに勝てないようでは、交渉権を渡すわけにはいきません!」


 そして、ライオンになった彼女が攻撃を仕掛けようとした、まさにその時である!


「あっ、あれ、なんで滑ってっ! アッ」


 四本の足を何度もクルクル掻いたライオンが、ごちっと鉄格子に頭を打った隙に、フリースが滑って近づいていって氷の槍を構えた。すぐにでも貫けるようにと。


 強く蹴って進むはずの足元に氷が張っていて、つるつるになっていたのである。


「参りました、私の負けです」


 よわすぎない?


 ネコ科肉食獣の姿をしたマイシーさんは、ものすごくアッサリと負けを認めた。


 どうなんだろうな、やっぱりうちの大勇者が大勇者らしく強すぎるってことなんだろう。フリースは不意打ちさえ受けなければ、圧倒的な力を発揮できるのだ。


 なんだろう、猫っぽいのが滑って転んで降参してっていう流れ、ちょっと前にエルフの村でも、見たような気がするね。あの一族の技なのだろうか。


「いいでしょう、認めます。一応わたくしは、皇帝の職務を代行する身にあります。特別に交渉権を与えましょう」


 ライオンの姿から鎧の美女に戻ったマイシーさんはそう言うと、苦笑いで頭を掻いていた。格好悪いところを見せちゃったな、とでも考えているのだろうか。


「あの……仕切り直してもいいんですよ? というか、なかったことにしましょうか?」


「うわ、ラック様に気を遣われるとは、わたくしも堕ちたものですね」


「最近のマイシーさん、俺に風当たりきつくない? 俺、なにか悪い事した?」


「少なくとも、あなたが散らかし放題好き放題にした書庫を再整理したのはわたくしですので、ただでさえ忙しいわたくしに余計な手間をとらせたことについて、直接、一言(ひとこと)あってもいいんじゃないでしょうか」


「その節は、どうもすみませんでした」俺は土下座した。


 その姿を見るや、慌ててアオイさんも、「こっちからも謝ります。申し訳ございませんでした」と土下座仲間になってくれた。


「まったく、しょうがないですねラック様は」


 許してもらえた。




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