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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第十章 書物のまち

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第236話 アオイさんの聖典研究(16/16)

 さて、黒い紙に白字でびっしり書かれたのが、どんな数字列だったかというと、たとえば、『5963・315・399・20』とか、『1962・323・028・22』だとか、四桁・三桁・三桁・二桁の四つの数字が区切られながら、ひたすら並びまくっている。


 この文字列が意味するのは、『どこの書架か、何冊目の本か、何ページ目か、何行目か』ということである。


 たとえば、『0011・001・001・01』という文字列があったとする。それが示すのは、『001』の列の、『1』番目の書架にある、『1』冊目の本の、『1』ページ目の『1』行目ということだ。


 これを、暗号っぽい数字列にあてはめてみると、『5963・315・399・20』が示すのは、『596』の列の『3』番目の書架にある、『315』冊目の本の、『399』ページ目の、『20』行目ということになる。


「アオイさん、やりましょう」


「どうすればいいの?」


「この数字列に記された本の中から、一行を見つけ出してくるんです」


 要するに、指定された書物の中の一行ずつをピックアップして、行の先頭の文字と末尾の文字を書き出していけば、次の手掛かりが浮かび上がるであろう……ということである。


 最終的には、数字列に従って並べた文字を逆側から、尾・頭・頭・尾の順に読んでいくのだろう。


 なるほど、こういう暗号が仕掛けられていたのなら、本を一切動かしてはいけないというルールにも納得だ。ちょっとでもズレたら、暗号が成立しなくなるんだからな。


「えっと……この広い図書館から? あちこち探し回って? 大量の文字列を探すの?」


「そういうことになります」


 ややこしいし、何よりも非常に面倒くさい作業だと言わざるを得ないが、この黒い紙に書かれた文字が次の暗号だってことは確信できる。だから、やるしかないんだ。


「頑張りましょう、アオイさん」


 俺の呼びかけに対し、アオイさんは深い深い溜息を吐いて、


「この暗号作った人、絶対に暇人よね」


「ええ、誰だか知りませんが、全く同感です」


 たとえば、並び順をずらして機械を通してのみ読めるようにしているわけじゃない。たとえば、暗号を専門に扱う人にしかわからない複雑なコードやらを使っているわけでもない。暗号としてはシンプルで見つけやすい部類に入るものだ。並外れた根性さえあれば、いつかは誰でも正しい答えに辿り着ける。


 考えるに、このひたすら面倒なだけの暗号は、こっそり伝えるということを目的にしてないんだろう。言うなれば、そう、誰かを試すためのものだ。


 俺は試されるのは大嫌いだ。


 だから、なんとしても、この暗号を解いて、暗号の送り主に文句を言ってやらねばならないな。


  ★


「エリザマリーの髪色は、スカーレットだったんだよ」


「スカーレット? って何色ですか?」


「語源はペルシャ語で(あかね)染めの織物のことだったらしいけどもね。色としては、ちょっと黄みがかったくすんだ赤色だよ。カノさんの髪と同じ色なんだ」


「とするとアオイさん……。まさか、実はカノさんの正体がエリザマリーだったとか、そういうオチだったり?」


「それは無いでしょ。だって、さっき卵型の警備機械に襲われてたじゃないの」


「あぁ、そうか。本物のエリザマリーだったら襲われることはないはずですもんね」


「あとカノさん、髪の毛染めてるんだよ。エリザマリーに憧れて赤髪にしたって言ってたから」


「コスプレってわけですね」


「あのさぁ……それ、本人にきかれないようにね。おこられるよ? この状況でカノさんが、あのヤバイ警備機械を大量に解き放ったりしたら、こっちは即死でしょ? それじゃなくても、神聖皇帝オトキヨ様のことを『オトちゃん』とか呼んだり、最近のラックは、なんていうか、危ういなって思う。あまり心配させないでよ」


「まぁ、そうですね」


「あ、テキトーに流した。よくないよ、そういうの」


「へいへい」


「まったくもう」


 さて、俺たちはそんな雑談を繰り広げながら、二人で書庫内を歩き回り、文字列を集め続けていた。


 さきほどカノさんの様子を見に行ったりもしたのだが、ものすごい長い腕で巨大な卵型の機械をしっかりと制しながら、くーくーと静かないびきをたてて眠っていた。あんな大量の機械を背に受けて眠ることができるとは、さすがだ。


 それにしても、この書庫での滞在時間は、もうずいぶん長い気がする。何日……いや、下手すると何週間か、何ヶ月とかかもしれない。フリースやレヴィアはどうしているだろうか。高い高い天井を眺めながら、二人の女の子の顔を思い浮かべる。無事だといいんだけども。


「ラック、次で最後だけど、ちゃんと文になりそう?」


「ちょっと、微妙ですね……」


「ふぅん、そう」


 俺たちは、黒いメモ紙が示す最後の本を手に取り、開いた。アオイさんと一緒に何度かチェックし直しながら指定された行のメモをとり、とりあえず全ての文字列を集め終えたのだった。


 いや、長い宝探しだった。面倒だった。本当に大変だった。


 俺の場合、ほぼ全ての本が光を放っているから、なおさら目が疲れるってもんだ。


 けれども、まだ終わりじゃない。


「意味わかんねぇなこれ」


 指示に従って文を集め、指示された読み方に従って辞書とにらめっこしながら解読したはずだった。けれど、全体的に意味が通らない箇所ばかりである。一体、何が間違っているのだろうか。それとも、間違ってないけど、また何か別の暗号を解く鍵が必要なのだろうか。困った。行き詰まった。


「どれどれ?」


 アオイさんは、メガネの位置を整え、俺が作った意味不明な文を見つめた。


 そして、「うーん」と(あご)に手を当ててうなった後、俺が持っていた重要手掛かり、数字が羅列(られつ)された黒いメモ紙をとりあげると、絨毯の上に座り込み、二つの紙を並べて床に置き、両者をつきあわせながら検証を始めたのだった。


 そのまま半日、ああでもないこうでもないとブツブツ呟いていた。


 俺が作った文は、意味が通った文章になるところもあるのだが、虫に食われたみたいに特定の文字列によって遮断されていた。もしかしたら、そこに何か文字を置き換えることで読めるようになるのかもしれない。


「でもな、やっぱり、何か変なんだよな。違和感がな……」


 ある程度の文として読めるということは、文字列を拾って並べて逆から読むという考え方は間違っていないんだと思う。


 俺の収集の過程のどこかに誤りがあったということなんだろうけど、何がどうダメなのか、皆目(かいもく)見当がつかない。


 俺たちが今、挑んでいる暗号は次の通りである。


 ――しるしを拾い探し集めよ。龍の足跡を探し集めよ。尾と頭。頭と尾。川は蛇行し、さかのぼる。まがり(かど)(しるし)をのこして。


 これに、ヒントとなる紙がある場所を示す「1954の120を紐解け」という言葉がくっついていた。


 黒い紙に書かれた文字列に従い、いくつもの本を開き、多くの二文字を書き出していった。三回くらいチェックもした。


 でも、きっと、どこかでミスをしている。何が悪くてちゃんと意味の分かる文にならないんだろう。もしかして、書庫の中の本が動かされていて、ズレてしまっている棚があったとか、そういう話だろうか。だとしたら、本を動かした者は俺とアオイさんに謝りに来るべきである。


 俺たちは、暗号のヒントとなる文から、川がさかのぼるというキーワードを見つけ出し、本棚の右下から本を数えてきた。


 右から左へ数えていって、()()()()()()()()()()()()()()()()数えて、そうして見つけ出した本から一文を取り出してきた。


 けれども、文の流れがうまくいきそうになってくると、すぐに「考えを正す」という意味の言葉が現れる。しかも、他が古代語なのに、ここだけマリーノーツの現代語が登場して妨害してくる。


 その結果、ものすごい量の「考えを正す」といった意味の言葉があらわれてしまった。場所によっては、いくつも連続で、「考えを正し考えを正し考えを正す」とかいう文字列が出現してしまっているところもある。


 もう俺には、どうすればいいんだか、わからない。お手上げだ。


「あっ!」


 やがて、アオイさんが閃いた声をあげた。


「どうしました、アオイさん」


「ラックのミス、みつけちゃった」


 満面の笑みである。ものすごい嬉しそうな、アオイさんなのであった。




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