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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第七章 星の祭り

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第154話 レヴィアと逢引き(1/9)

 翌朝、俺は早起きをして、レヴィアの部屋に忍び込んだ。


 決して褒められた行為ではないけれど、デートしたいんだから仕方ないじゃないか。


 というわけで、ここはレヴィアとフリースの二人部屋である。


 真っ暗な部屋の中、ロウソクの炎をかざすと三つのベッドが並んでいるのが見えた。一つは空っぽで、あとの二つのどちらかがレヴィアだ。


 当てにいこう。


 奧がレヴィア、空っぽの真ん中を挟んで、手前がフリースだとみた。


 答え合わせ。


 手前のベッド、布一枚をかけて静かに眠るフリースの表情はどこか満足げだった。


 真ん中には誰もいなかった。


 つまり、俺の予想は大正解。ひとり小さくガッツポーズをして、奥へと進む。


 ミッションが今はじまる。満足げに眠るフリースを起こさぬように、レヴィアだけを連れ出さねば。


 奥のベッドでは、レヴィアが横向きに丸まって眠っていた。


 なぜか洒落た羽根つきの貴族帽子をかぶったまま眠っている。よほど気に入っているのだろうか。そりゃ似合っているけども、


「レヴィア、おいレヴィア」


 ロウソクの火を近づけても起きなかったので、ゆすってみる。


「んぅ……」


 迷惑そうに眉を八の字にしながら寝返りを打って、俺に背を向けてしまった。


 だが俺は諦めない。反対側に回り込む。


「レヴィアってば、起きろ」


 頬をむにむにと引っ張ったとき、やっと目を開け、むくりと起き上がり、目をこすった。


 一度こちらを向いたかと思ったら、何も言わないまま再び仰向けに寝転んでしまった。


「おいレヴィアってば」


「なんですか、もう」


「遊びに行こう。お祭りだ」


  ★


 忍び歩きで部屋の外に連れ出した後、帽子ずれてるぞ、と言いながら直してやろうとしたら、伸ばした手を叩き落され、「イヤ!」と拒否された。


「ご、ごめん……」


 祭りの会場についたかと思ったら、そこには、ただの日常があるだけだった。早い話が、昨日でお祭りは終わっていた、と、そういうわけである。夜のうちに全て片付けられてしまった。


 レヴィアが俺を横目で見上げながら、「お祭りは?」などと言った。


「ごめん……」


 じゃあどこか別のところに行こうかと思い、「そうだ、ホクキオにでも行くか? 久々にアヌマーマ峠でものぼってさ」とか言ったら、「ヤです! 絶対ヤダ!」と激しく拒絶された。


「ごめん……」


 すっかり出鼻をくじかれ、どうしたらいいかと考え込んでいたところ、日傘をさして歩いている人が視界に入った。そこで俺は閃いた。


「じゃあレヴィア……こういうのはどうだろう、昨日借りた傘を返す用事があるから付き合ってくれないか? 傘の持ち主はサウスサガヤあたりをよく知ってるからな。イイ感じのデートスポットでも紹介してもらおう」


 レヴィアは頷いた。


「いいですよ。どうせお祭りはやってませんし」


 ざくざくと言葉が胸に突き刺さってくる。


「ごめん……」


  ★


「あのー、このあたりで傘を売っているところってありませんか?」


「傘ですか? いやぁ知りませんねぇ。ネオジュークに行けば何でも揃いますよ」


 石畳の道を歩いていた女性は親切に答えてくれたけれども、今求めているのはそういう情報ではないのだ。


 別の人にもきいてみる。紳士っぽい男の人に、ちょっと質問を変えて聞いてみた。


「バニーガール? うさみみ? カラフルな和傘? そういえば、昨日お祭りで、そういう子たちがいたような」


「そうです。それです。その子たちがいるお店って、どこにあります? このあたりにあるはずなんですけど」


 男性はしばらく黙り込み、やがて優しく(さと)すように言う。


「君の後ろにいる子は、明らかに未成年ではないか。まるで白日の巫女のような白い服を着用させているのも問題だが、なによりバニーガールが接客をするようなオトナの店に連れて行こうなどというのは、いただけない。そのような常識外れを平然とやってのけているところをみると、転生してきたばかりなのかも知れぬが、到底見過ごすことはできない」


「え、あの……」


「王室親衛隊に通報するが、よろしいか?」


 よろしくない!

 最悪の事態!


「いえ、その、すみません! もうやりませんから!」


 俺はレヴィアの手を引いて逃げ出したのだった。


「ふぅ、ここまでくれば大丈夫だな。レヴィア、大丈夫か?」


「ちょと、疲れました」


 ハァハァと息を切らしている。


「ごめん……」


 さっきから謝ってばかりだが、本当に申し訳なく思うんだから仕方ない。なんて情けない男だよ、と自分で自分を責めたい。


 傘を返すのなんか簡単だと思っていたのに、返す相手の手掛かりさえ掴めず、しまいには通報されそうになる始末。なかなかデートが始まらない。


「でも、少し楽しかったです」


 今までのどこに楽しめる要素があるんだか、レヴィアの感覚がわからない。


「こうなったら……知り合いにきくか!」


 レヴィアをしばしベンチに座らせ、落ち着いてから、一緒にアオイさんのところへ行くことにした。


「アオイに会うんです?」


「だめか?」


「許します」


 いちいち許可が必要なのだろうか。


 しかし、現実世界の汚いアパートを再現したような住居を訪ねてみたのだが、いない。このゴミ屋敷にいないとなると、どこかに出勤しているのだろうか。


 なんとかアオイさんに会おうとギルドをたずねてみたが、「現在、サウスサガヤギルドには居りません」と受付のメガネ美女に言われ、詳しく聞かせてもらおうと思ったら、「職員の行き先を教えることはできない規則です。そんなことも知らないのですか? 本当に冒険者様でしょうか? 詳しく調べたいので身分証をお願いします」と怪しまれてしまった。


 傘屋のバニーガールを探すのは、俺にとっては思いのほか難易度の高いミッションだったらしい。


 またしても逃げ出した俺たちは、街道沿いのベンチに戻った。


「ちょと、喉が渇きました。何か飲み物はありませんか?」


「飲み物か」


「冷たいものがいいのですが」


「フリースがいれば氷がたっぷり手に入るんだがな」


「はい? だれですかそれ」


 その返答はちょっぴり陰湿だよレヴィアちゃん。仲間なんだからちゃんと仲良くやってくれ。


「まぁ、飲み物なら……そうだ、あそこなら」


 俺たちは次の目的地に向かった。


  ★


「いやぁ、ラックくんには悪いけれど、この店はあくまで薬屋だからねぇ、飲み物は取り扱ってないんだよ。お水なら出せるけど、あっ、お茶ならあるよ。すごく身体にいいやつ。お金は支払ってもらうけども」


 ここは、アオイさんのお友達の薬屋だ。この店主は丸眼鏡が特徴的で、猫背で陰気で、アオイさんが絡むと妙に攻撃的になることがある男だ。


 この薬屋の店は信用できるのか、と不安になるほどに外観がボロボロのこの店は、街道沿いにあって近かったし、現実世界の薬局には、薬だけじゃなくて飲み物とかお菓子とかも売っているから、もしかしたら色々得るものがあるんじゃないかな、なんて思って来てみたのだが、どうもジュースの類は置いてないらしい。


「レヴィア、お茶でいい……わけないよな」


「お茶、にがいです、いやです」


「だよなぁ」


「ところで、目的はお茶だけ? たとえばその、僕になにか返すものがあるとか。具体的に言うと、頭文字は『エ』で、次の文字は『リ』なんだけど……」


 以前ハタアリさんと縁を切るためにあらゆるアイテムのなかでも最高級の無印のエリクサーを贈ったのだが、あれはアオイさんが薬屋さんから(なか)ば強引に巻き上げたものだからな。つまり、借りているみたいなものだから、いつか返さねばならないとは思う。


 だけど、それは今じゃない。


 理由は単純明快。今の俺はエリクサーを持っていないからだ。


 しばらく入手の予定もない。


「いやぁ、もうちょっと待っていただけませんかね、薬屋さん」


「いいんだけどね、別にね、できればすぐにでも返してほしいけど、いつでもね」


「入手したらすぐに返しますよ。あと、アオイさんがどこに行ったか知ってます? ギルドを訪ねたんですけど、教えてもらえなくて」


 そう、ここに来たのにはもう一つの目的がある。アオイさんの行方を知っているかもしれないと思ったからだ。


「え? アオイちゃんなら、休暇をとってミヤチズに研究旅行をしているよ。僕も一緒に行きたいって言ったけど、ふられちゃってね……ハハハ……ラックくんが来るのを待ってるんじゃないかな……ハハハ」


 暗黒オーラを撒き散らしながらそんなことを言った。


 いつかミヤチズで会おうという話はした記憶があるけども、もう少し先になりそうである。あとで手紙を送って現状報告でもしておこうかな。


 と、そう考えた時、いつのまにやら薬屋の暗黒な空気はレヴィアにも伝染して、「アオイと何か約束してるんですか?」とか言ってきた。


 よし、話を変えよう。


「それはそうと、薬屋さん。ここにイイ感じの飲み物がないなら、レヴィアに甘めの超うまい飲み物を飲ませてやりたいんですが、どこかで飲めるところはありませんか?」


「え。そうだなぁ、心当たりが多すぎて、どこを紹介しようか……」


「できれば、バニーガールがいる店の手掛かりも欲しいんですけど」


「バニーガール? 何で?」


「借りた傘を返したくて」


 俺は薬屋さんに赤い傘を見せた。


「あぁ、その傘は! 僕も買ったよ、この傘。昨日やってた特別イベントだよね。ラックくんも彼女らとデートしたの? いやぁ、実は僕もついついバニーさんと遊んじゃってさぁ、すごく楽しくて限界まで延長したんだ。ちなみに、僕は藍色を選んだよ」


 お客様だったか。まさか身近にハマる人がいるとは……。しかも売り上げにものすごく貢献してくれたようである。


「薬屋さん、マッチングサービスは受けられましたか?」


「ああ。同じ色の傘を選んだ人と会って話してみたんだが、僕とは合わなかったよ」


 なるほど、バニーたちはマッチングのときに同色の傘を選んだ二人を会わせることにしたのか。時間の短縮にもなるし、いい工夫だ。


「残念ながらカップル成立とはいかなかったけれど、バニーさんになぐさめてもらって、帰りに傘だけ銀貨二百で買わせてもらったんだ」


「ありがとうございます」


「え、なんで?」


「いえ、こっちの話です。それはともかく、その傘を取り扱ってるお店って、どこにあるんですか?」


「あぁ、そうだね。飲み物と、バニーと、傘返却だっけ? その場所に行けば、ラックくんの目的が全て果たせるよ」


「本当ですか?」


「ちょっと待ってね。今、地図を描くから」


「ありがとうございます」


 俺の言葉に合わせて、レヴィアもぺこりと軽く頭を下げた。




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