第3話 異世界に召喚された勇者、いきなり行方不明になる
「うっ! 眩しい!」
視界が切り替わり眩しさに目を瞑ってしまった。
どうやらきちんと召喚されたようで、薄暗いアパートの部屋から城に転移したらしい。
「どうしてこんな場所に召喚された?」
てっきり魔法陣が存在している薄暗い地下室あたりで召喚されると思っていたのだが、俺が召喚されたのは自然豊かな中庭だったからだ。
「まあいいか。その内迎えが来るだろう」
召喚時に座標がズレるのなんてよくあること。勇者として召喚されたのだから丁寧に案内してもらえるはずだ。
「そういえば、身体の方は……」
王様の前に連れて行かれる前に自分が若返ったか確認しておこうと噴水に顔を近付けた。
「本当に若返ってるな」
人生を22年取り戻したのと同じだ。これだけでも召喚に応じた価値があるのではないだろうか?
「おっと、ステータス画面も確認っと」
ちゃんと取得した魔法が使えるようになっているか、割り振ったステータス通りになっているか?
確認しておく必要がある。
「よし、ギリギリだけどちゃんと使えるようになってるな」
これさえあれば問題はない。たとえこの世界の人間が俺に無理難題を押し付けようとしてきても回避することができる。
俺がホッと溜息を吐いていると、空を巨大な雲が移動していた。
異世界とはいえ、この壮大さには驚かされる。
雲の上には巨大な城が建っているようで、かなり遠方にあるにもかかわらずはっきりと姿を見ることができた。
『魔王城が迫ってきた!』
『魔王が勇者召喚に気付いたんだっ!』
周囲からの情報で、あれが魔王の根城なのだということがわかった。
「なるほど、あの魔王城に入るには様々な場所を旅して空を飛ぶ方法を手に入れなければならないってことか……」
チュートリアルにもその旨が書かれていた。あの城には魔王が待ち構えているのだが倒すためには5つの紋章やら6つのオーブやら7人の王族に認められ8つの祠にあるスイッチを起動し神の御使と呼ばれる生物を手懐けなければならないのだという。
正直、その前にやっていたゲームと比べても手順が複雑でやることが多くて面倒だと思っていたし、回収しなければならないアイテムも膨大でどうしようか悩んでいた部分もある。
「だけど、飛んで火に入る何とやらってやつだな。好都合だ」
向こうから姿を見せてくれたことで、それらの手間が省けた。
こんなチャンスは二度とないかもしれないので早速召喚で得た力を使わせてもらうことにする。
『勇者様を探せ!』
『城のどこかに召喚されているらしいっ!』
俺は慌ただしく騒ぐ兵士の声を聞き流すと……。
「【転移】」
俺はその場から姿を消すのだった。
★
「駄目です! 見つかりません!」
しばらく時間が経ち、玉座の間で兵士が国王に報告をしていた。
「勇者がどこにもいないだと?」
広間には大勢の人間が集まっておりざわついている。
「もしかして、召喚されていないのではないでしょうか?」
「ミレーヌ様、それはないかと。このセルヴァス。貴重な魔石を用いて確かに召喚を成功させましたので」
宮廷魔導師筆頭のセルヴァスが嘘をついているとは思えない。ミレーヌは険しい表情を浮かべる。
「おそらく、想定以上に座標がずれてしまい城下街にいるのでしょう。捜索範囲を広げておりますゆえ」
勇者の風貌は目立つので、見つけるのは時間の問題だ。
「ならば良いのですが……。召喚したての勇者様は秘めた才能はありますが一般の兵や魔導師と変わらぬ強さです。魔王軍の手の者に襲われたらと思うと、ミレーヌは不安なのです」
ミレーヌは胸元で手をぎゅっと握ると……。
「勇者様。どうか無事な姿をお見せください」
こちらへと向かってくる魔王城を見るのだった。




