第一話 準備万端な魔王軍
『女神のオーラを確認しました!』
『人間の国の城内で儀式が始まりました!』
魔王の間に緊張が走った。
今現在、人間が勇者の召喚を行なっていることがわかったからだ。
『いよいよ、我らが天敵がこの世界に降臨するのか?』
『どうにかして被害を最小限に食い止めないといけないよな……』
『異世界から召喚される勇者って伝説の『チートノウリョク』って言うのがあるんだろ? どれだけこっちが有利でも『ゴツゴウシュギ』って未来改変で運命を捻じ曲げると聞くぞ』
『俺、今年四天王になったばかりなんだが、正直選挙に負ければ良かったよ』
この場に集う魔王軍のメンバーは不安そうな表情を浮かべている。
「しずまれっ! 愚か者どもっ!」
そんな皆を一人の男が怒鳴りつけた。
巨大な魔石が嵌め込まれた杖と絶大な防御力を誇るマントを身につけたーー魔王クラオスだ。
「たとえ異世界から召喚された勇者とて、最初から強いわけではない」
『ですが……魔王様』
四天王のゴルゴロンがクラオスに声を掛けた。
「私はこれまで敗れてきた魔王の伝承を徹底的に調べ尽くした」
魔王が勢力を伸ばすたび勇者が召喚され討伐される。
人間の国々にも様々な伝承が残されており、クラオスは自ら足を運びそれらを調べていったのだ。
どのように召喚されるか?
見た目は?
性格は?
能力は?
弱点は?
とにかく細かく調べて行くうちにいくつかのことに気付いたのだ。
「召喚された勇者はまず世界中を旅して力をつけていく」
そこで魔王軍に苦しめられている人々を助け、感謝され、そしてその者たちが魔王討伐に役立つアイテムを勇者に託す。
「だから私はお前たちに命じ、先にそれらを集めさせた」
いかに勇者といえど、アイテムがなければ魔王城に到達することはできない。
「何せ、この魔王城は世界を見下ろ上空に浮かんでいるのだからなっ!」
勿論、ここに到達する方法は存在しているのだが、クラオスはあらかじめそれらに必要なアイテムを集め宝物庫に収めてある。
「勇者は決してここに到達することができない!」
魔王を討伐するためにはアイテムを集める必要があるが、必要なアイテムが魔王城にある時点で攻略は不可能ということになる。
「さらに、念の為。勇者召喚の現場には四天王を一人配置してある」
召喚した勇者を仕留めることができればラッキー程度に考えているが、これまでこの手を打った魔王は存在していない。
基本的に魔王軍の者は自分達のほうが優れていると考えているので、格下相手に卑怯な真似をするのはプライドが許さなかった。
だが、クラオスは知っている。
そうやって侮った結果が、魔王の全敗に繋がっていることを……。
「勇者を暗殺できればそれでよし、もし暗殺できなかった場合は全モンスターを引き上げさせ、奴に一切の経験を積ませないことだ」
自分の天敵になるかもしれない相手を鍛えてやる義理はない。
確実に勝てる状況まで作戦を練り続けるつもりだった。
「愚かな勇者め! 周到なこの策を破ることができるかな? はーっはっはっは!」
魔王クラオスの笑い声が魔王の間に響くのだった。




