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アカシック・アーカイブ  作者: 夙多史
全知の公文書編―Competition
92/159

FILE-90 離れ離れのチームメイト

 戦場となる魔術的保護が施された広大なフィールドは、大きく分けて六つのエリアで構成されている。

 西側には砂漠が広がり、そこから南方向に進むと荒野になる。荒野から東に進むと森があり、森を抜けると草原、その先にはさらに深い森が鬱蒼と繁っている。森は北の岩山群で途切れ、最終的に西の砂漠へと戻ってくる。

 各地に川が流れ、大小様々な湖が点在する。森に囲まれた中央の湖が最も大きく、恐らく多くの参加者がわかりやすい目印として目指していることだろう。


 もっともマップは一部の参加者を除いて配布されていないため、九十九のように空を飛んだりして全体の地形を確認する必要はあった

 砂漠エリア、荒野エリア、草原エリア、森林エリア、岩山エリア、そして中央エリア。この六つが行動可能なエリアである。エリア外に出ようとしても、魔術的に歪められた空間のせいで元の場所に戻ってしまう仕組みだ。

 既にリタイアした参加者もいるが、この戦場に二十四チーム百二十名がランダム転移された形となる。


 黒羽恭弥と幽崎・F・クリストファーは奇跡的に近い場所に転送されていたが、他のチームメイトたちはそうではなかった。


「……困ったわね」


 レティシア・ファーレンホルストは荒野の大岩の影に身を潜めてタロットカードを地面に並べていた。


「これたぶん、あたしが一番離れてる」


 チームの居場所を占った結果、レティシアを除いた全員が北側寄りだった。チームメイト以外に味方と呼べる人は近くにいるようだが、宝貝で確認すると知らない相手だった。漢服を着ていたから〈蘯漾トウヨウ〉の構成員だろう。彼はこちらに向かって移動している。


 一人でいるよりはマシかもしれない。けれど、レティシアは〈蘯漾トウヨウ〉を信頼しているわけではないのだ。味方面して近づいて来て、背中を見せたら刺されるなんてことも普通にあり得るだろう。


 ――必ず最後に裏切る予定なら、逆にそういう意味で信頼できるんだけど。


 最後までは裏切らない。――その考えは危険だ。

 レティシアと合流しようとしている〈蘯漾トウヨウ〉の構成員には悪いが、さっさと北へ移動してしまうべきだ。

 安全に移動できる確率の高いルートは既に占っている。


「念のため最後に……」


 レティシアは宝貝に魔力を流す。先程は一キロほど離れていた〈蘯漾トウヨウ〉の構成員だったが――反応がなかった。


「え?」


 故障ではない、と思う。探知範囲外に出たわけでもない。なにせこちらに向かっていたのだから、さっきより距離が縮まってなければおかしい。

 反応がないということは――


「まさか、消された?」


 祓魔師たちか、学院警察か、それとも一般参加者か。なんにしてもレティシアが探知していない敵が近くに潜んでいる。


「さっきのチャイニーズのことだったら、答えはイエース!」


 声は上から降ってきた。

「――ッ!?」

 レティシアが隠れている大岩の上に立って見下していたのは、サングラスをかけた黒人の男子生徒だった。

 退魔師ではない。学院警察の腕章もない。

 一般参加者だ。

 上級生……階級は第五階生以上だと思われる。


「ミーはとてもラッキーね。スタート早々に二個目の魔力結晶がゲットできるのだから!」


 男子生徒は好戦的に笑うと、バッ! と見せるようなアクションでレティシアを踏み砕くように大岩から飛び降りた。


        ☆★☆


 甲賀静流は困っていた。


「ここはどこでござろう?」


 見渡す限り――岩、岩、岩。

 皆とバラバラに転送されてしまったことは、あっちこっち駆け回って誰も見つからなかったから理解できた。しかし、ここからどうすればいいのか。どこへ向かえばいいのか。ついでに動き回り過ぎて自分の現在位置まで見失っている静流だった。


「あ、そうであった。確か貝殻のオモチャみたいなのを貰っていたでござる」


 静流は懐から宝貝を取り出す。魔力を通すと探知の仙術が走り、周囲の味方の情報を取得する。


「む、何人かいるでござるね。師匠たちはいないようでござるが……この目を閉じてる人は見たことあるでござる」


 とりあえず知り合いだからそっちに行こう。――そう思って走り出そうとした静流だったが、ふとなにかを感じ取って足を止める。


「この気配……こっちでござるか」


 静流は目を閉じている人――王虞淵がいる方角とは真逆を見る。そこには森が広がっており、たった今感じた気配の主たちがいる。

 口元を隠しているマフラーの下で自然と笑みが浮かんだ。


「知り合いよりは友達でござるね」


 そう呟くと、静流は森の方へと飛び込むように駆け去っていった。


        ☆★☆


 そして、その頃。

 フレリア・ルイ・コンスタンは砂漠のオアシスで――のんびりと紅茶を飲んでいた。


「砂漠なんて初めてですねー」


 オアシスには大理石の建物が建っており、フレリアはそのバルコニーのテーブルから感慨深げに景色を眺めていた。

 当然、フレリアがルーン魔術と錬金術で建築した建物だ。ここには転移のルーンを刻まない限りアレクはやって来られない。それをいいことに全力で寛ぎモードのフレリアである。


 遠くには岩山が見える。砂漠はそこで終わっているようだが……フレリアはそちらに向かうことはしない。理由は単純。気分が乗らないから。


「まあ、待っていればそのうち誰か来るんじゃないですかねー」


 下手に動き回るよりも、周囲が見通しのいい砂漠であるオアシスを拠点にするのは悪くない手だと思う。砂漠に出て未知の生物に襲われたり、流砂に呑まれては大変。一応フレリアなりの考えがないわけではないのだ。

 ここならば水も困らない。あまり美味しくなさそうな木の実もあったので、三日間くらいなら問題なく滞在できるだろう。

 ただ――


「お腹が減ったらアレクを呼ばないとですねー」


 持ってきていたクッキーをパリポリ齧りながら、フレリアはサバイバルとは思えない緊張感のなさでそう呟くのだった。


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