表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アカシック・アーカイブ  作者: 夙多史
全知の公文書編―Preparation
79/159

FILE-77 曲者たちの会合

 その後、恭弥とエルナで幽崎の尋問を行い、〈血染めの十字架ブラッディクロス〉に関する情報を可能な限り聞き出した。


 尋問前の態度からもそうだったが、幽崎は拍子抜けるほど簡単に様々な情報を喋った。組織の場所。構成している人員。幹部の得意魔術。こちらが訊いていないことまで面白可笑しそうに話すものだから、全ての裏付けが取れるかどうかは怪しいところである。

 そんな幽崎でも組織の全てを把握しているわけではなかった。特に〈血染めの十字架ブラッディクロス〉のボス――『盟主』と呼ばれている人物には会ったことすらないそうだ。幽崎の口がこうも軽いのはその辺りに原因がありそうではある。

 どの道、恭弥たちにできることは得た情報をBMA本部に送ることくらいだ。あとは向こうに任せておけばいい。


 そんな恭弥たちの事情とは関係なく、総合魔術学院では創立魔道祭の開催が近づいていく。


 そして三日後の夜――中国マフィア〈蘯漾トウヨウ〉の屋敷。


 恭弥たちは幽崎と合流し、その会合パーティの会場へと足を踏み入れた。白愛と土御門は危険だから残っていてもらいたかったが、自分たちも探偵部の部員だからと頑なに同行する主張を曲げなかった。


「ほわー! すごく美味しそうなお料理がいっぱいですー! アレクアレク! これ、全部食べてもいいですかー?」


 中華風に装飾された大広間にはいくつものテーブルが並び、その上には数々の本格的な中華料理が置かれている。バイキング形式で自由に好きなだけ食べられると聞いては、食欲魔人のフレリアの目が輝かないわけがなかった。


「全部はなりません。先に私が毒見いたしますので、お嬢様は勝手に料理を取ったりしないよう――」

「この北京ダック絶品ですー♪」

「お嬢様……」


 来て早々に頭を抱えるアレクには同情するしかなかった。フレリアなら多少毒を混ぜられていても効果なさそうな気がするのは恭弥だけだろうか?


(気をつけなさい、恭弥。ここにはBMAのブラックリストも多く集まっているわ)

(ああ、わかっている)


 恭弥は肩に乗ったハツカネズミのエルナと共に周囲を警戒する。大広間には探偵部以外にも大勢の人間が集まっていた。

 スタッフとして忙しなく働いている漢服たちは〈蘯漾トウヨウ〉の構成員だろう。彼らが持て成している客たちもどれもこれもが曲者だ。


「あの、誰がどのような危険人物なのか教えてもらえませんか? できるだけ近づかないようにしますので」

「だな、下手に関わってろくでもないことされちゃ敵わんし」


 白愛と土御門は無理言ってついてきたこともあり、自分からトラブルを招かないように注意してくれている。特に危なそうな奴らについては教えておく必要があるだろう。


(そうね。まず右手側のテーブルに集まってワインを飲んでいる連中は〈グリモワール〉――禁術指定の魔導書をいくつも生み出した秘密結社よ)

「今そいつらと楽しげに交渉している男は〈地獄図書館ヘルライブラリ〉の司書だな。〈グリモワール〉の一番の取引先だ」

(中央奥のテーブルで騒いでいる武装した連中は国際魔術テロ組織の〈DD団〉。その手前のテーブルが世界各地の戦場を荒らし回っている猟兵団〈燃える蜥蜴座〉。左端に固まっている日本人は新興宗教の〈天顕宗〉ね。流石に学校だからどの組織も生徒に扮した若者を送り込んでいるわ)

「あ、拙者学院に来る前にその宗教の勧誘を受けたでござる」


〈天顕宗〉は西日本を中心に活動していると聞く。大阪から学院入りしたらしい静流は同じゲートをくぐったのだろう。


「わ、わかっていましたけど物騒な人たちばかりですね……」

「犯罪組織ばかりってわけじゃないわよ」


 白愛がやっぱり来ない方がよかった勢いで顔を青くしていると、適当に料理を皿に盛り合わせてきたレティシアが話に入ってきた。


「料理取りながらぐるっと見てきたけど、CIAにKGBにMI6……各国の諜報機関の人間もちらほら見えたわ。あっちは魔術エネルギー開発機構の若手研究員だし、そっちは生まれ持った魔術的特徴のせいで捨てられた子供たちを保護してる孤児院組織〈世界樹の方舟(アーク・セフィラ)〉。あたしたちもそう。幽崎の言った通り、善悪の区別なく集まってるようね」


 レティシアから料理の皿を受け取りつつ、恭弥は感心した。


「意外と調べているんだな」

「失礼ね。あたしだってちゃんといろいろ調べてから探偵部を作ったのよ」


 そう言って春巻きを齧ったレティシアは、少し真剣な目になって恭弥をまっすぐ見詰めた。


「だから、恭弥、もう隠さなくてもいいわ。あたしだけ仲間外れなんて嫌よ?」

「レティシア……」


 恭弥がレティシアだけに伝えていないこと――自分たちの正体を、彼女はとっくに気づいている。だが自分から看破するのではなく、白愛と土御門にしたように、恭弥の口から告げてほしいということだ。

 本当に、もう隠すことではない。


「俺とエルナは、BMAだ」

「うん、知ってた」


 レティシアは可憐に微笑むと、そのまま僅かに頬を赤く染めて恭弥を見詰め続けた。


(む、なんか不愉快な空気ね)

「ヒャハハ! いちゃいちゃしてんじゃねぇぞ黒羽! そんなことしてっと俺みたいなそういう空気をぶち壊したくなる奴が寄ってくるぜぇ?」

「いちゃいちゃなんかしてないわよ!?」


 山盛りの肉料理を両手に掻き集めた幽崎が鬱陶しいことに本当に寄ってきた。チームには入れたが仲間になった覚えはないのだが、実は幽崎も一人は寂しかったのだろうか?


「しかしよくもまあ、こんなに潜入させたもんだよな。静流ちゃんみたいなのでも余裕で合格してるし、入学試験ってなんだったんだ?」


 土御門が中華まんを頬張りながら疑問に首を傾げる。


「そりゃあ決まってんだろぉ? 学院側にもいるんだよぉ。全知書を狙って俺らをわざと招き入れた大物がなぁ」


 幽崎の言葉に恭弥はオズウェル・メイザースの顔が浮かんだ。それができるとすれば彼くらいだ。もしもワイアット・カーラが入学試験を牛耳っていたのなら、今この場にいる人間で入学できたのは白愛と土御門だけかもしれない。

 と――


「それが幽崎はんのチームメイトやえ? BMAまでおるやん。あてのチームに入った方がよかったんとちゃいます?」


 制服の胸元を大きくはだけた赤毛の美女が妙な関西弁でこちらに歩み寄ってきた。すると幽崎の口元がニィと歪む。


「出たなぁ、〈ルア・ノーバ〉の赤女狐」


〈ルア・ノーバ〉……人類は文明を捨てて自然に還るべきという危ない思想の下に集った狂信集団だ。中国マフィア〈蘯漾トウヨウ〉と共に今回の連合を企画した組織だと幽崎からは聞いていた。

 この女がそのリーダーなのだろう。


「まあええわ。あては九十九(つくも)。〈ルア・ノーバ〉の幹部や。本来なら名乗りたくはないんやけど、今回は主催やしな。どこの人間でも目的が同じやったら歓迎するえ」


 妖艶に微笑む赤毛美女――九十九。実力は相当だろう。恭弥や幽崎のようななにかに憑かれているような魔力を感じる。


「うんうん、BMAの黒羽恭弥。ファーレンホルストのご令嬢。フランス宮廷錬金術師。先日の辻斬り騒動の幽崎くんじゃない方。戦力としては申し分ないよねぇ」


 するともう一人、漢服の青年が目を閉じたまま危なげなく恭弥たちの下へと歩いてきた。


「初めまして。僕は〈蘯漾トウヨウ〉の首領で王虞淵(ワングエン)と申します。今夜はこの会合に参加してくれて凄く感謝しているよ。ただ、ここで僕らを捕まえようという馬鹿な考えは捨てた方が身のためだねぇ。全部敵に回すから」


 閉じているように細い目だと思えば、本当に閉じている。それなのに恭弥たちが見えている様子だ。〈蘯漾トウヨウ〉の若き首領……この場にいるということは、ただのマフィアの首領というわけではなく彼自身も魔術に造詣が深いのだと思われる。


「安心しろ。そっちがなにかしない限りは手を出すつもりはない」

「うんうん、話せばわかる人って好きだねぇ」


 実際この場の全員を敵に回すとなると、いくらアル=シャイターンの力を使っても完封されてしまう可能性がある。それほどの連中が集まっている。

 BMAとしては見逃したくないブラックリストばかりだが、今回は目を瞑るしかなさそうだ。そもそも、そういう指示は恭弥もエルナも受けていない。


「それじゃあ楽しんでねぇ。あ、他の組織や個人にも挨拶しておくことをオススメするよ」

「大会で鉢会った時に間違って潰し合わんようにしとくんやえ? そのための会合やし」


 九十九と王虞淵はこれから打ち合わせでもあるのか、並んで恭弥たちの下を去って行った。


 これら全てを同時に敵に回すつもりでいる学院の戦力を、改めて見積もり直した方がよさそうだと恭弥は思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ