表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アカシック・アーカイブ  作者: 夙多史
全知の公文書編―Preparation
69/159

FILE-67 探偵部員集合

 探偵部のミーティングは予定を早めて十五時から行うこととなった。

 その場にいなかった部員たちにも連絡を回し、タロットカードを忘れた上に財布まで無くした運の悪いレティシアに付き合わされて一旦彼女の寮へと向かった。


 それから数時間後――

 今や補強と掃除を終えて新築のように蘇った旧学棟ぶしつに、探偵部員たちは全員欠けることなく集合していた。


 いつものように部長ということになっているレティシアが教壇に立ち、なにも主張してこない胸を張ると――


「ミーティングを始める前に、二つ確認したいことがあるわ」


 そう言って、まずはフレリアの方を――正確には、彼女の机にででーんと主張激しく置いてある謎の物体を見た。


「それは、なにかしら?」

「クッキーのお城ですー」


 ニコニコと機嫌良さそうに見ればわかることを説明してくれるフレリア。その斜め後ろではアレクが疲れたように頭を押さえていた。


「本日お嬢様がお作りになられたお菓子でございます。我々だけでいただくわけにもいきませんので、皆さんで召し上がってください」


 豪勢過ぎるウェディングケーキ並に巨大なクッキー城をどうやって運んできたのかは訊くだけ野暮だろう。コンスタン家には瞬間転移術者がいるのだから。


「フレリアちゃんの手作り……だと……? マジで食っていいの?」


 土御門が感動したようにわなわなと震えながら確認すると、フレリアはのんびりとした笑顔を浮かべた。


「はい、美味しくできたと思いますー」


 そこから先は戦争だった。


「いったっきまーっす!!」

「拙者もいただくでござる!!」

「ま、まあ、せっかくだし、あたしも貰うわ」

「わしにも寄越すのじゃ!」

「わ、私も貰います! お菓子のお城なんて夢みたいです!」


 クッキー城は探偵部員たちに囲まれると、まるで爆撃でも受けているかのようにみるみるその原型を崩していく。アル=シャイターンもちゃっかり混ざっていた。


(恭弥は食べないの?)

「……余れば貰う」


 昼食を食べなかったエルナも部室では遠慮しないようで、気の利く白愛からクッキーを貰って嘴で啄んでいた。


「なにこれ超美味しい!」

「これ、すごく繊細に作っていますよ。壁はバタークッキー、こっちの屋根はチョコレートクッキー。クッキーで統一しているのに飽きないように部分部分で味を変えていますし……時間かかったんじゃないですか?」


 レティシアはほっぺたを押さえ、白愛は目を見開いて匠の業とも言うべき芸術に感動していた。

 城を建造したフレリアもクッキーを食べる手を止めず――


「錬成は一瞬でしたけど、商店街がなかなか見つからなくて素材集めは大変でしたー」


 と完成までのプロセスを語った。


「――って錬金術で作ったのコレ!?」


 レティシアが危うく吹き出しそうになった。錬金術で作成したと知った途端、今まで美味い美味い言っていたフレリア以外の全員の手がピタリと止まる。

 アレクが片眼鏡を持ち上げた。


「なにも気持ち悪がることはありませんよ。錬金術とは化学や薬学、そして料理の元になった技術でございます」

「それはそうなんだけど……なんか、なんかこう、ね? フラスコやビーカーで淹れたコーヒーを飲むような感じ?」


 その気持ちは恭弥もわかる。魔術で作られた料理が怪しくないわけがない。同じ水道水でも炊事場とトイレでは清潔さが違うと感じるように、たとえ材料がまともでもきちんとした調理器具で作らないと食べる側としては抵抗がある。


「まあいいわ、次の話に行きましょう!」

「強引に逸らしたな」


 恭弥のぼやきなどどこ吹く風で流し、レティシアは二つ目の確認事項に移行した。


「静流さん」

「む? 拙者でござるか?」


 クッキーを齧りながら静流が振り向く。


「あなたも一応探偵部員になってくれたから、ここにいることに文句はないわ。だけど――」


 レティシアは静流の頭から爪先までを一通り見回し――


「なんでそんなにボロボロなのよ?」


 静流の着ている制服は、ところどころ破けていたり焼け焦げていたりしていたのだ。


「楽しかったでござる!」

「だからなにが!?」

「曉燕殿とユーフェミア殿、それとオレーシャ殿と決闘したのでござる。師匠との勝負の最中でござったが、拙者、売られた勝負は絶対に買う主義故に断れなかったでござる」

「あの、それって大丈夫だったんですか?」


 白愛が不安そうに眉を寄せた。

 孫曉燕、ユーフェミア・マグナンティ、オレーシャ・チェンベルジー。この三人は辻斬り、もとい辻勝負をしていた静流に敗れた特待生たちだ。


「無論、勝ったでござるよ。割とギリギリでござったが」

「わざとでいいから負けときなさいよ!? また復讐されるわよ!?」

「その後みんなで『ふるーつぱふぇ』なるものを食べに行ったでござる」

「仲良くなってる!?」


 戦いの後で友情でも芽生えたのだろうか? とにかく恨まれているわけではなさそうでよかったが、恐らく再戦は今後何度も続くと予想される。静流はそれ込みで楽しそうではあるが……。

 レティシアはげんなりと肩を落とした。


「……なんで始まる前にこんなに疲れるのよ」

「レティシアちゃんツッコミ役だからなぁ」

「うっさいチャラ男! 代われ!」

「やだね。オレっちボケ担当だし」


 レティシアが手裏剣のように投げたカードを土御門はひょいひょいかわす。が、ブーメランのごとく戻ってきたそれらが背中に突き刺さって悶絶していた。


(これ以上疲れたくなければ、早く本題に入ることね)

「……そうね」


 エルナに諭され、レティシアは疲れた溜息を吐きながら改めて教壇に立った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ