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アカシック・アーカイブ  作者: 夙多史
全知の公文書編―Admission
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FILE-43 失敗と誓い

 恭弥がBMA――魔術管理局に入ったのは十三歳の時だった。

 師の下でガンドを極め、独り立ちするきっかけとなったのが魔術管理局だ。その師から「これからは自分で飯代稼げ。いいとこ紹介してやる」と話を持ちかけられたのである。


 異例の若さだったが、『魔導師』ロルク・ヴァナディースの弟子であり、実力も申し分なかったため採用に異を唱える者はいなかった。

 強力なガンド魔術の使い手として諜報課に配属されたのは割とすぐだ。そこなら例の墜落事件の真相にも迫れるかもしれないと考えた。


 期待の新人は期待以上の活躍を見せ、翌年には一部隊のリーダーを任されるようになっていた。

 エルナもBMAに入ったと聞いたのもその頃だ。

 既に動物の姿だったため再会した時は戸惑ったが、最初だけだ。修業時代の時のような関係に戻るまでたいして時間もかからなかった。


 彼女とは何度もチームを組み、全員が一回りは年上だったが、気心の知れた仲間も大勢できた。

 任務は辛いことも多かったし、人を殺さねばならない仕事や状況も少なくなかった。それでも、恭弥はBMAという組織に確かな充実感を覚えていた。

 その頃の恭弥は、まだ素直に笑顔を見せられる子供だった気がする。


 あの事件で全てが一変した。


 それは簡単な調査任務のはずだった。

 とある小規模な犯罪魔術結社の本拠地に乗り込み、そこで行われている非道な魔術実験の証拠を掴んで戻ればいい。あとはBMAの殲滅部隊が組織を締め上げる手筈になっていた。

 潜入の手引きと見張りに二人、実行に恭弥を含めて三人、エルナがオペレーターとして念話で指示を出すいつも通りの陣形だった。

 潜入も成功し、証拠の資料も呆気なく見つかった。本拠地内の人間が最も少なくなるタイミングを狙ったため当然だと思った。


 だが、それは敵の罠だった。


 恭弥たちが潜入することは、どういうわけか細かい時間まで全て組織に漏洩していたのだ。

 まず、見張りをしていた二人が殺された。前日の就寝時間ギリギリまで恭弥とトランプで賭け勝負をしていた青年二人だ。恭弥の一人勝ちで、任務が終われば夕食をご馳走してもらう予定だった。

 次に、恭弥と共に潜入していた一人が頭を狙撃された。未成年の恭弥にやたらと酒を薦めてくる飲んだくれのオヤジだ。

 狙撃手はすぐに仕留めた。だが、その時には既に組織の主力部隊が恭弥ともう一人を取り囲んでいた。

 応戦するが、潜入していたもう一人は恭弥を庇って血の海に沈んだ。恭弥を弟のように可愛がってはエルナと喧嘩していた女性だった。


 一人になった恭弥は、そこからの記憶がない。


 気がついた時、恭弥を取り囲んでいたのはエルナが呼んでくれたBMAの殲滅部隊だった。


 エルナが言うには、殲滅部隊が駆けつけた時には組織は壊滅していたらしい。記憶はないが、恭弥が一人で潰してしまったことは状況からして間違いなかった。


 あとから聞いた話によると、あの犯罪魔術結社は大物組織と繋がりがあり、その大物組織のスパイが管理局内に入り込んでいたらしい。


 スパイは排除されたが、犯した失敗はなかったことにはならない。

 思い返せば不自然な点はいくつもあった。チームのリーダーとして気づかなければならなかった。自分の力に驕って油断していたことは否めない。


 いくらガンドの魔術師とはいえ、当時の恭弥はまだ十四歳。

 全員年上過ぎて『友達』という感覚はなかったが、『仲間』であったことには変わらない。そんな彼らを死なせてしまったことに深く傷ついた。


 何日も部屋に閉じ籠ってしまい、BMAを辞めることも考えなくはなかった。


「そんなに後悔してるなら、もう二度とこんなことを起こさせないと誓いなさい。魔術も、身体も、精神も、今以上に強くなりなさい」


 そう説教してくれた相手が、カラスじゃなければ泣いていたかもしれない。

 けれど、恭弥は誓った。

 その誓いはずっと守られている。


 今も。


 そして、これからも――。

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