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アカシック・アーカイブ  作者: 夙多史
全知の公文書編―Admission
36/159

FILE-34 魔術師探偵

 同じ頃、恭弥も辻斬りの現れた現場に向かっていた。


(恭弥!)


 バサリ、と頭上から羽音が聞こえた。


(エルナか?)


 足を止め、恭弥も念話で応答する。舞い降りてきたのはカラス――ではなくフクロウだった。夜間は夜目の利く動物に変身しているらしい。


(恭弥、あなたたち今なにをしているの?)

(辻斬り犯の逮捕の協力だ。なぜか俺に疑いがかかっていたからな)


 エルナとは昼間会っていない。今日はこれが初めての遭遇である。探偵部総出で辻斬り犯を逮捕しようという作戦のことは知らないはずだ。

 恭弥の腕に止まったフクロウ――エルナ・ヴァナディースは大きな目で瞬きをする。


(そう、なら今は話さないでおくわ。そっちに集中しなさい)

(なにかわかったのか?)

(ヒントが一つ。それだけだから後で全員揃った時に説明するわ。それより――)


 脳内に響くエルナの口調がどこか鬼気迫るものに変わった。


(さっき、幽崎が寮を抜け出したわ。たぶん、こっちに向かってる)

(なんだと?)


 幽崎は過半数の特待生ジェレーター同様に辻斬り犯の逮捕には非協力的だった。気が変わったとも思えない。となると、『全知の公文書アカシック・アーカイブ』関係で動き出したと予想される。

 なにをしでかすかわからない。辻斬り犯とは別に充分注意しておくべきだろう。

 もっとも、注意が必要なのは幽崎と辻斬り犯だけでもないが。


(…………エルナ、離れていろ)


 恭弥が念話で言うと、エルナも気づいたようだ。それ以上はなにも言わず一つ頷いただけで飛び去った。


「君はあのフクロウと一体なにを話していたんだい?」


 チャキリ、と。

 背後に立った何者かが拳銃の銃口を恭弥の後頭部に押しつけた。


「なんの用だ、グラツィアーノ・カプア」

「へえ、僕の尾行に気づいていたのかい。やるじゃないか」


 下手な尾行ではなかったし気配も上手く消せていた。それでも囮作戦開始直後・・・・・・・からずっとつけられていて気づかないほど恭弥は鈍感ではない。

 感心した風に口笛を吹く金髪の美男子は、拳銃を押しつけたまま今の問いに答えた。


「なんの用か? と問われたら、僕は君が辻斬り犯の可能性を考慮して見張っていたと答えるよ。協力するフリをして僕らを一人ずつ手にかけられても困るからね。まあ、冤罪だったみたいだけど」

「だったら、その拳銃を下ろしてくれないか?」

「それはできない。辻斬り犯でないのなら、なおさら君の正体がわからなくなった」


 このまま組み伏せようと思えばできる。だがそうするよりももう少し相手から情報を引き出した方がよさそうだ。


「なぜ俺を探る? お前は何者だ?」

「僕は探偵だよ。君たちのようなごっこ遊びじゃない。故郷のイタリアでは少々名の通った『魔術師探偵』さ」


 本当なのか嘘なのか。

 グラツィアーノの落ち着いた口調からは判然としなかった。真偽はともかくこれ以上恭弥を探られるのはよろしくない。


「探偵なら幽崎でもマークしておけ」

「彼はそのうち僕が監獄にぶち込むよ。先日の悪魔事件、彼が起こしたんだろう? 推察するに、〈血染めの十字架ブラッディクロス〉の構成員ってところかな」


 どうやら既にマークした後だったらしい。そこまで調べがついているということは、なかなかに優秀な厄介者である。


「君は幽崎・F・クリストファーのような『わかりやすい悪党』とは違う。僕の知的好奇心がどうしても放っておけなかったんだ。悪いけど、僕は正義よりも自分の知識欲を優先している。探偵になったのもそうだし、この学院に入ったのだって多くの謎が隠されているからだ。例えば、『全知の公文書アカシック・アーカイブ』とか」

「……」


 カマ掛けには乗らず無言を貫いていたが、グラツィアーノはなにかを悟ったようにフッと笑って拳銃を下ろした。


「どうやら君もそういう口みたいだね。安心するといい。僕は『全知の公文書アカシック・アーカイブ』自体に興味はない。知りたいことは自分の手で解き明かすのが面白いんだ。君の正体もいつか暴いてみせるよ」


 爽やかにニコッと笑うグラツィアーノ。悪党なら幽崎同様に監獄行きだとその目が言っていた。

 と、遠くで盛大な爆発音が聞こえた。


「――おっと、そろそろ加勢に行った方がよさそうだね」

「辻斬り犯にも興味があるのか?」


 背を向けたグラツィアーノに訊ねると、彼はニコニコと楽しそうに笑いながら振り返った。


「やだなぁ、それもあるけど、協力に応じたのは純粋な正義感からさ♪」


 それもあったら純粋ではないと恭弥は思った。


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