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アカシック・アーカイブ  作者: 夙多史
全知の公文書編―Admission
32/159

FILE-30 狙われる特待生

 土御門と白愛は恭弥たちと別れた後、結局気になって職員棟の前まで来てしまっていた。


「大将たちがいるのは五階の会議室だったな」

「土御門くん、見えますか?」


 手を額に当てて職員棟を見上げる土御門だが、会議室がどこなのかわからない。職員棟に入れば見取り図はあるだろう。ただ、生徒にとって職員室とはどの学校でも非常に入り難い領域である。精神的に。


 式神を使うわけにもいかない。職員棟はプロの魔術師の巣窟だし、集まっている特待生たちジェレーターズも曲者揃い。さらに旧学棟と違って魔術的なプロテクトのかけられている職員棟に式神を送ろうものなら一秒で発見されてしまう。


「今回ばかりは大将たちが出てくるのを待つしかねえやな」

「そう、ですね」


 二人とも潔く諦めて通行の邪魔にならないよう端に寄ろうとした時――


「すまぬ、お主たち、道を訊ねてもよいでござるか?」


 典型的な侍をイメージしたような口調の声がかけられた。

 青みがかった黒髪をストレートに下した日本人の少女である。キリっとした端正な顔立ちにスレンダーな体躯。腰には二振りの日本刀が提げられているが、この学院で武器を所持している者は珍しくないので驚きはしない。


「あ、はい。どうぞ」


 同じ日本人ということもあって、白愛は特に警戒するようなこともなく微笑んだ。


「職員棟、とはどこの建物でござろう?」

「えーと、あの、職員棟はそこですけど」


 どう答えるべきかちょっと考えてから、白愛は目の前の建物を指差した。もしかすると自分たちが間違っていた可能性も浮上してきたが、どうやら彼女は本当に知らなかった様子で目を丸くした。


「おお、よもやこんな近くに! かたじけない。助かったでござる。拙者、他国語には不慣れな故、道がわからず困っていたのでござる」

「は、はあ……」


 白愛は手を握られてぶんぶんと縦に振り回された。同じ日本人だがいろいろかけ離れているような気がして困り顔になる白愛である。


「あんたも日本人だろ? 新入生? 東京では見なかった顔だけど」

「拙者は『おおさか』という街から学院に入ったでござる」


 土御門が訊ねると、少女はどこか思い出すように集合場所だった都市名を答えた。


「なるほどねぇ。その『ござる』って喋り方はわざと?」

「? なにか変でござるか?」

「いやぁ、いいんじゃないか。個性的だ。あんたみたいな美人が言うとなんかこう、ぐっとくるものがあるね。ちょっとそこでお茶でも――はっ」


 ニカッと笑う土御門だったが、背後の白愛から塩の気配を感じて一瞬で顔を青ざめた。なにもする気はなかったのだが……ナンパは今度恭弥を誘って二人きりでやろうと決める。


「では、拙者はもう行くでござる。教えていただき感謝するでござるよ」


 ペコリと頭を下げ、ござるの少女は駆け足で立ち去っていった。職員棟とは真逆の方向に。


「あれ? 職員棟に行くんじゃ……」

「おーいそっちじゃねえぞ! 方向音痴かーっ!」


 疑問に思って呼びかけるが、少女が戻ってくることはなかった。


        ☆★☆


 職員棟の場所がわかった少女は、その五階部分を視認できるギリギリの距離にある学棟にやってきた。


 周囲に誰もいないことを確認して窓から職員棟を覗く。

 五階の会議室は都合よく一発目で見つかった。こちら側から見えなければ四方の建物を巡るつもりだったのだ。


「アレが特待生ジェレーターでござるな。ひい、ふう、みい……少々足りぬでござる」


 着席している生徒が特待生ジェレーターだとすれば、自分が昨夜打ち負かした少女を省いても二人足りない。


「でも、拙者と同年代の強者が十人もいるでござる。わくわくしてきたでござるよ」


 今ここで襲撃することも考えたが、流石に十人相手は厳しい。ついでに学院警察も何人かいる。

 それに――


「大事な会議、邪魔をするのは悪いでござる」


 まさか自分についての対策会議とは知らず、少女は早速今夜から一人ずつ狙っていくことに決めた。


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