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アカシック・アーカイブ  作者: 夙多史
全知の公文書編―Admission
30/159

FILE-28 特待生(ジェレーター)

 恭弥たちは呼び出しにあった職員棟五階の会議室へと急いだ。


 呼び出されたのは特待生ジェレーターだけであるため、土御門と白愛とは旧学棟の前で別れた。特待生でもなければ生徒ですらないアレクだけが当然のようにフレリアの斜め後ろに付き従っている。

 学院側からの呼び出しにわざわざ応じる必要もなかったが、特待生ジェレーターのみを集めた緊急の集会ともなれば穏やかではなさそうだ。参加しておけばなにか情報を得られるかもしれないと判断した。


 会議室には全員ではないが、既に何人か集まっていた。

 長方形の広い机を中心に合計十三の椅子が均等に並べられている。着席しているのは六人。恭弥たちを含めれば現状十三人中九人が出席していることになる。


特待生ジェレーターだけでこうやって顔を合わせるのって初めてね」


 レティシアが僅かに緊張した表情を隠すように強気な口調で言うと、自分の名札が置かれてある席を見つけて座った。恭弥とフレリアも彼女に続いて指定された席に腰かける。

 フレリアは恭弥の隣、レティシアは恭弥の正面になる配置だ。


「ふむ。どうやら、入学試験の成績順になっているようです」


 フレリアの背後に控えたアレクが片眼鏡を直しながら小声で告げた。恭弥は腕を組むと、気づかれないように眼球運動だけでざっと観察する。どうやら入口から奥に向かって順位が高くなっているらしい。

 

 第十三位――オレーシャ・チェンベルジー。

 コサック帽を被った長身の少女。たいして寒くもないのに毛皮のコートを着込み、足元に大きな猟銃を置いている。目を閉じているが隙はなく、なにか不測の事態があれば即座に銃を撃てるだろう。


 第十二位――ランドルフ・ダルトン。

 空席。筋骨隆々とした巨漢だということは以前に見ている。


 第十一位――イングリッド・デ・ラ・イグレシア。

 学院の制服の上から真っ赤なマントを羽織った少女。雪のように白い肌とは対照的な燃えるような赤髪赤眼。凛とした表情で警戒するように他の連中を見回している。


 第十位――リンフォード・メドウズ。

 逆立った銀髪に鷹のように鋭い眼をした少年。自分の名札を指に引っ掛けてクルクル回して遊んでいるように見えて、恭弥同様に周囲を観察している。


 第九位――ユーフェミア・マグナンティ。

 空席。


 第八位――孫曉燕ソン・シャオイェン

 背中の鞘に警棒のような武器を挿した、長めの茶髪を犬の尻尾みたいに結った小柄な少女。鳶色の瞳を輝かせて机の上に置いてあったビスケットをフレリアと一緒に食べている。そこに遠慮は見られない。

 

 第七位――シャリファ・エムハブ・メジェドゥ。

 褐色の肌を多く露出させるように制服を改造している妖艶な少女。両手に金の腕輪をいくつも嵌め、首からも金のネックレスを提げている。よく見ればイアリングも指輪もアクセサリーは金尽くしであり、それらを眺めながらウットリしている様子だ。


 第六位――レティシア・ファーレンホルスト。

 言うまでもなく、恭弥と協力関係にある金髪セミロングの少女。なにやらタロットを取り出してこれからのことでも占っているようである。


 第五位――黒羽恭弥。

 自分。


 第四位――グラツィアーノ・カプア。

 人懐っこそうにニコニコ笑っている金髪の美男子。特にこれといった特徴はなさそうだが、制服の裏に複数の拳銃や刀剣を仕込んでいることを恭弥は見抜いた。


 第三位――フレリア・ルイ・コンスタン。

 従者のアレクに間食を注意されてしょんぼりしている『ルーンの錬金術師』。フランス王家お抱えの宮廷錬金術師が三位だということは少々意外である。


 第二位――ファリス・カーラ。

 空席。


 そして――


「ここですかぁ? 謹慎中の俺にまでいきなり集まれっつった場所はよぉ!」


 全員の視線が入口に集中する。


「ああ、どうやらここで合ってるみたいだな。いやぁ、俺って謹慎中なもんだから学院の地理なんて全然知らなくて困るよねぇ」


 そこにはたった今入って来たばかりの白味が強い金髪をした少年が、狂気的な笑みを浮かべて集まっている他の特待生ジェレーターを見下していた。


 第一位――幽崎・F・クリストファー。


 悪魔崇拝の秘密結社〈血染めの十字架ブラッディクロス〉の構成員。入学式で本性を現して謹慎になった新入生代表である。

 先日の悪魔騒ぎの元凶だが、ここにいるということはまだ犯人だとバレていないらしい。学院が無能なのか、幽崎が余程周到なのか。前者であれば然程危険視する人物ではないのだが……恐らく、そういうわけではないだろう。


「えーと、どれどれ俺の席はっと……うっわ、一番前かよめんどくせー」


 ぶつぶつ言いながら恭弥の後ろを通り過ぎる。恭弥とアレクが同時に睨みつけていることにはしっかり気づいた上で、幽崎は机に両足を放り投げるような姿勢で着席した。


 それから約一分間、重苦しい沈黙が流れる。


「よし、現状集合できる特待生ジェレーターは全員集まったな」


 そう言いながら会議室の入口から新たに三人の生徒が入室してきた。男子二人に女子一人。残り三人の特待生ジェレーターではなく、学院警察の腕章をつけた上級生たちだ。

 そのうちのリーダー格と思われる上級生が会議室の壇上につく。


「俺は第五階生アデプタス・マイナーのルノワ・クロード。学院警察の警部をしている」


 リーダー格の上級生――ルノワ・クロードは眼鏡を持ち上げてまずは自己紹介をした。そして前置きはそれだけに止め、いきなり今回の緊急集会の核を説明し始めた。


「君たちに集まってもらったのは他でもない。学院からの警告で知っていると思うが、例の新入生を狙った辻斬りの件だ」


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