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アカシック・アーカイブ  作者: 夙多史
全知の公文書編―Competition
156/159

FILE-154 決着の一撃

 荒野を一直線に大きく削り取ったガンドの衝撃波は、いかに聖王騎士と言えども直撃すれば致命的なダメージを負うはずだった。


「……」


 恭弥は巻き上がった土煙の奥を見据える。手応えはあった。だがそれは、倒したというよりも防がれたという感覚だった。

 黒い〈フィンの一撃〉がファリス・カーラを捉える寸前、何者かが間に割り込んだのを恭弥は見ている。


「お~れ~は~、無敵のディオン様ぁ~だぜ~♪」


 土煙が晴れる。この下手糞なオリジナルソングは、幽崎と戦っていたはずのディオン・エルガーだ。

 一瞬だけ己を無敵化させる祓魔聖具〈エッケザックス〉。彼の力であれば恭弥の一撃を防ぎ切ったことにも納得である。

 だが、ここに奴がいるということは――


 ――幽崎が、やられた?


 いや、違う。


「助かったぞ、ディオン。その体でよく駆けつけてくれた」


 ディオンは見るからに満身創痍だった。その表情にもどこか焦りがあり、這々の体で逃げてきたことが窺える。無敵化と奴の身体能力なら、逃げに徹すれば幽崎とてそう簡単には捕まえられないだろう。

 ファリスが聖剣を杖にして立ち上がった。


「だが、これ以上は手を出すな。私も油断していた。次は必ず黒羽恭弥を仕留める」

「そ~れ~は~♪ 無茶無謀~♪ ――聖王騎士さんよ、悪魔の王は一人じゃ厳しいぜ。おれぁもうボロボロだが、盾くらいにはなってやれる」


 急に真顔になったディオンにファリスは目を白黒させた。


「……貴様、普通に喋れるではないか」


 ディオンはニヤリと微かに口元を歪めると、カッと目を見開き、両手を広げて恭弥の前に飛び出した。


「お~れ~は~♪ 最強無敵の盾~♪ どんな攻撃も通用しな~いぜ~♪」


 厄介だ。封じられたわけではないが、ディオンがいる限り決め手となる〈フィンの一撃〉は確実に防がれてしまうだろう。隙を作るために奴を排除しようとしても、ファリスと戦いながらでは流石に厳しい。

 アル・シャイターンとの〈精魂融合〉もいつまで持つかわからない。無敵化能力相手に悠長な戦いを強いられてしまえば、勝ち目は限りなく薄くなる。


 ――無敵化を貫くほど威力を上げられるか?


「どうしたどうした~? 来いよ来いよ~♪ てめえの攻撃は~全部おれが~防いでやるぜ~♪」


 一か八かになってしまうが、ガンドで精神を殺し、〈フィンの一撃〉の出力を限界突破させるしかない。

 そう考えた時だった。


 ぐるん、と。


 恭弥の前に立ちはだかるディオンの胴体に、紫色をした触手のようなものが絡みついた。


「あ~?」


 ディオンの体が巻き取られるように真横へと引っ張られていく。紫色の触手の先には、禍々しい巨大カエルが大口を開いていた。


「おいコラ音痴野郎、なに浮気してんだぁ? てめぇの相手は俺だろうがぁ!」


 白みがかった金髪の少年が凶悪な笑みを浮かべてカエルの隣に立っていた。


「……幽崎」


 やはり無事だった。あの幽崎が倒されたとは思っていなかったが、どうやら逃げたディオンを追ってきたようだ。


「食われちまったら無敵化もクソもねえよなぁ!」

 紫の舌に巻きつかれたディオンは成すすべなくカエル悪魔の大口へと引き込まれていく。

「ディオン!」


 ファリスがディオンを助けるため体の向きを変えようとする。恭弥はその隙を見逃さず、アル・シャイターンと融合して得た超人的な速度で接敵。咄嗟に防御態勢を取る彼女を大きく蹴り飛ばす。


「くっ……ディオン! 悪いが自分で対処しろ!」


 吹き飛ばされながら疑似十字聖剣で反撃するファリス。恭弥は指を差し、襲い来る剣の大群を弾き飛ばした。


「ヒャハハハ! 薄情な上司だなぁ! 見捨てられてやがる!」

「それでいい~♪ おれは~♪ ここでお前を道連れにするだけさ~♪」


 バクン、とディオンはカエルの悪魔に呑み込まれた。しかし次の瞬間、カエル悪魔の中で魔力が異常に高まり――


「――ッ!?」


 白い大爆発を起こして悪魔ごと周囲一帯を木っ端微塵に吹き飛ばした。


「あの野郎、自爆して……いや、直前で転送されたか」


 紙一重で爆発を逃れていた幽崎が舌打ちする。


「恭弥!」

「師匠!」


 と、中央エリアの森からレティシアと静流が姿を現した。二人ともずいぶんとボロボロだ。残りの祓魔師相手に激しい戦闘を繰り広げたのだろう。


「……ロロもベッティーナもやられたか」


 ファリスが〈デュランダル〉を油断なく構える。レティシアと静流、二人の表情が勝てなくて逃げたものではないと悟ったらしい。


「黒羽恭弥、幽崎・F・クリストファー、レティシア・ファーレンホルスト、甲賀静流。正直、我々がここまで追い詰められるとは思わなかった。認めよう、貴様らは強い」


 一人になったファリスは負けを認めるかと思いきや、その戦意は微塵も削られていないようだった。寧ろ、仲間を倒されたことで静かな怒りを覚えているようにも見える。


「立場が違えば同年代のよき友として切磋琢磨できたかもしれん。だが、貴様らが全知書を狙っている以上、やはり生かしておくわけにはいかない」

「なによ、ちょっとくらいいいでしょ!」

「石頭でござるな」


 野次を飛ばすレティシアたちをギロリと睨みつけると、ファリスは無数の疑似十字聖剣を上空へと出現させた。それらは刃を外向きに突き立てるようにして、ゆっくりと回転する巨大な『輪』を描く。


「私は聖王騎士。聖務を全うする」


 ファリスはその場で大きく跳躍した。上空の剣の輪を飛び越え、その斜め上で握っていた聖剣〈デュランダル〉を投擲の要領で構える。


「この一撃で終わりだ! ――神敵悉くを薙ぎ払え! 祓魔神槍〈グングニル〉!」


 投げ放たれた聖剣が剣の輪の中心を貫き――刹那、超巨大な光の槍となって恭弥たちの頭上へと降りかかった。

 とんでもない聖のエネルギー。

 まともにくらえば、恐らく塵芥も残らない。


「おいおい、マジかよ」

「くっ、全員下が――」


 無理だ。回避はもはや不可能。直撃は避けられても余波だけで全滅は必至だろう。黒い〈フィンの一撃〉をぶつけたところで気休めにもならない。


 ――どうする?


 ――まあ、わしがやるしかないじゃろう。


 フッと恭弥の体から一瞬力が抜けた。


「アル・シャイターン?」


 目の前にチョコレート色の少女が現れる。恭弥の意思ではないが、融合が解けたのだ。


「楽しかったぞ、我が主よ」

「待て!」


 アル・シャイターンは振り向かず最後にそれだけ告げると、恭弥の静止も聞かず光の槍に向かって飛び上がった。


 台地を大きく揺らすほどの光の爆発が轟いた。


 木々が薙ぎ倒され、地面が抉れる。吹き飛ばされたレティシアと静流は意識を失っているのか、ピクリとも動かない。


「やり……やがったな……」


 幽崎は意識もあって立っているが、全身血塗れで虫の息だった。


「直撃した黒羽は消し飛んだか」


 着地したファリスが惨状を見回して呟く。


「終わったな。あとは貴様らの魔力結晶を破壊するだけ――」

「いや、終わるのはお前の方だ」

「なっ!?」


 ファリスの背後に回り込んでいた恭弥が人差し指を突きつける。咄嗟に振り返ったファリスは、恭弥の中にあったものが消えていることに気づいたようだ。


「おのれ黒羽恭弥! 悪魔の王を盾にしたのか!?」


 今のファリスは聖剣を持っていない。

 つまり、恭弥の一撃を防ぐことができない。


「俺たちの、勝ちだ!」


 出力を最大以上に引き上げた渾身の〈フィンの一撃〉が、身構える余裕も与えず間違いなくファリスを呑み込んだ。


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