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アカシック・アーカイブ  作者: 夙多史
全知の公文書編―Competition
154/159

FILE-152 ファリスの意思

 ガンドの弾丸を連続で射出しながら恭弥は疾駆する。

 普段の〈フィンの一撃〉は模造品で両断されていた。本物相手に通用するはずもない。一撃の威力は落ちるものの、手数を増やしたことは間違った戦略ではないはずだ。


 だが、本物の聖剣を握ったファリスは弾幕を切り捨てながら恭弥に迫ってくる。流石の剣の腕だ。伊達に聖王騎士を名乗っていない。

 そこはもう認めている。いや、最初から疑ってなどいない。


 ファリス・カーラは強い。


「それで終わりか?」


 間合いを詰めたファリスが大上段に〈デュランダル〉を構える。


「まさか」


 神速の振り下ろしを恭弥はサイドステップでかわして回り込み、カンガルーの霊を融合させた下半身で強烈な蹴りを繰り出す。

 咄嗟に腕でガードしたファリスは何十メートルも弾き飛ばされるが、即座に体勢を立て直して術式を発動。恭弥の上空から無数の疑似十字聖剣が雨霰と降り注ぐ。〈フィンの一撃〉を頭上に放って吹き飛ばす。


「――滅魔の刃を受けるがいい」


 ファリスの十字剣が強烈に輝き、その場で一閃。三日月状の巨大な光の刃が放たれる。カンガルーの脚力で高く飛んでかわすが、そこへさらに二撃・三撃と光の刃が襲い来る。


「厄介だな」


 恭弥は大鷲の霊と部分的に〈精魂融合〉し、霊体の翼を羽ばたかせて飛翔。光の刃を回避しつつ〈フィンの一撃〉で空襲を仕掛ける。


「わしも忘れてはならんのじゃ!」


 不可視の衝撃波が乱射される中、アル=シャイターンがファリスに接敵し激烈な拳を打ち出した。ファリスは身を捻って避けると、輝く十字剣で薙ぎ払う。

 ニヤリと嗤ったアル=シャイターンが後方に飛ぶ。手を翳し、禍々しい暗黒の魔力を光線として放射した。


 直撃。爆発。


 巻き起こる黒煙と砂嵐を突っ切ったファリスは、一瞬でアル=シャイターンに迫り脳天に十字剣を振り下ろした。

 アル=シャイターンは片手で刃を受け止める。


「悪魔の王……貴様から祓ってもいいのだぞ?」

「やれるかのう? 今日のわしは調子がいいのじゃ!」


 アル=シャイターンが弾かれたように飛び退いた。刹那、ファリスの頭上から恭弥の〈フィンの一撃〉が降り注ぐ。

 十字剣で斬り祓うと同時に、ファリスは上空の恭弥を囲むように魔法陣を展開。疑似十字聖剣を射出し、恭弥の霊体の翼を貫いた。


「さっき、お前に勝てば祓魔協会が持つ『あの事故』に関する情報を教えると言ったな?」


 荒野に着地した恭弥が口を開く。


「悪いな。祓魔師視点の偏った情報に価値は薄い。俺は自分で真実に辿り着く」

「あくまで全知書を狙うか」


 ファリスは肩を竦めた。どちらにせよ機密情報だろう。全知書を諦めさせる意図があったとしても、そう簡単に開示してくれるとは思えない。


「貴様がそれを手にすることで、世界がどれほどの脅威に晒されるか想像できないわけではあるまい?」


 ファリスはレプリカの十字剣を投擲。全体が異様に輝くそれは空中で弾け、無数の光の斬撃弾となって恭弥を襲う。

 恭弥の足下に魔法陣が描かれる。前もって荒野エリアに仕掛けていた術式が発動し、簡易的な結界を生成。本来は相手を閉じ込めるための罠だったが、今は攻撃を防ぐための壁となる。


「『全知の公文書』が危険な存在だということは承知している。俺が自分の目的以外に興味がなかったとしても、一度世に出してしまえば善人悪人問わず世界中から狙われる。学院の現状がその縮図だ」

「貴様は世界を危機に陥れてまで己の願いを叶えたいと?」

「違う。全知書の破壊、もしくは厳重に封印・管理する。それが魔術管理局の意向だ」


 結界が破られると同時に恭弥は横に飛んだ。


「学院も、お前たちも、全知書の所在を正確に把握しているわけではない。そんな状態であれば、俺たちが諦めてもいつか必ず別の誰かが見つけ出す。それこそ脅威だ」

「一理はあるが、生憎と魔術管理局を信頼するわけにはいかん。無論、私が所属する国際祓魔協会とて同様だ」


 自分の組織すら信用していない……わけではなさそうだ。ファリスはどこの組織だろうと預けた危険物を完全完璧に管理できるとは考えていないだけだろう。


「全知書は、このまま所在不明であるべきだ」

「それはワイアット・カーラの意思か?」

「私の考えでもある」


 命令で動いているだけならつけ入る隙もあっただろうが、そうではないのなら対話したところで変化は起きえない。


「平行線だな」

「ああ、そうだ。それにどんな大義名分を言い繕っても、貴様が己の目的のために全知書を求めていることには変わりあるまい」


 ファリスは十字剣を地面に突き刺した。

 瞬間、彼女の周囲から光の刃が天を衝き、台地を抉り裂きながら波紋のように全方位へと広がった。

 少しでも掠れば悪魔だろうと生身だろうと瞬時に斬断・蒸発してしまうほどのエネルギー。恭弥とアル=シャイターンは迫るそれらを紙一重でかわしていく。


「力づくで見逃してもらうしかないってことか」

「そういうことだ。できるものならな」


 恭弥は〈フィンの一撃〉を放つ。普通の〈フィンの一撃〉ではなく、幽崎に当てた時のような敵の内部で物理的な威力を炸裂させる術だ。

 当然、霊体だろうと問答無用で斬り伏せるファリスには通用しない。

 先程のような捨て身の作戦も二度目は対策される。

 本当に相性が悪い。戦い方を変えることはできるが、得意分野を封じた小手先の戦法など彼女には無意味だと理解した。

 このままアル=シャイターンと二人で詰めれば勝機はなくもないが、もっと確定的で手っ取り早い方法。ガンドを極めた恭弥だからこそ可能な最終手段――切り札が、ある。


 ――仕方ない、か。


「……〝解放〟、ダー」

「我が主よ! それはやめておくのじゃ!」


 バッ! とアル=シャイターンが恭弥を手で制した。


「そんなもの使わずともよい。わしと融合するのじゃ」

「俺の中に戻るつもりか?」


 アル=シャイターンを戻すと祓魔術が生身より効いてしまう。それはこの戦いにおいてデメリットでしかない。


「憑依ではなく融合じゃよ。わしの、悪魔の王の力をガンドで使いこなしてみよ。さすれば奴の祓魔術が刺さるようになるが、それを差し引いても文句のない力を与えてやろうぞ」


 悪魔使いではなく、ガンドの魔術師として悪魔の力を使役する。些か屁理屈気味ではあるが、もはや形振り構っていられる状況ではない。

 ()()()()()を使わなくて済むのなら、その方がマシだ。


「……わかった。来い、アル=シャイターン」

「了解したのじゃ、お兄ちゃん!」


 悪戯っぽく笑うと、アル=シャイターンはくるっとターンをして恭弥の胸へと飛び込んだ。


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