FILE-144 三日目――決戦
【生存】
・チーム『探偵部』――四人。
・チーム『エクソシズム』――四人。
【魔力結晶所持数】
・チーム『探偵部』――六十二。
・チーム『エクソシズム』――二十八。
バトルフィールドの上空に中間発表の結果が映し出された。生存チームが減ったためか、それとも最終日だからか、互いのチームが所持している魔力結晶の数まで表示されている。
荒野エリアで野営をした恭弥たちは、朝早くに中央エリアへと移動していた。隠していた魔力結晶を掘り起こし、二日目に獲得した分も合わせてチームに再配分したのだ。
「――決まりだな」
上空の文字を確認した恭弥は懐に入れていた魔力結晶を一つ摘まみ取る。
「表示された分が奴らの総数とは限らないが、これだけ差があれば逆転されることはまずあり得ない。奴らも俺たちの所持数の正確なところはわからないはずだ。――必ず攻めてくる」
「予定通りっつうことだな」
幽崎が自分の魔力結晶を手で弄びながらクツクツと嗤った。
恭弥たちがとった三日目の作戦は『待ち伏せ』である。敵の祓魔師たちは大会の優勝を目的としていない。恭弥たち学院の不穏分子を討ち取ることに注力し、一般生徒を積極的に襲撃してまで魔力結晶を集めていないと踏んでいた。
想定よりは集めていたようだが、それでもこちらが圧倒的だ。ならば大会のルールに則り、このまま時間切れを狙えば必然的に優勝は『探偵部』となる。
当然、ファリス・カーラがそれを許すはずもない。たとえ祓魔師チームが判定勝ちする状況だろうと、奴の性格を考えればその手で確実に叩き潰しにくると予想できる。
攻めてくることは確実。であれば自陣を整え、有利に戦えるよう罠を張る。フレリアが生き残っていればより堅固な要塞化も狙えたが、それは仕方ないと割り切る。
フレリアの心配はしていない。今頃はアレクたちが救出に成功しているだろう。
恭弥たちは目の前の敵にだけ集中すればいい。
「あたしの術式は仕掛け終わったわ。これでどこから攻めて来ても大丈夫なはずよ」
「師匠、拙者も準備完了でござる!」
森の奥からレティシアと静流が一仕事終えた顔をして戻ってきた。
「でも拙者は罠とかなしに正々堂々勝負したいでござる」
「静流さんって本当に忍者? 侍じゃなくて?」
忍者らしからぬ発言の静流にレティシアが呆れた視線を向けた。静流が忍者っぽくないのは今更だろう。
そんな緊張感を欠いた空気に幽崎が不愉快そうな声を上げる。
「忠告しとくがよぉ、てめぇら俺の仕掛けにかかんじゃねぇぞ? 悪魔に喰われても助けねぇからな」
「あなたが担当した場所には近づかないわよ」
べー、と幽崎に向かって舌を出すレティシア。彼女の嫌悪を受けた幽崎は愉快そうに笑っていた。こっちも今更だが本当に性格が悪い。
と、その時――恭弥はなにかぬるっとしたものが体を通過したような違和感を覚えた。
「探知だ。奴らが動き出した」
感覚を研ぎ澄ませ、警戒する。こちらから探知を返してもいいが、恐らくそれをやっている暇はない。
「どこから来るでござる? ワクワクするでござるな! 拙者早く戦いたいでござる!」
「……静流さんの感性が羨ましいわ」
「警戒しろ。敵は近い」
空気が張り詰め、森が異様な静けさを見せる。
バッ! と恭弥はさっきまで中間結果が表示されていた空を仰いだ。
「へぇ、そう来たか」
「なっ!?」
幽崎が口の端を吊り上げ、レティシアが驚愕の声を漏らした。
上空に、巨大な祓魔の魔法陣が展開されていた。
強烈に輝く魔法陣から浄化の光が幾本もの柱となって降り注ぐ。
「避け切れない! 防御するぞ!」
恭弥は指を鳴らし、周囲に仕込んでいた術式を起動して魔力の防御膜を展開した。その術式には余った魔力結晶を利用しているが、ここで出し惜しみしても結局全て砕かれる。
光柱の雨は木々を薙ぎ倒し、森を焼き、地面を抉る。
こちらが罠を張ることは向こうも予想していたのだろう。だからこそ先手で大規模な術式を使って罠ごと一掃してきたのだ。
そうなる可能性も無論考慮していた。だからこそ恭弥は咄嗟に防御できるように術式を仕込んでいたわけである。
光柱の雨が止む。
「フン、流石に初手で墜ちるほど雑魚ではないか」
見晴らしのよくなった森の向こうに……いた。ファリス・カーラだ。彼女と同じ白い改造制服を纏った三人の姿も見える。
「確認。照合。黒羽恭弥、幽崎・F・クリストファー、レティシア・ファーレンホルスト、甲賀静流で間違いありません」
「フレリア・ルイ・コンスタンがいねえです。ロロがぶちのめすつもりだったですのに」
「お~れ~の~♪ 獲物はぁ~♪ どこのどいつだぁ~♪」
やる気は満々のようだ。
お互いチームの先頭に立った恭弥とファリスが睨み合う。
「決着をつけるぞ」
「こちらの台詞だ」
恭弥は〈精魂癒合〉で騎士の霊を纏い、ファリスは腰に差した十字剣を鞘から引き抜いた。




