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アカシック・アーカイブ  作者: 夙多史
全知の公文書編―Competition
121/159

FILE-119 Ferox Bello

 恭弥が放った不可視の衝撃――物理的威力を持つ『呪い』である〈フィンの一撃〉を、ヘルフリートは直感的に認識して燃える大刀で弾いた。


「っ……手がちょっと痺れたぞ。一年坊主にしちゃやるじゃねえか」


 愉快そうに口の端を吊り上げるヘルフリート。だがその時には既に恭弥は彼の懐へと切迫していた。レンジゼロから放たれるもう一発の〈フィンの一撃〉。避けることなどできようもなく、直撃したヘルフリートは弧を描いて吹き飛ぶ――ことはなかった。


「……チッ、やはりガンドか。痛ぇだけじゃねえ。頭痛、目眩、吐き気……うえっ、こりゃまともに喰らうもんじゃねえな」


 ヘルフリートは大刀を地面に突き刺して数メートル後ろに押し出されただけだった。呪いの効果で体調不良をきたしてはいるようだが、その獰猛な笑みを見る限り戦闘に支障はなさそうだ。

 間髪入れず恭弥は追撃を仕掛ける。今度は物理的には防げない『呪い』のみを撃ち出す通常の〈ガンド撃ち〉を連射する。先の二発の〈フィンの一撃〉で、まずは体調不良を重ねて内側から弱らせる方が効果的だろうと悟ったからだ。

 だが、それらは悉くかわされた。〈ガンド撃ち〉はどうしても対象に人差し指を向ける必要がある故に軌道を読まれ易い。拳銃同様、射出のタイミングを見切られてしまうとヘルフリートほどの身体能力なら簡単に避けられる。

 射出タイミングにはフェイントを織り交ぜている。が、ヘルフリートはフェイントに敢えて乗った上で本命も避けているのだ。


「ハッハーッ! いいねぇ、容赦がねえ。涼しい顔しちゃいるが、てめえ、仲間をやられてブチギレたか?」

「……」


 恭弥は答えない。

 怒りがないわけではない。フレリアとは一時的に手を組んでいるだけで、そこまでの仲間意識はなかったはずだが……それでもやはり、気持ちのいいものではなかった。


「てめぇばっかり遊んでねぇで俺も混ぜろよ」

 

 恭弥の背後から複数のなにかが飛び出した。それは一つ目の球体だったり白黒のムカデだったり空中を泳ぐ提灯鮟鱇だったりと、明らかにこの世の生物ではない異形の姿をしていた。


「悪魔だと? そういや、ちょっと前にそんな騒ぎがあったっけか」


 ヘルフリートが僅かに目を見開く。畳みかけるように彼へと襲いかかる下級の悪魔たちはしかし、唐突に天から降ってきた光の柱に貫かれて爆散した。


「悪魔はキライ。気持ち悪いもん」


 敵陣最後方の宙空に浮かぶ天使の翼を生やした少女があからさまな嫌悪の目を悪魔を召喚した術者――幽崎・F・クリストファーに向ける。


「おい黒羽、あのクソ天使は俺がやる。手ぇ出すんじゃねぇぞ」


 恭弥の隣に立った幽崎も、神聖で綺麗すぎる少女が逆に汚物だとでも言わんばかりに表情を歪めた。そのまま幽崎は大きく跳躍し、ヘルフリートの頭上を飛び越えて敵陣後方へと突撃。ディフェンスに入ったフレデリックとアレックスに下級悪魔を即席で召喚して差し向け、凶悪で獰猛な笑みで天使の少女――ガブリエラを見上げた。


「クラウディア! ガブリエラを守れ! 要塞化を崩させるな!」

「言われなくても!」


 ヘルフリートの指示に鏡を構えた金髪の女子生徒――クラウディアが幽崎に立ちはだかる。だがそれはヘルフリートの隙に繋がった。一瞬だけ背後を振り返った彼に恭弥が強襲を仕掛ける。

 ガンドの〈精魂融合〉で〈湖の騎士(ランスロット)〉を纏う。具象化した霊体の大剣が炎纏う大刀と激突した。


「へえ、ガンドもなかなか便利だな」


 完全に不意を突いたつもりだった。それに〈湖の騎士(ランスロット)〉を使っていても徐々に押されてくる。

 力負けしている。

 先程の〈フィンの一撃〉を直撃させた時もそうだが、ヘルフリートの身体能力が大幅に強化されているのだ。元々高いだろうが、そこに自分で肉体強化魔術を施し、さらにガブリエラが要塞化したフィールドの恩恵も受けている。まともに組み合っては絶対に勝てない。


「手を出させてもらいますよ、ヘルフリート!」

「これはチームバトル! 文句はノットアクセプトデース!」


 しかも彼は一人ではない。フレリアを退場させた戦車と、同じく強化魔術を施された黒人の男子生徒が恭弥の左右から迫る。幽崎が差し向けた悪魔たちはとっくに倒されていた。

 だが――


「チームならこっちだって同じよ!」

「師匠の戦いは邪魔させないでござる!」


 レティシアがタロットカードの魔術による光線で黒人男子――アレックスを牽制し、静流が五行忍術で戦車の足場を泥に変えて崩した。


「オゥ、また会いましたネ、タロットガール」

「まさかあんたがまだ生き残ってるとは思わなかったわ」


 レティシアは〈アルカナ武装〉で自分自身を強化。周囲に浮かべた複数枚の『THE CHARIOT』から時間差で光線を射出しつつアレックスを追い込んでいく。どうやら面識があるようで、彼女の戦い方は対策済みのそれだった。


「拙者、戦車と戦ったことはないでござる。楽しみでござるよ」

「ああ、この人もヘルフリートと似たタイプの戦闘狂ですか……」


 泥沼を抜け出した戦車の砲撃を静流は素早い動きでかわす。その実に楽しそうな顔に戦車の中にいるフレデリックが面倒そうな呟きを漏らしていた。


「ハハッ! お互い対戦相手が決まったようだな!」

「どこかに加勢したければ行ってもいいぞ?」

「そりゃ無粋だろ。てか俺が背中を向けるような隙を見せればてめえは瞬時に追撃するだろう? さっきみたいによ」

「……」


 その程度の奇襲は無意味だろう。現に一度防がれて、こうして不利な力勝負に持ち込まれてしまっているのだ。

 ほぼ無表情で睨め上げる恭弥になにを感じたのか、ヘルフリートは眉を潜めた。


「おいおい、真剣(マジ)になるなよ。なんだ? てめえは負けると死ぬのか?」


 死ぬかどうかはともかく、負ければ終わりだということは間違いない。それはヘルフリートが恭弥たちともワイアット・カーラとも関係のない一般参加者だからこそ口にできる問いだ。


「ほら笑え! もっと楽しもうぜ! こいつはゲームだ。シリアスは必要ない」


 高々と笑ったヘルフリートが恭弥を一気に薙ぎ払う。受け身を取った恭弥はすぐに横へと飛んだ。

 一瞬前までいた場所に灼熱の業火が直線を引いていた。


「まあ、負けてやるつもりはねえけどな!」


 一般参加者相手に消耗などしたくないのだが……どうやら、セーブして戦える相手ではなさそうだった。


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