第76話 マウントを取りたがる彼女
翌日の生徒会。
由姫はいつも使っているPCとは別に、もう一つノートパソコンを広げていた。
昨日、俺と一緒に買った薄桃色のノートパソコンだ。
モニタの裏には猫のデコレーションシールが貼ってあった。家に帰った後で貼ったのだろう。
「?」
だけど、なんでそれを学校に持ってきたんだ?
生徒会には、学校が支給した業務用のノートパソコンがある。
しかも、彼女は新しいPCを使うそぶりはない。
生徒会に来て椅子に座ると同時に、鞄の中から取り出し、机の上に置いただけ。
ずっと業務用のPCを使っている。
「お疲れーっす」
置き勉をしているのか、中身が全然入ってない鞄を振り回しながら、カエデが入ってきた。
彼女は生徒会室を見渡し、誰が来ているのか確認したあと
「あれ。有栖川さんの机にパソコンが二台あるっす」
薄桃色のパソコンに気づいたのか、由姫に話しかけた。
「こっちは私用よ。二台あれば家でも仕事が出来るし」
「ほぇー。こんな可愛い色のパソコンあるんすね」
「昨日、鈴原くんに選んで貰ったの」
ふふんとほのかに口角を上げながら、由姫は自慢げに言った。
ここで俺は察した。
まさか、カエデにマウントを取るために、わざわざ持ってきたのか!?
「へー。一緒に遊びにいったんすか?」
「え、えぇ。パソコンを選んで貰ったあとは、二人で少しお茶をして解散したわ」
由姫は腕組みをしながら、少し意地悪っぽい声色で言った。
今、彼女が何を思っているのか手に取るように分かる。
「どう? 羨ましいでしょ?」もしくは「ねぇねぇ、今どんな気持ち?」だ。
普段はツンとした顔の由姫が、珍しくクソガキっぽいニヒルな笑みを浮かべていた。
そして、カエデはというと
「う……」
急に眼を潤ませたかと思うと
「うわああああああああああん!」
大声で泣き始めたのだった。
いや、これも演技なのかもしれない。だが、嘘泣きにしてはしっかり涙が出ている。
周りから見た感じだと、ガチ泣きにしか見えない。
「え、あの……」
さすがの由姫も驚いたようで、ただただ困惑するだけだった。
「ずるいっす! なんでアタシも呼んでくれなかったんすか! 友達だと思っていたのに。アタシだけを仲間外れにするなんてええええええ!」
まるで、小学生のような泣き方だった。目元を両手でぐしぐしと拭いながら、ただただ泣き続ける。
あまりの勢いに押された由姫は、申し訳なさそうに
「ご、ごめん……なさい。次の日曜日は、三人で遊びましょう」
と謝った。
「本当っすか」
さっきまでの涙はどこへやら。
カエデはケロッとした顔で涙を拭うと、
「よっしゃー。言質取りましたよ! 楽しみっす!」
とはしゃぎだした。
あまりの変わり身の早さに、由姫は目を丸くしていた。
やっぱり嘘泣きだったか。でも、しっかり涙出ていたよな……。役者ってすげぇ。
「なぁ、三人での遊びだけど、今週じゃなく、来週の日曜にしないか?」
「へ? まさやん何か用事があるんすか? 美少女二人とデートより優先する事って何っすか!」
「中間試験。来週の水曜からだぞ」
「………………………………………………あー」
コイツ、忘れていたな。カエデのリアクションを見て、俺はそう思った。




