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第99話 相談箱 Ⅳ


「冷暖房の設置系の要望は、会議でまとめて行うとして……」


「待った。金額がどれくらいかかるか、あらかじめ調べておいた方が良くないか?」


 翌日。休み時間に俺と由姫が相談箱の内容をどう進めていくか話をしていると


「鈴原くん。い、今、ちょっといいかな?」


 眼鏡をかけた小柄な男子生徒が二人、話しかけてきた。たしか、四条と吉江だったか?


 二人ともクラスメイトだが、話したことは一度か二度あるかどうかだ。たしか、写真部に所属しているんだったか。


「生徒会が相談を受け付けているって聞いたんだけど、本当?」


「あぁ。相談箱に入れてくれれば、生徒会の誰かが対応するけど」


「えっと、それって、誰が対応するか、希望することって出来る?」


「まぁ、書いてくれれば善処するけど……。なんで?」


 四条はちらりと由姫のほうを見て


「どうしても、有栖川さんにやって欲しい……というか、有栖川さんじゃないと出来ない事なんだ」


「私じゃないと出来ない……」


 あ。由姫の言われたいセリフリストにヒットしたらしい。

 由姫は目を輝かせ、嬉しそうな表情をする。


「どういう内容なんだ?」


「えっと、隣のクラスの綱田って知ってる? 僕達と同じ部活なんだけどさ。一週間くらい、学校を休んでいるんだ」


「体調不良?」


「ううん。体のほうは健康みたい」


 体のほうは?


「不登校になる前、凄く落ち込んでいたんだ。理由を聞いたら、有栖川さんに告白して、「興味ない」ってフラれたって」


「あー。なるほど……」


 白薔薇姫の棘に刺さってしまったのか。ご愁傷様だ。


「え。もしかして、私がフッたのが理由なの?」


 それくらいで? と言いたげな表情で、由姫は驚いた表情を浮かべた。

 いや、年頃の男子高校生はデリケートなんだよ。


「だけど、どうすればいいの? 言っとくけど、付き合うのは絶対に無理よ」


「そりゃもちろん。有栖川さんが綱田をフるのは当たり前だと思う。だけど、フッた理由をもう少し優しい理由にして欲しいんだ」


「優しい理由?」


「うん。例えば、隠れて付き合ってる恋人がいるから……とか。やむを得ない理由があったのなら、アイツも立ち直れると思うんだ」


「なるほど……。それくらいなら……」


 由姫は少し悩んだあと、小さく頷いた。


「じゃあ、俺はその恋人役をすればいいんだな」


「しなくていい! また変な噂が流れたらどうするの!」


「え。俺以外の奴と恋人の振りを……」


「学校の外に付き合ってる人がいるとかでいいでしょ!」


 俺と由姫が漫才をやっていると、四条は目をぱちくりさせて


「やっぱり二人って、隠れて付き合ってたりするの? ちょっと前、噂になってたけど」


「付き合ってない!」


 由姫は顔を赤くして、食い気味に否定した。



     ***


 

 生徒会の業務を早めに切り上げた俺達は、四条達に連れられ、綱田の家に向かった。


 学校から電車で十五分。駅から歩くこと五分ほどの、古びたビルだった。

 エレベータはあったが、故障中の張り紙が貼り付けられていた。階段を登り、二階まであがると、昭和の名残の残るスナックの入り口があった。

 だいぶ前に閉店した店だろう。入り口のすぐ横にあるスナック澪と書かれた看板は埃を被っていた。


「え。ここが綱田の家?」


「う、うん。アイツ、実家が栃木らしくてさ。叔母さんが昔、経営してた店に間借りさせて貰っているんだ」


「へぇ……」


 まぁ、東京は家賃が高いからな……。そういう奴もいるか。


「ワタシ、隠れてツキアッテル人ガいるの……。ワタシ、隠れてツキアッテル人ガいるの……」


 俺の後ろで、由姫はブツブツと綱田へとかける優しい嘘の練習をしていた。


 由姫のやつ、演技は下手なんだよなぁ。どうしても表情が硬くなり、片言になってしまう。


 こうなったら、俺が代わりに説明するか。そうすれば、密かに付き合っている相手が誰なのか、綱田も察してくれるかもしれない。


「準備はいい?」


「だ、大丈夫」


 由姫がこくりと頷いたのを見て、四条はスナックのドアを開け、中に入っていった。


 あれ……?


 四条の行動を見て、俺は少し違和感を感じた。


 なんでインターフォンを鳴らさないんだ。というか、鍵が開いていたよな?

 予め、俺達が来ることを説明していたのだろうか。

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