《未来》負けず嫌いな彼女 Ⅰ
雨の降る日曜日。
俺と由姫はソファに座って、テレビゲームをしていた。
ミニゲームが沢山詰め込まれた、複数人でプレイするのが前提のパーティーゲームだ。
由姫はあまりゲームをしたことが無いということで、初心者でも楽しめるソフトを選んだ。
「…………あ! 落ちちゃった!」
「へへ。おっ先」
楽しんでくれるかな? と少し不安だったが、杞憂だったようだ。
彼女は真剣な表情でコントローラ―を握っていた。
「よ、ようやく操作になれてきたわ。ここからが本番だから」
「お、おう……」
いや、真剣すぎるくらいだ。こちらを見た彼女の目はマジだった。絶対に勝つという意思を感じる。
それと、前から薄々感じていた事が、今日、明らかになったかもしれない。
「あぁ! また爆発した!」
由姫の悲痛な叫びと共に、彼女の操作するキャラが木っ端みじんに吹っ飛んだ。
がっくりと落ち込む彼女を横目で見ながら、俺は苦笑いを浮かべた。
俺の嫁、運、悪すぎない?
ここぞというところで出るサイコロの目は1や2ばかりだし。
アイテムを拾えば、デバフ効果のあるハズレばかりだし。
というか、このアイテムって、爆発するんだ。初めて見たわ。
「は、早く次の試合に行くわよ!」
彼女の負けず嫌いが発動した。涙目で悔しそうに下唇を噛んでいる。
流石に可哀そうになってきた。そろそろわざと負けてあげよう。
「やった……あと少しで」
「くそ。これは負けそうだー(棒読み)」
すごろくゲーム。由姫がゴールまであと一マスというところまで来た。
対して俺はゴールまで十二マス。
これは流石に由姫の勝ちだな。俺は適当にサイコロを振った。
「ん?」
俺が止まったマスから、妖精が出てきた。
妖精は手に持ったステッキを振ると、俺と由姫のキャラクターが光り始めた。
『プレイヤーの位置を入れ替えるプー』
オイ馬鹿止めろ!
一分後。
画面にデカく表示される、『1Pの勝ち』の文字。
「…………………………」
俺は恐る恐る横を見る。
そこには今にも零れそうな涙を浮かべて、ぷるぷる震える由姫がいた。
駄目だ。運要素の強いこのゲームじゃ、わざと負けるのが難しすぎる。
「そ、そろそろ別のゲームをやらないか?」
「待って! も、もう一回! もう一回勝負して!」
由姫は俺の体を揺らしながら、必死に懇願する。
「わかった。だけど、ちょっと疲れたから休憩しよう」
俺はテレビのチャンネルを切り替えた。
「こ、この番組見たかったんだ。これを見てから続きをしよう」
「わかった。約束だからね?」
嘘だ。この番組に興味は一切無い。
頭に血が上った状態じゃ、勝てるものも勝てなくなるからな。彼女が頭を冷やす間の時間稼ぎになって貰おう。
番組は『突撃! 成功者のヒケツ』という、大企業の社長や大ヒットした漫画家などをゲストに迎えて、インタビューをするというものだった。
「お茶、入れてくる。貴方も飲む?」
「あぁ。お願い」
「了解」
由姫がそう言って、立ち上がった時だった。
『今日はあのクロスストリーマーズの創業者、有栖川優馬さんに来ていただきました』
「っ―――――――!?」
その名前を聞いた途端、由姫が驚いたように体をびくんと震わせた。
スタジオ、黄金色のゲスト席のソファに、スーツを着こなした銀髪の男が、椅子に座っていた。




