第88話 葛藤する彼女 Ⅱ
私は湯船に入ったまま立ち上がると、鏡に映った自分の顔を見た。
みんなは私が可愛いって言ってるけど、本当にそうなのかな……。
顔は整っているのは分かるけど、目つきは悪いし。
それに、新妻さんもかなり可愛い。私と違って、皆に愛されやすい顔つきだ。
「…………そっか。私、新妻さんに嫉妬していたんだ……」
彼女が転校してきてすぐ、なぜか不機嫌になった理由が、ようやく分かった。
彼女は私が欲しいものを全部持っていた。
兄さんと同じで、多才で。
自分の気持ちに正直になれて。
周りから愛されやすい性格で……。
「…………………………………………」
さっき、新妻さんが言っていた言葉。
「Aちゃんの事が好きだったとしても、数日後にはBちゃんの事が好きになったって事もあるんすよ」
あの言葉を言われた時、胸がきゅっと痛くなった。
鈴原くんは生徒会で初めて会った時、私に告白してきた。
だけど、彼の気持ちがずっと続く保証はない。あんな可愛い子が好きだと言っているんだ。
いずれ、私じゃなく、新妻さんの事を好きになるかも……。
「!」
そうだ。良い事を考えた。
鈴原くんと付き合っちゃえばいいんだ。
その代わり、私の気持ちがはっきりするまで、誰にも言わない。恋人っぽいことはしないで、普通の友人のように接するようにお願いすればいい。
そうすれば、横取りされなくて――
「……最低ね、私……」
こんな卑怯な作戦を思いついた自分に嫌気が刺した。
新妻さんは正々堂々、彼が好きだと言ったのに、私は嘘をついてまで、彼を手に入れようとしている。
私が勇気をもって踏み出せない理由。
それは、父さんが、私をアリスコアの次期社長と結婚させようと考えているからだ。
いくら彼でも、それをどうにか出来るわけがない。
もし、彼と付き合っても、別れる時が来てしまう。
別れないといけないのが分かっているのに、付き合うなんて……。
「っ!」
私は自分の頬をぱちんと叩いた。
なに弱気になってるの私!
ここに来る前、父さんと約束したじゃない。次期社長になれば、私は自由になれる。
そのために次期生徒会長になって、OB会でコネクションを築く!
それまでの間、私は私のやり方で、彼を引き留めよう。
私には新妻さんのように愛想のよい笑顔も無いし、自分の気持ちに正直になる勇気もない。
だけど、鈴原くんはこんな私を好きと言ってくれた。
なら、きっと彼だけが知っている魅力が私にはあるはず。それが何なのか分からないけど、自分を信じて頑張るしかない。
そして、もし生徒会長になることが出来たら、自分の気持ちに素直になろう。
きっとその頃には、この気持ちが恋心かどうかも分かっているはずだ。
「くしゅん!」
湯冷めしてしちゃったかな……。私はもう一度湯船に浸かった。
生徒会長になるには、生徒会選挙に勝つ必要がある。
選挙活動期間は、推薦人を一人だけ立てることができ、その人物に応援演説を頼むことが出来る。
誰に頼むかは、もう決まっている。
きっと彼なら快く引き受けてくれるだろう。そして、応援演説もなんなくこなしてくれるハズだ。
だけど、それは私の力じゃない。
だから私は――
「鈴原くん……いる……?」
《ある提案》をするために、勇気を出して、外にいる彼に話しかけた。




