Act-05 『 昇格 』
改めて、エンシェントのメンバーとなった、アビスの歓迎会が開かれた。
「えっ、勇者召還は誰もが知っているけど、召還の詳しい内容を知るのは、限られた人間だけなんですか?」
「お前ももう仲間なんだから、そんな喋り方すんなって、堅っ苦しいのは嫌いだ」
アビスは元々の年齢を明かすことはしなかった。
敬語は軍人として自然に身についたもの。おかげで王族にも失礼のない態度を取ることもできた。
「こいつに礼儀作法なんて、期待しない方がいいわよ」
オルグならアビスの本当の年を知ったとしても、態度を変えることはしないだろう。フォルテはそう言いたいらしい。
「す、すまない。俺がいた世界では上下関係が厳しくて、つい」
「騎士団みたいなところにいたんだよな。あの体術もそこで習ったのか?」
「はい! じゃあない。うん、そうだよ」
軍で習ったことを実戦して魔物を倒した訳だけど、訓練の時より体のキレがよく、思った以上に動けたのはアビスにとっても予想外だった。
「すごいわ。このナイフ」
シャンテが見せて欲しいというので渡したら、いきなり魔法を掛けて査定しだした。
「材質が表示されないのはたぶん、この世界にない素材だからじゃあないかしら」
城ではアビスを鑑定するのに、国宝だという魔道具を使っていたが、シャンテはより精度のいい鑑定を魔法を使っているようだ。
「こいつはなんだ?」
「スタンブリッドガン。強力な飛び道具なんだが、充電切れで使えないんだ」
首を捻るオルグに詳しい説明はせず、次はついでに持ってきた、スーツの左手首にあった端末のボタンも押してみる。
「ソーラーセルのおかげで、こいつは電源が入るな」
しかし当然の如くどことも通信は繋がらない。
一緒に飛ばされているのではと、期待した機動兵器のシステムコンピューターへ、アクセスコードを送ってみたが反応をすることはなかった。
「……なぁ、みんなはなんで、これだけの能力を持ってるのに、G級なんてランクなんだ」
気持ちを切り替えて、仲間だと言ってくれるみんなに、思い切って聞いてみた。
「正直に言えば、俺達はC級の仕事をこなすことはできる。けどまぁ……、答えはちょっと待ってくれ」
自己紹介1つするにもまだ、距離感を計らないといけない関係であるらしい。
アビスは冒険者になる3回目の適性検査、これをクリアーすれば正式に冒険者デビューを果たせる。
同時に正規メンバーとしてエンシェントに所属することとなる。
最初は採取の仕事をこつこつとこなして、生活の糧を得られれば、それでいいと考えていたが、彼らとならもう少し良い暮らしができそうな気がする。
今日も魔物討伐の依頼を請け負ったオルグ達に付いて、森の中に入っていた。
「わりぃ、抜かれた! アビス、そっち頼む」
小さくて素早いハリイタチがオルグの脇をすり抜けた。
最近大量発生して、近くの畑を荒らすからと、間引きをして人里に出て来ないようにして欲しいという依頼。
推奨ランクはIクラス以上。
王都から少し離れた農村での依頼。村を出た辺りから討伐を開始して森に入り、周囲を片付けたら、一端様子を見る事になっている。
「ごめん、こっちも!」
オルグとフォルテが1人10匹ほどを相手している間、シャンテの隣で彼女を守る役割をもらったアビスに、2匹の魔物が同時に飛びかかってきた。
「任せろ!」
と言ったが、アビスのナイフ術では一匹がやっと。
魔物のスピードを考えると、シャンテでは反応しきれない。
「任せなさい!」
フェルマンは手にしたメイスで殴りつけ、全身の針を立てて体当たりしてくるハリイタチを、攻撃ごと潰した。
「ごめん、俺だけじゃあ守れなかった」
「何を言っている。それはこちらも同じだ。わたしだけではシャンテを守りきれなかった」
「ああ、いいコンビネーションだったぜ2人とも」
多くの魔物に囲まれていたオグルとフォルテが戻ってきた。
「終わったようですね」
「ああ、あの村を縄張りに入れている群れは、たぶん今ので最後だ。後は、王城がハリイタチの異常発生の原因を突きとめて、対処してくれるだろう」
大きな仕事は騎士団が対応する。
この都市には他の町のような、高位の冒険者は必要ないとされているが、今回は結構な報酬が期待できそうだ。
「今日は、ちょっとだけ豪勢にいこうか」
「またそうやって。次の依頼があるかも分からないんだから、倹約するのよ」
エンシェント1のしっかり者、シャンテが締めたところで、今回の冒険は終了。パーティーは王都に引き返した。
「それにしてもミニウムの魔法は便利だな」
「ふふん、魔法を掛けた対象物を小さくする魔法よ」
「冒険者パーティーには必須の魔法だけど、本来は宮廷魔法使いクラスじゃあないと習得できないのよね。我が妹ながら天晴れだわ」
倒した魔物はその場で解体し、売れそうな物は回収。
アビスが最初に参加した採取依頼の時も、本来は持って運ぶ必要はなかったけどさ、冒険者のなんたるかを学ぶには、必要な経験だっただろう? とオルグは笑って言った。
「運ばされたのが、こんなに鋭く尖った針でなくて良かったよ」
ギルドで依頼達成の報告と、ハリイタチ達から剥ぎ取った堅く鋭い針が付いたままの毛皮を換金し、報酬と合わせて、そこそこ懐が暖まったエンシェントだったが、やはりオルグが望んだ豪遊に、シャンテが頭を縦に振ることはなかった。
いつも通りの食事をして、いつも通りの安宿に戻ると、オルグが全員を男子部屋に集まらせた。
「先ずはアビス、お前のランクがJからIに昇進した事を祝いたい」
Jとは見習い以下をさしていて、冒険者ランクの十段階はトップにSを置く、A~Iまでを言う。
冒険者としてのイロハを覚え、指導役をしてくれた上位の冒険者から、太鼓判をもらえたらJは卒業なのである。
「ここからが本当の冒険者なんだな」
「おお、頑張れよ。それからみんな、俺達のグループランキングがGからFに上がった」
「やっとか……」
「長かったわね」
「それじゃあ、これで?」
フェルマンが歓喜し、フォルテが溜め息をこぼし、シャンテが身を乗り出した。
「いったい、なにが?」
「ああ、お前にはまだ話してなかったな……」
「ちょっとオルグ!」
オルグの話の続きが気になるが、なぜか激怒するシャンテが割って入ってきて中断する。
「何でもっと早く言わないのよ。豪遊とはいかなくてもちゃんとお祝いすべきだったでしょ」
明日はお祝いするわよと言うシャンテから、オルグは会話の主導権を取り戻して、アビスに本題を聞かせる。
「俺達はこれである人との約束を果たすことができた。だから王都を離れようと思っている」
前に聞いた時は教えてくれなかった、オルグ達がこの都を離れず、実力に見合わない低ランクの依頼を受け続けていた理由。
「ある人って?」
「その人物についてはまだ言えない。けどこれは話しておくよ。俺達は冒険者としてFランク昇格をする必要があったんだよ。その理由を作ったのはローランド国だがな。これでようやく王都を出ていける」
お前も来てくれるよな? と聞かれて、アビスは2つ返事で首を縦に振った。
「本当にいいのか? 自分で言うのもなんだが、俺なんかを信用できるのか?」
「ホンの少しだけだけど、冒険者でやっていけるかもって、思えるようになった。それもこれもみんなのおかげだし、足を引っ張るとは思うけど、他のパーティーを探すより、連れて行ってくれるなら有り難いよ」
左手に填めた端末は今もちゃんと動いてはいるが、どこからも応答はない。やはりこの世界で今の現状を受け入れて、なんとかして生きていくしかない。
「そうか、けどこれから俺達が向かうのは、ちょっと遠いが、この国の隣にある魔族領だぞ」
「魔族って……」
オルグが真顔になり、アビスの覚悟を再度問うてきた。
シャンテとフェルマンに教えてもらい、この世界のこと、この国のことを少しだけ知っているアビスは本気で驚いた。
この世界では絶えず、人間と魔族が緊迫した状態で領土争いをしている。
ここ王都からはまだ離れてはいるが、その領界を押し合いしているのが、人間の王国ローランドと魔族領アバランシアである。
「戦場に向かうってのか?」
「正解だけどちょっと違う。俺達が目指すのは戦場じゃあない」
よくよく聞けば戦場に間違いはないそうなのだが、元々は人間と亜人が共に暮らすローランド王国とは異なる国家があったとか。
「多くの亜人はローランド王国では奴隷扱いを受けているが、亡国ではそれこそ魔族とも国交を開いていた、どちらかと言えば人間の国との仲の方が悪かったな」
フェルマンは訪れたことはないがと付け加え、そこを目指すのはオルグの意志だとアビスに告げる。
「もう一度聞くぞアビス。俺達に付いてきてくれるか?」
オルグがもう一度聞いた。
アビスがこの世界に喚ばれたのは、王国が魔族と戦わせるためだった。
残念ながら勇者どころか、英雄にも戦士ともたり得なかったアビスは放置状態となり、冒険者の道を選んでオルグ達と出会い、冒険者のなんたるかを教わった。
この王都で下級冒険者として、生活に必要な最低限は学んだ。当分1人でも簡単な依頼を受け、1人でも生きてはいける自信はついた。けれど……。
「……連れて行ってくれ。俺は話した通り、一度死んだ身だ。だからってもちろん、またあっさりリタイアしたいわけじゃあない。けどみんなの役に立てるなら」
アビスの決意を聞いて、オルグは首を縦に振った。
明くる朝、エンシェントは冒険者ギルドに行って、王都の冒険者登録を抹消し、都を跡にした。




