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Act-14 『 護衛 』



 クラフエからフィーレへ向かう、四頭立ての大きな駅馬車と、前後を護衛する小さな馬車が二台。


 先頭を走る馬車には、護衛依頼を受けたエンシェントが乗る。ただしアビスとシャンテの姿はない。


「随分と高いところを飛んでいるのね」


 補助シートに無理矢理乗り込んできたシャンテ。

「あまり低いと怪しまれちゃうからね」


 飛行形態時コクピットは装甲の外に出る。キャノピーは透明素材でできているから、眺望はすばらしい。少女は目を輝かせて景色を堪能している。


 パイロットスーツはアビスの一着しかない。彼女にはシートベルトをしてもらっているが、安全とは言えない。それでも少し機体を傾けたくらいなら問題はなさそうだ。


「確かにアビスが言う通り、馬車があれだけ小さく見えるってことは、下からはマインさんもただの鳥に見えるものね」


 仲間たちはホーネストという名が、どうもしっくりこないようで、このアーガスの事を“白鎧のマイン”と呼んでいる。


「キレイねぇ~、このまま何事もなければいいのにね。ねっ、アビス」


 女神によって元の1/10にされたとしても、1.2トンあるホーネストは馬車には乗れない。だからこうして上空を付いていっているのだが、そのスピードは恐ろしく遅い。


「このくらいの距離なら、目的地まで数分で到着できるんだけどな」


 クラフエに着いた日の夜は新月、アビスはホーネストの性能テストを行った。


 縮小した機体は馬力も落ちているかもと、かなり心配したのだが、エナ神から貰った魔石は、アビスが注ぎ込む魔力次第で、融合炉をはるかに上回る出力を生み出し、飛行速度で例えるなら、元のサイズよりも速くなっていた。


「クフエラからフォーレまで4日かかるのよね。明日のお昼にはラフエンの町に着くんだっけ、馬を休ませて翌日に再出発」


 シャンテが手にするメモには、大まかなスケジュールが書かれている。


 問題が起こらなければ4日の午前中にフォーレに到着し、午後から遺跡に入る手続きを済ませる予定だ。


「1日12時間から16時間の移動をして、野営は二回ね」


 この世界は地球と同じ。1日を24で分けて、更に60、そして60で刻んでいる。ホーネストの時計と1分1秒も狂わず一致する。マインに教えられて驚いたものだ。


「馬車一つくらいなら、ホーネストで運べるんだけどな。2時間あればフォーレまで行けると思うんだけど」


 時間を掛けて移動すれば、それだけリスクも高くなる。


「悪目立ちしたくないでしょ。貴方の中の常識は、この世界の非常識よ」


 言われてみればそうかもしれない。ここは時間がかかっても、不自然にならない行動をするのが得策。


「けど、なんでわざわざ護衛依頼を受けたんだ?」


「路銀稼ぎの為よ。これが冒険者の日常」


「冒険者の仕事って多種多様だよな」


 それもアビスが知らないこちらの常識。


「ごく稀にだけど、街道に魔物が現れる。なんて事もあるしね」


 交易路を外れなければ、王国が整備した道に、迷い込む魔物はそうはいない。


「強力な結界を施した、魔石が道沿いに埋められているんだったっけ?」


「そうそう、だからやっぱり一番多いトラブルは……」


 交易路を使えば、当然の事ながら野盗に襲われやすくなる。


「けれど交易路は主要都市間に、5本から7本のルートが用意されているわ。野盗に出くわすなんて不運としか言えないけど、見つかったとしたって、護衛の冒険者もいるんだもの、簡単に襲われることはないでしょう」


 駅馬車の護衛依頼を受けられるのは、パーティーランクF以上。


 パーティーランクFと言えば、王国兵士団の1小隊に匹敵する。下手な野党風情では太刀打ちできない。


「護衛の対象はラッド商会、大店おおだなの元締めで、王国でも有名な守銭奴よ」


 大店を構えた事で、王家からラッドの家名を頂いた有名人。


 コーザ=ラッドも大きな商談なら兵士の護衛を依頼するらしいのだけど。


「兵士が護衛につけば、例え100人を超える大盗賊団でも、下手に手を出してはこないわ。もし王国兵士が1人でも怪我をしたら、容赦なく野焼きをしてでも、一人残らず根絶やしにしてしまうから」


 王国は無駄金使いと言われようと、名誉のために大軍を差し向けてくる事を、賊徒も理解している。


「だから大抵の金持ちは、軍の詰め所で手続をして、兵士の護衛を頼むの。依頼費が法外でもね」


 王国に納めるお金と、参加した兵士1人1人に渡すチップ。


「それをケチって、一般の客に交じっての行商、護衛をつけるとしても安くすむ冒険者を雇うって噂。本当だったみたいね」


 盗賊が駅馬車を襲う事はほとんどない。襲ったところで大した稼ぎにはならないからだ。


「それをこんな風に冒険者パーティーを、2チームも護衛に付けるくらいなら、兵士の一人でも雇えばいいのに……」


 シャンテの心配はもっともな話だ。ただの駅馬車に目立つ護衛。金づるがそこにいる証拠になるが、護衛の中に兵士がいると考えるのが普通。


「襲われない理由に、襲われる理由か」


「アビス、どうしたの?」


『センサーに感あり、行動パターンから群体と予測、熱源反応から人間と断定、数は47です。マスター』


 地図と照らし合わせてみたが、このあたりに集落などはない。


「シャンテ、魔法で君は自身の防御を最大限固めて、その持ち手も絶対に離さないで」


「なななっ、まっ、待って待ってって、ひゃあ~~~~~」


 アビスはホーネストを急降下させる。


 その最中に人型へ変形、更なるGが二人を襲う。


 パイロットスーツを着ていてもキツイ。普段着のシャンテは魔法がなければペシャンコになっていただろう。


「馬車が止まっている。オルグ達が外に出ているぞ」


「とめとめとめとめ……とめてぇ~~~~~」


 着地の寸前に逆噴射、そこでシャンテは言葉にならない悲鳴を上げた。


「だ、大丈夫か?」


『意識不明、ですが生命活動に異常は無し、ただ気を失っているだけです。マスター』


 シャンテには悪い事をした。後で平謝りして、どうにか許してもらおう。


 アビスは外部スピーカーのスイッチをオンにした。


『オルグ、どうなってる?』


「おお、アビス。じゃあないや、マイン。えっとだな……」


 後続の馬車が止まったので、先頭の馬車に乗るオルグ達は降車したのだが。


「な、なんだなんだそいつは!? どこから現れた!」


『よかった、みんな無事なようだな』


「って、無視してんじゃあねぇ!?」


『なに? こいつら』


「俺達と同じ、雇われた冒険者だが……、たぶん盗賊の仲間だな」


「そぉ~の通り! 俺はベルド・ファミリー傘下の冒険者パーティー゛紅の挽歌"、リーダーのハルマン様よ」


 男の手にはナイフ、片手締めにして拘束しているのは件の商人。猿轡さるぐつわをされて「ふがふが」言っている。


「それでハルマンサマの後ろで、他の客や御者を襲っているのが、仲間の冒険者って事だ」


『なるほど』


 つまりは大ピンチと言う事だ。


「分かったら大人しく俺達に狩られな!」


 紅の挽歌は男ばかりの6人組、人質は商人を入れて4人。


「狩られろだって? 狩られるのはそっちだろ。えとっ、ハルマンサマだっけ?」


 オルグは抜剣して目の前の男を挑発する。


「お前! このハルマンをバカにしているのか!?」


「ハルマン? なんだハルマンサマって名前じゃあないのか? いやいやバカにして言ったわけじゃあないぞ」


「そうじゃねぇ! いや、それも許せねぇが、なに余裕かまして剣を構えてやがる! おい、武器を捨てろ!!」


 ハルマンは商人を部下に預け、ナイフをしてて剣を抜いた。


「人質を殺されたくなかったら動くなよ。乗客は1人でも死んじまったら、護衛報酬は激減するんだって、知ってるよな」


 それがどうした。自分が死んでは報酬もなにもあったもんじゃあない。オルグは本気でそう思っている。だけど今は身の危険を感じる場面ではない。


「短いつき合いだったが、あばよエンシェント」


 ハルマンが聞いた悲鳴は後ろからだった。驚いて振り返る男もまた、同じ悲鳴を上げる。


「安心しなよ。まだ殺したりはしないから」


 振り返ったハルマンの背中を斬りつけたオルグが、仲間にハンドサインで感謝を送る。


「2人ともサンキュな」


「あんたと、派手に登場してくれたアビス、じゃあないマインが、こいつらの気を引いてくれたから、簡単に後ろを取れたわ」


 フォルテが3人を殴り倒し、フェルマンが神聖術で2人を麻痺させた。


「形勢逆転ってとこだな」


「まっ、まだだ! この辺りは俺達の仲間が包囲してる」


「アっ、マイン。どれくらいやった?」


『さぁ、降りてくるついでだったからなぁ。一応47人、全員に当たったとは思うけど』


 胸部ガトリングガンは弾がないので使えない。だがアビスはふと思いついて、イメージしてみた。


『小さな魔力で作り出した仮の弾丸だから、そんなに威力はないと思う。けど雷魔法を併用したから、当たったヤツはしばらく動けないんじゃあないかな』


 落下のGが強かったが、照準はマインに任せたので狂いはないはず。


「簡単に片付いたな。そんじゃア~~~マイン。シャンテにロープをもらって、こいつらを拘束しよう」


 リーダーに言われて、アビスはサブシートに目を向ける。


「……どうした?」


『あ~、いや、えーっとだな』


 エンシェントで回復魔法が使えるのは、魔法使いのシャンテだけ。しかし彼女は今、魔法が使える状況ではない。自己回復は望めない。


「なにかあったのか!?」


『問題はない。問題はないはずなんだけどな……」


 マインの見立てでは、シャンテはただ寝ているだけ。


 寝ているだけなのだから、時間が経てば目を覚ますはず。


 だけど今、シャンテに預けられている道具を、彼女に元のサイズに戻してもらいたい。ができない。


『そうだ、フェルマンも癒しに似た、神聖術が使えるんだよな』


 治療が必要なのではないが、目を覚ましてもらうには体力を回復してもらわないといけない。


 癒しの奇跡なら回復魔法と同じ効果があるはず、アビスは仲間の神官のいる場所にホーネストを向かわせた。

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