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崩壊の始まり

 自分の所為で、ユウジに大怪我をさせてしまったと責任を感じたセリアは、その日からユウジの傍に付き添うようになる。怪我が治るまで、冒険者の仕事はロイドが1人ですることとなった。


「ごめんね、ロイド。本当はわたしも一緒に行きたいけど……」

「大丈夫だって、危ないクエストは受けないからさ。それよりも、ユウジさんの事は頼んだぜ」

「うん、ありがと……行ってらっしゃい」


 そんな2人の様子を見ていた、ユウジはほくそ笑む。

 いつも一緒に過ごしていたはずの2人を引き離し、更にセリアの心に大きな負い目を残すという想像以上の成果を得たからだ。





 ……あの時。宿で思いついた後、ユウジが取った行動は2つ。

 ひとつは、魔物を違法に扱っている馴染みの商人に指定の場所で魔物を数匹放つように頼んだこと。

 そしてもうひとつは、一定時間だけ魔法による効果を無効化する薬を購入したことだ。


 本来この薬は、強力な魔法を使う魔物対策のために売っていた代物だったが、そもそも魔法を使う魔物自体がこの辺にはいなかったため、殆どの冒険者からその存在を忘れられていた。


 事前に魔物が襲ってくることを知っていたユウジは、セリアを庇う直前にその薬を飲み、あえて攻撃を受けた。セリアは傷ついたユウジを治そうと懸命に頑張ったが、当然効くはずもない。


 そして魔法による治療が効かなかったと2人はギルドへと報告していたため、ギルド側も襲ってきた魔物が魔法に干渉する特殊な毒を持っているのだと信じて疑わなかった。


 この街にも一応医者はいたが、魔物の毒などについての怪我は専門外だった。

 そのため未知の傷に対して下手な治療をすることも出来ず、最低限の治療をするだけにとどまってしまう。


 軽い手当てを受けたユウジは宿へと戻り、2人にしばらく怪我の治療に専念したいと伝えた。

 傷を抑えながら苦しそうな素振りを見せると、セリアはすぐにユウジが治るまで傍に付き添いたいと申し出る。


「わたしを庇った所為で、ユウジさんは怪我をしたんです……だからせめて、治るまでお世話させてください‼」

「セリアちゃん……僕としては助かるけど、ロイド君はいいのかい?」

「セリアがそうしたいなら、俺が反対する理由なんてありません。それに、もしユウジさんが庇ってくれなかったら、今頃セリアは大変な事になってたかも知れないんです……‼ 本当に、セリアを護ってくれてありがとうございました!」

「顔を上げてくれ、僕は当然の事をしただけさ」


 全てが自演だとも知らず、涙を流しながら恋人を護ってくれた事に感謝するロイドを見て、ユウジは心の底から彼の事をマヌケなゴミだと思った。






 ***





 それからセリアは、毎日片腕が不自由なユウジを一生懸命介護した。彼の痛ましい姿を見る度、罪悪感から謝ってしまうセリアに対して、ユウジは慰めるような言葉を沢山掛けた。


 そんなに謝らなくてもいい。

 君は悪くない。

 仲間なら助け合うのは当たり前だ。


 欠片も思っていない、上辺だけのそんな言葉にセリアは涙する。


「自分の所為で怪我をしたのに、逆に励ましてくれるなんて……何て優しい人なんだろう」と、やがて彼女は、彼を尊敬するようになった。それに伴い、無意識にあったはずのユウジに対する警戒心も崩れていく。


 怪我をする前よりも積極的に笑い、話しかけてくれるようになったセリアを見て、ユウジはようやくチャンスが来たのだと確信した。


 ……そして、遂に。


「セリアちゃん、少しだけ顔を近づけてくれないかい?」

「あ、はい! どうしたんですか、ユウジさん?」


 ユウジの言葉に何の疑いも持たず、セリアはベッドに座っているユウジの隣に並び、彼と目線を合わせた。2人で見つめ合っていると、突然ユウジは軽く笑いながら話し始める。


「こうしてセリアちゃんを見ていると、改めて思うんだ。あの時、君を助ける事が出来て良かったって」

「ユウジさん……」

「こんな傷跡が、君に刻まれなくて良かった……。セリアちゃんの元気な姿を見ていると、それが実感できるんだ」


 ユウジの言葉に感動し、ポロポロと大粒の涙を流すセリア。

 そんな彼女に、ユウジが真剣な瞳を向けながら最後にこう言った。


「君を護る事が出来て、本当に良かった」


 この時、ユウジに見つめられながらその言葉を聞き。

 セリアは一瞬だけ……ほんの一瞬だけだったが。


 ――ユウジの事を仲間ではなく、1人の男性として意識してしまったのだ。

 その一瞬が命取りとなり、ユウジの瞳を通じて魅了魔法がセリアの心の中に入り込んでしまう。


「あ、れ? なんだか……わたし」


 ほんの僅かな違和感、今はまだそんなものであった。

 しかし、セリアの心はこの瞬間から確実に汚染され始めた。


 今はまだ正常な心を保っているが、心の防壁は入り込んだ悪意によって既に破壊され、無防備そのものとなっていた。


「……どうしたんだい? セリアちゃん」

「あっ……いえ、なんだかちょっと変な感じがして……」


 困惑しているセリアを見て、ユウジはニヤリと口角を上げる。

 自身の魅了が無事に掛かった事を、確信したからだ。


「少し疲れたのかも知れないね。今日はもう帰って休むと良い。また明日、宜しく頼むよ」

「ごめんなさい、ユウジさん……また来ますね」

「ああ――明日を、楽しみにしてるよ」


 セリアが部屋を出て行くと、ユウジは狂ったように(わら)った。


「ひひっ、ようやくだ。すぐに僕のモノにしてあげるからね、セリア」


 下腹部を熱くしながら、ユウジは下卑た情欲を剥き出しにした。



 今日もセリアは、帰ったらロイドと楽し気に話し合いお互いを労うのだろう。

 だが、そんな幸せも近い内に終わりを迎えようとしていた……。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ユウジは心の底から彼の事をマヌケなゴミだと思った。 ゴミがなんか言ってら
[一言] うわぁ…ってなりました...
[気になる点] (僕は韓国人です。日本語が下手なので、ご了承をお願いします。) やはり、魅了と洗脳でしたね。 しかし、セリアも弁解の余地がないのが、自分の恋人ではなく、他人が与えたものを疑うもせず…
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