侵入した悪意
その後、ユウジは2人の情報を集めるためにすぐに動き出した。
2人の担当をしている口の軽い受付嬢にお酒を差し入れると、ペラペラと2人の情報を話してしまう。
その結果分かったのは、2人の名前と出身地、あとは性格などであった。
名前はロイドとセリア。何でも田舎の村から冒険者になろうと奮起し、1か月くらい前に2人でこの街まで来た駆け出しらしい。
性格はどちらもお人好しで、あまり人を疑わない……ようするに馬鹿で丁度良い獲物だとユウジは思った。
「あと、あの2人絶対付き合ってるわよぉ! 隠してるつもりなんでしょうけど、クエストを報告し終わった後なんて、お互いにぎゅっと手なんか繋ぎ合っちゃってさ、初々しいったら……ああ、ホント若いっていいわよねぇ‼ 羨ましいいい」
「素敵じゃないですか。恋人同士で冒険者になるなんて」
ユウジの肩を叩きながら、めんどくさく絡んでくる受付嬢に彼は内心イライラしつつも、笑顔を張り付けたまま合わせる。
そして知りたい情報を全て引き出した後、彼はすぐにその場から離れた。
本来であれば同じギルドに所属する冒険者同士といえど、個人の詳細な情報を口外するなど重大な職務違反だった。
しかし、酷く酔っぱらっていた所為か、彼女はユウジに話したことを一切覚えていなかったのだ。
***
情報を手に入れてから数週間が経ち、なんとか2人の間に入れないかと度々様子を伺っていたユウジだったが――そのチャンスは突然やってきた。
なんとパーティ募集の掲示板に、2人の名前があったのだ。
募集要項には拙い文字で、2人共まだ駆け出しであること。迷惑を掛けるかも知れないが、一緒に助け合える冒険者を希望していることが記載されてあった。
それを見たユウジはニヤリと笑うと、すぐにパーティ申請をした。
2人にとって運が悪いことに、初心者2人のパーティ募集など命を落とす危険が高いため、結局ユウジの他には誰も申請する者など居なかった。
そして、遂に……。
「募集を見て来ました。僕で良ければぜひパーティに加えて貰えませんか? ずっとソロでやってきて腕には多少の自信はあるので、足を引っ張らない事はお約束しますよ‼」
彼は2人の間に入ることに成功した。
爽やかな紳士のような笑顔を張り付け、あたかも初対面であるかのように振舞ったユウジを、2人は何の警戒もすることなく受け入れてしまったのだ。
「こちらこそ、宜しくお願いしますユウジさん!」
「わたし達こそ、ユウジさんの足を引っ張らないように頑張ります!」
間近まで来た2人がユウジに一生懸命頭を下げてくる。
そんな中、ユウジはロイドの事など歯牙にも掛けずセリアの事を舐めるように見つめた。
彼女の顔、それから身体に目を移し、やがて服の上からでも分かる胸の位置で視線が止まる。
そんな彼の様子に2人は気付くことなく、メンバーが見つかった喜びを分かち合っていた。
「それにしても、ユウジさんみたいな良い人が来てくれて本当に良かったぁ」
「ふふっ、誰も来ないんじゃないかってずっと不安がってたもんね、ロイド」
「ああ‼ 笑うなよ! セリアだって少し不安がってたじゃないか‼」
「で、でもわたしは……ロイドの募集なら絶対大丈夫だって信じてたもん……」
「えっ、あっ、え~と……それはなんていうか、ありがと」
「……えへへ」
2人が惚気始めても、ユウジは気にすることなくセリアの事をたっぷりと見つめた後。汚物でも見るような目をロイドの方へと向け、こう思った。
――呑気に笑ってられるのも今の内だよ、ロイド君。お前の幸せ……ソックリ僕が貰ってやるからな? ククッ、そのブサイクな面を、すぐに惨めな顔に変えてやるよ。
「あっ、ユウジさん……その、すみません。俺達いつもこんな感じで」
「はは、微笑ましいじゃないか。何だか、良いパーティに入れたようで嬉しいよ」
「お世辞でもそう言ってくれると、助かります」
「お世辞じゃないさ。うん、本当に――僕は、とても運が良いよ」




