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恋の手合わせに気を付けよう  作者: 石里 唯
番外編:恋は手合わせで手に入れよう
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番外編:ある日の夜

お立ち寄り下さりありがとうございます。3話中の3話目です。

夜の闇が濃く、静けさが重さを感じるほどに立ち込めた時間、

僕は愛しい人を腕に抱え込みながら、まどろみ始めていた。

このまま幸せな眠りに入るはずだったが、どうも具合が違う。

いつもは彼女も肌を重ねた余韻の中で穏やかな眠りにつくのに、今日は、僕の中の彼女の魔力が緊張を帯びている。


しばらく待っても彼女は僕に訳を話してくれない。

僕は彼女に向き直った。

「どうしたんだい?」


彼女は固く目を閉じた後、勢いよく目を開け、その瞳に僕を映した。

彼女の魔力は僕の動きを止めそうなほど、緊張している。僕は息を吸い、彼女の言葉を待った。


「ずっと知りたかったことがある」


少し肩透かしを食らった気がした。

僕が教えられることで、彼女がここまで緊張する必要があることなどない気がする。

次の言葉を待っているうちに、彼女は僕から視線を外し、夜目でも分かるほど頬を赤らめた。

僕はこの顔に弱い。

そして、先ほど肌を重ねたばかりでは、もう一度肌を重ねたい思いが湧いてしまう。

僕は慌てて話を促した。


「何でも聞いてほしい」


彼女はまだしばらく頬を染めたまま瞬きを繰り返し、僕を悶えさせたが、ようやく口を開いてくれた。


「どうしてそれだけ上手いのだ?」


…え?


何が上手いのだ?分からない。

明るいうちにこの感情に囚われるのはよくあることだったが、寝台で囚われるのは初めてだった。

どうやら僕の奥さんはまた違う世界を僕に見せてくれるようだ。

けれど、僕の予想は外れていた。彼女の魔力はピリピリと痛い程強くなっている。

これは、怒り…?どういうことだ?

彼女の思考について行けない僕は、肌を刺すのではないかと思われるほど棘のある魔力と共に彼女に詰め寄られた。


「一体、どれだけの人と寝たんだ?」


…は?


ぼんやりと彼女の思考に追いつき、その途端、僕は頬が熱くなるのを感じた。

つまり、彼女は夜の営みのことを――

今度は僕が彼女から視線を外し、口元に手を当て動揺と向き合う番だった。

彼女の魔力が一段と棘を増す。

彼女が誤解を深めているのは明白だ。

僕は諦めて、何とか彼女に話し出した。


「僕は、君の兄上ほど上品な育ちはしていないんだ」


彼女は何を誤解したのか、火柱を上げ、慌てて消している。


僕は息を整え、順に話し出した。


僕には預言がされていた。フィアスの救い主という随分たいそうな預言だ。

その預言で僕の身を案じた父は、幼いころから僕に大人の護衛を付け、最終的にはその数は5人になっていた。

彼らは元騎士であり、剣の腕は一流だったが、近衛のような上品な育ちではない。

そんな男性が5人集まり、休み時間に一番盛り上がって話し出す話題は――、まぁ、つまるところ、そういった夜の話だった。

お陰で、僕はその話題が理解できるようになった頃には、経験はなくとも知識だけは豊富に身に着けていたのだ。


「ふーん、ダンスはできないのに寝ることはできるのかと疑問だったのだが、なるほど」


僕の奥さんはようやく分かってくれたらしい。

魔力が馴染みのある温かいものに戻っていた。

僕が安堵の息を吐いたとき、彼女はもう一度僕に詰め寄った。

夜の海を思わせる瞳が、キラキラと輝いている。

何か嫌な予感がした。

急いで話題を振ろうとしたが、彼女の動きの方が早かった。

僕を寝台に押し倒し、上に圧し掛かった彼女は声を弾ませて僕に言う。


「では、その5人分の経験を是非、私にも伝授して欲しい。実地で」


一瞬の脱力の後、僕は笑い出してしまった。

やはり彼女には敵わない。

僕は身を反転させ、彼女を下に横たえてから、囁いた。


「お望みのままに」


僕の中の彼女の魔力が熱く駆け巡り、僕たちはもう一度肌を重ね合った。




お読み下さりありがとうございました。

一度完結した話ですが、思い立って番外編を書いてしまいました。

お付き合いくださいました全ての皆様に感謝申し上げます。

ありがとうございました。

皆様のご多幸を心よりお祈り申し上げます。

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