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恋の手合わせ

お立ち寄り下さりありがとうございます。今回はやや短めです。

この世の誰よりも大切な女性から決闘を申し込まれた。

彼女から溢れ出る殺気を否が応でも目の当たりにして、そのことに驚くことはなかった。

これほどの殺気は、生死をかけた手合わせに相応しい。


しかし――、理解できるかどうかは別問題だ。


なぜ、決闘?


彼女の殺気は更に険しさを増し、肌が焦げ付くような気配を体のあらゆるところで感じながら、何とか彼女を理解しようと考えを巡らせる。


決闘、――つまり僕に死んでほしいということだ。

確かに婚姻前の女性と一夜を共にしてしまった。

僕が負ければ、彼女の名誉が保たれるということなのだろうか。

それなら、誘わなければよかったのではないか?


僕の混乱を他所に、彼女は剣を構える。気迫が剣の先まで満ちた素晴らしい構えだ。

彼女は本気だ。


「待ってくれ」


今やすっかり口癖となったこの言葉を、呟いていた。

そして、いつも通り、彼女はこの言葉を無視する。


「いざ、尋常に勝負!」


たった今、いきなり「決闘」を申し込まれて、なぜ「尋常に」勝負しなければいけないんだ!

僕は決闘を受けた覚えはない!


そんな僕の思いはやはり無視され、彼女は切れのある跳躍と共に、自分に飛びかかってきた。

条件反射で剣を抜き、彼女の攻撃を受け止める。

そして「決闘」は始まった。


彼女に対し剣を抜くことへの躊躇いは、2度目の彼女の剣を受けた時に消え去った。

「決闘」であることも消え去っていた。

彼女の攻撃は、別人のような見惚れるほど完成されたものだった。

今の手合わせの前では、これまでの彼女との手合わせは子どものお遊戯だ。

今の彼女が放つ振りは、どの振りも、気迫に満ち、研ぎ澄まされ、受ける度に肌に緊張が走る。

この究極の攻撃をいつまでも受けていたい欲に駆られたが、長引かせれば、彼女は魔力を最大限に込めて攻撃を繰り出すはずだ。


今の僕には守護石がない。

確実に生き延びるためには、すぐにでも決着をつけなければいけない。


それに――、恐れが胸の内で湧き上がっている。

彼女の魔力が出る以前に、余裕のない自分が、いつ本気で彼女に剣を向けてしまうか分からない。

彼女は意図して防御を捨てている。彼女のこの究極の技は、攻撃に専念したことから得られる、捨て身の技だ。


けれど、彼女に傷を負わせることは、どんな傷でも自分が許せない。

――つまり、取るべき行動は一つだ。


一際速い彼女の剣を受け流した後、

僕は覚悟を決めて、間合いに飛び込んだ。

相手の首元に目掛けて、剣を突き出そうとしたその瞬間、

身体の内に熱いものが駆け巡り、全身が警鐘を鳴らした。


地面を蹴って離れようとしたが、間に合わなかった。

彼女の剣から炎が放たれる。

宙で受け身を取りながら炎を避けたが、彼女が間合いを詰めるのが目に入った。


地面を転がり、距離を取ろうとしたが、それを彼女が許すはずがない。彼女は間合いをさらに詰め、剣を振った。


その時間はほんの刹那だったはずだ。けれど、まるで時を止められたかのように僕の全ては彼女の剣の振りに釘付けにされた。


一切、迷いのない、無駄のない動きだった。

僕の首元の、まさに紙一重の距離で振り下ろされた剣は止まった。

女性ではやや低めの、だが、凛とした声が響く。


「私の勝ちだ。あなたの命は私のものだ」


僕は試合の、いや、「決闘」の集中が途絶え、ぼんやりと彼女を見上げた。

鍛え上げられた、それでも猫のようなしなやかさを備えた彼女の体は、この瞬間も、美しい姿勢を取っている。

やや細めの瞳が、勝利の喜びを隠すことなく輝いていた。


くそっ


僕は心の中で悪態を吐いた。


こんなときでも僕はこの瞳に目を奪われる。

決闘を挑まれ、渾身の攻撃を向けられても、この瞳から目を逸らせない。

この輝く笑顔は彼女に似合うと、愛しさがこみ上げている。


どこまで彼女に惚れているのかと、気が付けば笑い出していた。




お読み下さりありがとうございました。ようやくここまでたどり着きました。お立ち寄り下さった皆様のお陰です。ありがとうございます。順調に進めば、後3話で完結です。

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