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初めての手合わせ2

お立ち寄り下さりありがとうございます。

彼女と向かい合って、剣を構える。

彼女の顔つきが一段と凛としたものになる。

僕もゆっくりとした呼吸で集中を高めた。


そして、彼女は突然仕掛けてきた。

予想通り、俊敏な動きだ。

受け止めた剣の重みはセディのものより少し軽いものだった。

恐らく、途中から魔力で重くなるのだろう。

僕たちはしばらくの間、剣を交えていたが、僕は違和感が拭えなかった。

どうも彼女の剣にためらいがある。

思い切った攻撃をしようと途中まで素晴らしい速さで剣を走らせ、そして、急に鈍くなる。

ふと、その理由に思い至った。

彼女の剣を弾き返し、充分に間合いを取った。


「シャーリー、存分に魔力を使って欲しい」

彼女の目が見開かれた。


「僕はセディ…、セドリック様の魔力の剣しか経験していない。圧倒的に経験不足だ。僕を君の魔力の剣で鍛えて欲しい」

彼女は息を呑んだ。

胸から銀の魔法石を取り出した。まだ僕が危機を感じていないので、石は光を放っていなかった。

「セドリック様と存分に手合わせするために、ハリーが作ってくれたんだ。僕の怪我を気にする必要はないよ」


口には出さなかったが、セドリック様によると強力すぎる結界から、シャーリーの心配を僕がしなければいけないだろう。


シャーリーの頬が上気した。目も輝いている。彼女にとても似合う意思を持った輝きだ。

やがてゆっくりと彼女は剣を構えなおした。

「私は、追い詰められないと魔力が剣に乗らない。そちらこそ全力でお願いする」


どうやら様子見をしていたことが、手加減と捉えられてしまったようだ。

思わず緩みかけた口元に力を籠め、ゆっくりと息を吐きながら剣を構えた。


今度も彼女は突然間合いに飛び込んでくる。

彼女らしさを感じる、堅実な剣の振りだった。

このまま魔力のない剣を受けていたい気もしたが、それでは意味がない。

僕は彼女の喉元に突きを繰り出した。

彼女の受けが遅れ、ギリギリのところで剣が受け止められた時――、

彼女の剣が炎に包まれた。

始まる――!

ゾクリと歓喜が僕の背を駆け抜けた。

全身の神経を研ぎ澄まし紙一重で炎を避け、避けた反動を使って彼女に剣を振る。

彼女は難なく受け止めた。どうやら魔力で体の敏捷性も上がるようだ。

彼女の攻撃を躱しながら、何とか剣を振ることを数回繰り返し、僕はセディでは試せなかったことを試した。

彼女の炎を避けながら剣を振り、あえて、間合いに飛び込んだ。


「お見事」


彼女の声が絞り出された。

僕の剣は彼女の喉元で止まっていた。


「ありがとう」


剣を戻すと、彼女は悔しそうな顔を収め、背筋の伸びた見惚れるほど美しいお辞儀をした。

僕も心を込めて礼を返す。


「セバスチャンが飲み物を用意してくれたようだ。一息つかないかい?」

彼女は目を瞬かせた。

どうやらセバスチャンが用意していたことに気が付いていなかったらしい。

セディとの練習の時のように、僕は地面に腰を下ろしかけ、相手が女性であることを思い出し途中で動作を止めたが、彼女は頓着せずに僕より早くに腰を下ろした。

彼女らしい気もした。

程よく冷やされた果汁が、喉に心地よい。

練習の後の、この穏やかな時間が好きだ。心地よさに気が緩み、言葉が漏れていた。


「魔力を使うことに、遠慮があったようだね」

グラスを持つ彼女の手が、ピクリと動いた。


心の中で、僕は更に付け加えた。

それに彼女が気づいているかどうかは疑問だったが、遠慮は最後まで完全には消えなかった。セディとの練習では必ず光を放つ守護石は、今日は沈黙したままだったのだ。


彼女は、しばらく恐い程グラスを凝視していたが、ぽつりと呟いた。


「認めたくないのだが、手合わせで魔力を使うことに、引け目を感じているのかもしれない。剣の力だけでないことに卑怯さを覚える」


僕は目を瞠った。

「どうして?」

彼女はグラスから目を離し、僕に振り向いた。彼女の青い瞳と口は開かれていた。

「どうして?」


彼女は本気で僕の問いが分からないらしい。

何やら、また会話が成り立たなくなる岐路に立っているようだ。

だけど、僕はこの理由は知りたかった。

せっかくの素晴らしい剣の使い手が、自分の力を存分に使わないなんて、もったいない。

諦めずゆっくりと話を続けてみることにした。


「シャーリー。僕にとって、手合わせは命を守るための、生き延びるための練習だ」


彼女は頷いた。ここまで理解があって、結論が違うのは、やはり分からない。

彼女の本気の剣を見てみたかった。きっと、誰もが時間を忘れて見惚れるに違いないはずだ。

僕がセディの剣を受け止めるときのように。

だから、僕はもう少し踏み込んでみた。


「生き延びるために、持てる全てを使うのは当然じゃないのかい?」


瞬間、彼女の周りの空気が熱くなった。

何だろう?

思った時には、彼女は立ち上がっていた。僕も慌てて立ち上がる。

彼女は鬼気迫る勢いで僕の胸元を掴んで叫んだ。


「カエルを集める趣味はないか!?」


「…は?」


カエル…?


彼女の言葉を精一杯消化しようとしている間に、彼女は転移で消えていた。


カエル…?

彼女の思考があまりにも分からなくて、気が付けば僕は声を上げて笑っていた。


お読み下さりありがとうございました。

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