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なすべきこと

お立ち寄り下さりありがとうございます。

結局、対岸から4家族がウィンデリアへの移住を決断した。

彼らを受け入れたその後、辺境伯が手配した砦の修復のための人と資材を、ハリーが力技で転移し、急ごしらえの仮の木の柵が作られていった。

出来上がった木の匂いがまだ強い新しい柵は、対岸が全く見えなくなるまでにそびえ立っていた。

大量の難民を一度に受け入れることは難しく、やむを得ないと分かっていても、その柵を見ることは、両国の隔てを明らかにされ、気持ちを重くした。


目を背けようとしたとき、セドリック様が柵を睨み上げて立ち尽くしているのが目に入った。

砦を壊したフィアスの住民への怒りだろうか。

そうではない気がして尋ねてみた。


「どうしたのです?」


一瞬、体がピクリと動いたものの、やはり立ち尽くしたまま、セドリック様は呟いた。

「対岸の村とは交流が築かれていた。僕がもっと有能だったら、こんな柵は作らなくても良かったかもしれない」


息を呑んで、隣の整った横顔を見つめた。天使の瞳は燃えるような激しさで、柵を睨み続けていた。


「いつか、この柵を無くして見せる…!」


熱い囁きに、僕の胸まで熱いものがこみ上げた。

そうだ、今は柵が出来てしまっても、将来まで決まったわけではない。

セドリック様はいずれウィンデリアの中枢に位置するようになる人だ。彼が柵を無くすことを志すなら、僕も諦めてはいけない。

ベインズに戻ったとき、いや、まずウィンデリアでできることを探さなければ。


ふと、ウィンデリアに来た当初、ハリーに言われた言葉が脳裏によぎった。


――「お前はなにより自分の命を守ることに専念しなければならない。自分のなすべきことを探すのはまだ先だ」――


遅すぎた感が否めないが、なすべきことを探す時が来たのだろう。

僕はセドリック様が柵から目を逸らすまで、隣で柵を見続けていた。



こうして視察は終わった。

ハリーの転移で公爵家に戻ったセドリック様と僕は、その足で報告のために公爵の部屋に赴いた。

セドリック様の報告を聞く公爵の顔は、普段の威厳のあるものだったが、時折、微笑みが微かに浮かんでいた。

セドリック様の今回の決断と行動は、親として、宰相として、頼もしいものだったのだろう。

「…以上で報告は終わりです。ですが、父上、いえ、宰相」

セドリック様は公爵の瞳を捉えた。

「いつかあの柵を無くして見せます」

揺るぎない決意に、公爵は一瞬喜びを抑えることを完全に失敗した。

頷きながら目を伏せ、表情を戻した後、公爵は僕に視線を向けた。


「息子の護衛を務めてくれて、ありがとう」

「いいえ、僕は護衛の責を果たすことはできませんでした。心からお詫びいたします」

「それは、僕の独断で!」


公爵はセドリック様に頷いた。

「自分の立場をわきまえ、今後は軽率な行動は控えるようにしなさい」

セドリック様が神妙に頷くのを確認した後、公爵は再び僕を見た。

「セディの独断以前に、フィアスの宰相のご子息に、護衛を頼むこと自体が本来は許されるものではない。君が気に病む必要は欠片もない」


隣でセドリック様が息を呑み、こちらに視線を向けたのを感じた。僕の詳しい出自はセドリック様には伝えられていなかったようだ。


「国を出て、こちらに保護して頂いている身です。御恩のある方の大切なご子息を護らせていただくことに父も異論はないはずです」


公爵は首を微かに横に振った。僕は意思を乗せて公爵の瞳を見た。

確かに、貴方の意図はそもそも「護衛」ではなかった。フィアスの問題をフィアス出身の僕からの視点で判断させることが本来の意図だったはずだ。


「今回、同行させていただいたことに感謝しています。僕は、フィアスのために自分にできることを見つけていきます」

公爵の顔がまた明るくなり、そして目が伏せられた。今日の公爵の顔の筋肉は忙しいようだ。


「ですが、即座に見つかるものでもありません。まず手始めに柵を無くす意志を持ったセドリック様を護り、その意志を支えたいと思います」


公爵が再び首を横に振り、セドリック様が抗議のために口を開いたのが見えたが、僕はそのまま続けた。

「もちろん、守ることの中には、5人に取り囲まれても魔法を使わずに逃げだせるように鍛えることも含まれています」


今回、セドリック様が対岸に転移したとき、教え切れていないことが山ほど脳裏を駆け巡った。安全なうちに教え切らなければいけない。


「「…5人…」」

親子はぴったりと息の合った呟きをもらした。


「それ以上の人数から逃げ出す技術は、僕には備わっていません。別の師匠をお付けください」

「いや、充分だ」

公爵とセドリック様は、ピタリと同時に額に手を当てていた。

セドリック様は見た目こそアメリア様と瓜二つだが、中身は公爵と似ているようだ。

二人は疲れたように溜息を吐き、僕が護衛をすることに反対することを諦めた。


妥協の案として、僕になすべきことが見つかったときは、ただちに護衛を辞めること、

なすべきことを探す時間を確保するために、護衛は多くて週の半分とすることを約束させられた。


こうして僕は週の半分はセドリック様の護衛に付くことになった。




お読み下さりありがとうございました。第2章は後1話になりました。

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