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初めての舞踏会2

お立ち寄り下さりありがとうございます。

喜色満面のアメリア様から渡された夜会服に身を包み、ローベック侯爵家にレスリー殿と到着した。


そして、今、僕は固まっている。


社交に出たことがない僕は、招待客に目新しかったのだろう。気が付けば、色とりどりの美しいドレスで着飾った若いご令嬢たちに囲まれていた。

広間に入ったときには方々に僕を紹介してくれたレスリー殿は、僕から離れて男性と話し込んでいる。不覚にもレスリー殿が離れていったことに全く気が付いていなかった。

レスリー殿は気配を消して、遠ざかったのではないだろうか――、そんな疑問を覚えたが、後の祭りだった。

助けはないと思った方がいい。

僕は背中に汗がにじみ始めたのを感じていた。

今日まで分かっていなかったが、どうやら自分は女性に近寄られるのが苦手らしい。

ダンスを踊っていなくても、頭が白くなり始めた。


いや、厳密に言えば、夜会ドレスに身を包んだ女性が苦手なようだ。

なぜ、女性の夜会ドレスはここまで胸ぐりが深いデザインなのだろう。

少し視線を下げ過ぎると、胸が見えてしまう。

胸に視線が行かない様、首を固定しすぎて首筋が痛んできた。

ご令嬢方はいつまでここにいるつもりだろう。


他の同じような歳の男性はどうしているのか、ご令嬢に気づかれないように視線を辺りへ動かしたかったが、首筋の強張りで上手く視線を動かせない。

どうしたら脱出できるだろうか。

頭が白くなるだけでなく、呼吸まで苦しくなってきた。脱出しなければならない。


焦りでご令嬢たちとの会話も疎かになりそうになったとき、一人のご令嬢――バーバラ伯爵令嬢が僕の腕に手を絡めてきた。

何とも言えない柔らかな感触が腕にあった。

胸に腕が当たっている…!

失礼にならない様、腕を胸から外そうとしたとき、バーバラ嬢が声をかけてきた。

「チャーリー様。ダンスはなさらないのですか」


その言葉でご令嬢たちの空気が変わった気がする。

帯剣していれば、思わず剣に手をかけていただろう。

緊張に満ちた空気を感じながら、僕は閃いた。

どなたかをダンスに誘えばここから脱出できるのだ…!


そして、疲労が襲い掛かった。

誘えないじゃないか…

俯きそうになった僕はバーバラ嬢が僕を見つめて返事を待っていることに気が付いた。

男性同士でないと踊れないことを伝えて信じてもらえるだろうか、信じてもらうために、分かりやすく単に踊れないと伝えれば、「教えて差し上げる」と言われそうな気配もした。

額にまで汗を感じた時、天啓に打たれた思いがした。

セドリック様を思い出したのだ。

最近、殿下と共に夜会に顔を出すようになったセドリック様は、夜会での初めてのダンスはシルヴィア嬢と踊りたいという望みから、ダンスの誘いを受けても殿下の護衛を名目に断っていると聞いた。


「実は、自分と踊ってほしいと思っている女性がいるのです。彼女と踊れる日までダンスはしないと願をかけているのです」


真実味のある理由が浮かんだことに――僕の真実ではなかったが――、思わず笑みがこぼれてしまった。

ご令嬢たちの空気が、「ほうっ」という吐息とともに柔らかくなった。

どうやら信じてもらえたようだ。


しかし、レスリー殿と屋敷に戻る時間まで、頭が白くなりながら何とか意識を保ったものの、冷静な思考が出来なくなっていたらしい。

セドリック様のお陰で僕はダンスに誘われることはなくなった。けれど、ご令嬢たちから逃れる手段を自ら失ってしまったのだ。

そのことに思い至ったとき、思わず馬車の中で頭を抱えてしまい、レスリー殿の嫌味のない笑いを聞く羽目になった。


加えて、翌日、アメリア様からこっぴどく叱責された。

僕には、他の誰とも踊らない程踊りたい女性がいる、そんな噂が広く社交界では駆け巡ったようだ。


お読み下さりありがとうございました。かなり短いものとなり申し訳ございませんでした。

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