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執事の深い溜息

お立ち寄り下さりありがとうございます。本日、話が短いため2話投稿しています。こちらは2話目です。

それはチャーリー様がいらしてから一月余り経った日の朝食の席でのことでした。


今日も、食堂に旦那様たち4人がお揃いで、いつものように食事をなさっていたのです。

交わされる話はいつしか、チャーリー様の「護衛」のことに移っていきました。

チャーリー様は「自分のような未熟で若輩なものが公爵を護衛する設定は無理がある」とおっしゃると、旦那様が剣技大会に出るようにお勧めになったのです。


ハルベリー侯爵があれほど高く評価なさっていらっしゃるのに、チャーリー様はご自分のことを評価なさっていません。

チャーリー様は旦那様の案に疑問を覚えたようです。


「しかし、それで結果が出なければ、却って設定に無理が生じるのではないでしょうか」


「レスリーの見立ては確かだ。万一、レスリーが耄碌したとしても、『将来見込みがあると感じた』と言えばよいだろう」


旦那様は食後の紅茶に口を付けられました。

チャーリー様はまだ納得のいかない表情のまま、つられたように紅茶に口を付けられたのです。


「不安があるのなら無理をして出る必要はないでしょう」


奥様が澄んだ声で意見を述べられたのです。意見は一理あるものでしたが、私は奥様の目に不穏な光を感じた気がいたしました。見間違いであることを祈り始めた時、


「貴方に若い男妾ができたという噂が立つのは楽しいわ」


チャーリー様はむせ返り、そのまま激しく咳き込まれています。

隣の席の若様が背中を摩っていらっしゃいます。

旦那様は、流石に奥様との長い付き合いがものを言い、カップが僅かに揺れた程度で済んでいます。

まだ咳が収まらないチャーリー様に私は近寄りました。

「大変な粗相を…」

咳の合間に、掠れた声でチャーリー様がお詫びなさるのです。

「いえ、仕方ないことと存じます」

私は万感の思いを込めて囁き、チャーリー様の濡れた手を拭いました。

それにしても、奥様も、稚い若様の前では教育上よろしくないお言葉は控えていただきたいものです。

若様が先ほどの言葉を覚えてしまったらどうなさるおつもりです。


「母上、そのような社会的に問題な言葉は屋敷の中だけにして下さい」


若様は淡々と奥様に注意なさっています。どうやら、若様はとうにご存じだったようです。複雑な思いがいたします。

ようやく咳が収まったとき、チャーリー様はまだ呼吸が落ち着かない状態のまま、旦那様を見遣りました。


「是非、大会に参加させてください。全力を尽くします」


旦那さまが大きく頷き、チャーリー様の参加が決まったのでございます。


お読み下さりありがとうございました。完結した暁には、ダンスの練習についてセバスチャンが奥様に頑張ってみた話も投稿したいです。

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